第6話 投獄
木の葉々の間から柔らかな木漏れ日が降り注ぐ。
王宮の裏庭。めったに人が訪れない広場にぽつんと大木が大きな傘を広げている場所。
ここは俺のお気に入りの読書スポットだ。
今日の午前中は歴史学、午後は法学の授業の予定だったがいずれも中止となった。
稀に一つの科目が家庭教師の体調不良などで中止になることはあった。しかし二科目以上が同時に中止となり、休暇に変わることは今までになかったことだ。
俺は大木によりかかり好きな読書を楽しんでいる。
ポカポカ陽気で時折意識が飛びそうになるが、それがまた至福を感じられて心地いい。
幸せな気分でうつらうつらとしていた時、この素晴らしい場所にそぐわない衛兵が3名、こちらに向かってきた。
「ルーカス殿下」
「なに?」
俺は不機嫌であることを隠そうとせずに答える。
「殿下にクーデターの嫌疑がかかっている為に拘束させていただきます」
「は!?」
俺は衛兵二人に強引に立たされ、そして引きづられるようにして連行される。
「な、なんだ一体!? 俺にクーデターの嫌疑だって? あり得ないだろう!?」
「我々は命令されているだけですので……」
申し訳無さそうに衛兵の一人は答える。
こうして俺はそのまま、王宮にある薄暗く薄汚い地下牢へとぶちこまれることとなる。
「一体どういうことなんだっ!?」
牢獄の鉄格子を隔てたその先にあるのは執事セバスチャンの姿だ。
「殿下がレジスタンスに荷担し、クーデターを企てた嫌疑がかかっております。ベェルガー商会の内部から告発者が出たようです」
「はあっ!? 告発者だって? 誰が一体!?」
「エイブという青年になります」
「エイブ!? ……会ったこともないし、聞いたこともない名だぞ。一体なんでそいつが……?」
地下の牢獄内にある蝋燭の火が、時折流れてくる外気によって揺らめいている。
「わかりません。そしてその青年は告発後に何者かによって殺害されました」
「は!? 一体、どういう……」
「恐らく、殿下は嵌められたかと……」
「……嵌められた?」
俺の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは第2王子のブルータスの顔だ。
無実の罪を着せてまで俺を陥れたい程、憎んでいる人物といえば彼ぐらいしか思い当たらない。
他に思い浮かぶのは王位継承争いか……。
だけど俺は公妾から生まれた王子の中では末席の身。
現状、第1王子のテオドールに王位継承は確定しているようなものなので、王位継承争いで俺を排除する動機にはならない。
数年前に当時の第3王子が不審死した。食後の急死で毒殺も疑われたらしいが、王族相手もあってなのか捜査は早々に打ち切りになり、真相は闇の中だ。
可能性は低いが権力争いで暗殺などされたらたまったものではないので、個人的にはなるべく目立たないようにしてきたつもりなのだが。
だとしたら一体誰が……やはり、ブルータスか?
「……私の方でそちらはお調べいたします」
「よろしくお願いします……母上とティアナは?」
「残念ですが、肉親との面会は禁じられております。嫌疑が嫌疑ですので……」
「そうか……まあ、まったくの濡れ衣なんだ。なんとかなるでしょう! 父上だってこんなの見過ごさないはずだ!」
「………………」
俺のその楽観的見解についてセバスチャンは渋い顔をしたままで何も答えない。
「……いずれにしましても、一刻も早くここから出られるよう尽力いたします。今しばらくお待ちください」
バタン……
セバスチャンが去る時、地下牢入り口の扉の閉まる音が、俺の他誰もいない牢獄内に寂しく響き渡る。
固いベッドに寝転がり、天上についたシミを見つめる。
まさか自分が牢屋にぶち込まれるとは想像だにしなかったことだ。
母上、とくにティアナは大丈夫だろうか?
寂しい思いはしていないか?
この冤罪、謀略のせいで二人はまずい立場に追い込まれてはいないだろうか?
そう考えると俺は居ても立っても居られなくなり、牢獄内をウロウロと動き回る。
散々落ち着き無く動き回った後、また固いベットに腰をかける。
情報が欲しかった。
一体、誰が、何の為に?
俺を嵌めることで利益を得た人間がいたはずだ。
王子の中では末席で何の権勢もない男であるが、少なからず王族を嵌めたのだ。
嵌めた人間はリスクを負っている。
くそっ! 自由の効かない、投獄された身であるということが恨めしい。
その時、俺は鉄格子を目にして、もし、俺が上級魔法を使えたら――という仮定が思い浮かぶ。
それであればこんな鉄格子なんか炎によって溶かすか、または、凄まじい暴風によって建物ごと倒壊させるか……。
最も、もし俺が上級魔法を使えたらこんなチンケな牢ではなく、もっと厳重な牢と警備とを用意するだろうが。
固いベットに寝転がる。
天井には不気味な、見ようによっては人の顔にも見えるようなシミが広がっていた。
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