第5話 食事会
「失礼いたします」
給仕によって運ばれてきたのはコース料理の前菜だ。色とりどりの野菜にスモークサーモンが添えられている。
今夜は王とその子息の王子たちの夕食会だ。
第1王子から末席の俺、第7王子までが揃い踏み、一つのテーブルで夕食を楽しんでいる。
「父上、べェグナー地方の税収ですが前年より比べて、1.5倍も増えました! これも一重に私が行った改革による成果です!」
「そうか、べェグナー地方の税収が1.5倍か。よくやったな、ブルータス」
王はブルータスに向けてグラスを掲げて賛辞を送る。
第2王子のブルータス=マグレガーは王のその賛辞に、白くよく肥えたその顔を上気させて得意げな顔をしている。
合理化という名目の元に行われたその改革は、領地運営に必要不可欠な設備投資を大幅に削ったらしい。
領民たちの反対を押し切り、強引に進められた改革は非常に評判が悪く、政治にまったく関心のない俺の耳にまでその悪評はとどろいている。
「兄様の統治されているレンダル地方も順調のようですね」
「まあな、無能な官吏たちを大幅に入れ替えて俺好みにしたら、うまく回るようになった」
第1王子のテオドール=マグレガーがブルータスの方を見ようともせず、食事を口に運びながら応える。
こちらもまた独裁統治として官吏たちの評判は悪い。
だが破綻寸前だった財政の建て直しがされ、その財政手腕は高く評価されている。
テオドールは優秀だが王と同じく冷淡な性格をしており、そして厳格な階級主義者でもあった。
「我ら王族は優秀ですね。それに比べて同じ王族であるはずのそこにいる第7王子ときたら……」
俺は素知らぬ顔をして、食事を口に運ぶ。
「おい、聞いているのか! お前だ、お前っ、ルーカス!」
「ああ、私でございますか。何でしょう兄様」
「お前また家庭教師の成績で不可を取ったらしいな! 王族の恥晒しの知恵遅れが! 俺や兄様、他の弟たちの爪の垢でも煎じて飲め!」
「………………」
俺はそれを無視してなるべく自分の感情を表情に出さないように気をつける。
俺の知る限りブルータスも当時は俺と変わらないような成績だったはずだ。
テオドールのような成績優秀者だった者に叱責されるならまだしも。自分と変わらないような者から叱責をされても、お前はどうだったんだと逆に問い正したくなる。
この第2王子のブルータス。
何が気に入らないのか彼は幼少の頃より俺を目の敵にしてことあることに、俺に攻撃をしてくる。
他の王子たちとはまったく違う白髪に白眼という自分の容姿。もしかしたら俺のそんな容姿も彼が俺を毛嫌いする要因の一つとなっているのかもしれない。
「はっ、何も反論できないのかこの知恵遅れは!
魔術の適性だけは高いものもあるそうだが、いずれも初級の魔法しか扱えないらしいじゃないか? 父様、このぼんくらは駄目ですよ! 将来の見込みがまったく有りません!」
「まあ、そう言ってやるな。長い目で見てやれ」
ブルータスは父のその言葉を受け、苦虫を噛み潰したよう表情でワナワナと俺を睨みつけてきている。
魔術の適性のないこの男は、適性が有り、何かと王に気にかけられている俺が憎くて仕方がないのだ。
俺はそれを無視して、黙々と食事を口に運ぶ。
そもそもが道理の通じない相手なので相手にしてもエネルギーの無駄遣いというものだ。
せっかくのご馳走がブルータスへのムカつきのせいでまずくなったようだった。
「兄様! なんとか言ってやってください! 将来国を背負って立たれる身として、このようなふざけた弟を許していいのですか!?」
第1王子のテオドールはブルータスのその言葉を受けて、面倒くさそうに俺に眼差しを向ける。
俺に向けられたその眼差しは血の繋がった兄弟に向けるべきものではなく、何かゴミでも見るような眼差しだ。
「ふん、放っておけ。あいつが何をしようが、何を成そうが我ら王族に影響などまったく無い」
「そ、そうですよね! ゴミ虫が何をしようが我々に影響などある訳がない! さすがお兄様です!」
俺は王子の中でも公妾から生まれた末席の王子だ。
テオドールの中での俺は同じ兄弟という位置づけではなく、身分の低い何か、という位置付けなのだろう。
俺は憮然としながら食事を続ける。
ブルータスの因縁が飛び火するのを恐れて他の第3王子以下は口を開かない。
いつしか夕食会で会話はなくなり、ナイフとフォークと食器とがこすれる音だけが室内に響いていった。
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