第4話 強襲
「こちらの絹織物を仕入れて、王都で販売しようかと考えています」
「いい品質ですね。これなら高値で売れるでしょう」
母の執務室の扉を開くとそこにはお抱えの商人がおり、何かしらの商談をしているようだ。
「こんな品質のいい絹織物が地方で埋もれているとは掘り出し物でした。エムリーヌ様から地方商人の紹介を頂いたおかげです」
王宮には有象無象のさまざまな人間たちが王室に取り入ろうとやってくる。その中で母が出会った商人に有益な情報を提供してきた者がいたのだろう。
「それはよかったです。それでは引き続きお願いしますね。それで……来ましたね、ルーカス」
母のエムリーヌが入室してきた俺に気づく。
「これはこれは殿下。お邪魔しております」
俺に愛想よく挨拶をしてきたのはベェルガー商会の実務の長で最高幹部のラフテルだ。
ベェルガー商会は母の実父が長となって運営されている商会だ。
母も商会の運営に関わっており、こうして取り扱い品目のチェックや助言などをしている。
一方、ラフテルの後方に控えた、同じくベェルガー商会幹部のドイルは愛想笑いを浮かべてペコペコと挨拶をしている。
このドイルという男が俺は苦手だ。
俺や母にはゴマをすり、媚びへつらってくるが、目下の者の部下や利害の絡まない相手になると途端に横柄になるという噂だった。
ベェルガー商会は昔、一地方の小さな商会に過ぎなかった。
だが母が王の公妾となって俺を生んで、王侯貴族の一員となってから。娘のその権勢を利用して、今では王都の中でも勢いがある新進気鋭の商会の一つとして周知されている。
「それではこの辺りで我々は失礼いたします」
「ご苦労様でした」
俺は執務室を出ていったラフテルとドイルの二人に変わって応接用の椅子に腰掛ける。
「それで、今日の授業はどうでした?」
「えっと……普通に授業をしていましたが、途中で適性検査を受けて、それで今日の授業は終わりました」
「なるほど、適性検査の結果はどうでしたか?」
「え? いや、とくに前と変わりがないと言われましたが……」
俺がそう述べた後、母の目つきが一瞬剣呑になった気がした。
「なるほど…………それより、この絹織物を見てみて! これをベェルガー商会が扱えるようになったのですよ!」
「あ、ああ、そうですか……」
正直、母が力を入れている商会の運営に興味は持てなかった。
将来的にはおそらく俺もなんらかの形で関わって利益の分配を受けるようにはなるのだろうが、商売には興味が持てない。
気のない返事をし、それに対して不満そうに頬を膨らませている母の表情が「あっ」というものに変化する。
俺は自分の後方から何者かからの殺気を察知する。
何かを振りかぶっている気配……。
来るっ! と思った瞬間に俺はその攻撃を交わすためにしゃがんだが――
パーーーーーーーンッ!
小気味よい音が部屋内に鳴り響いた。
「兄様! 隙有りでございます!」
振り返ると、してやったりという満面の笑みを浮かべている俺の妹の姿あった。
後ろに潜んでいた妹の手には、稽古用の竹で作られた剣を更に子ども用に小さくされたものが握られていた。
そしてその剣は俺の顔面に直撃している。
子どもが振るった稽古用の剣といえど顔面に直撃すると結構痛い。
「腕を上げたな我が妹よ! そなたもそろそろ免許皆伝となる日も近いであろう」
「本当でありますか兄様! 免許皆伝となった日にティアナは冒険の旅に出とうございます!」
「そうか……だがその為にはセバスチャンからも一本を取れなくてはな!」
俺が剣術の免許皆伝持ちの師匠で妹のティアナはその弟子という設定だ。
まだ6才の妹を冒険の旅などに出せるはずもなく、共犯かつ、大きな壁として執事のセバスチャンを指名する。
「むぅー、じいも相手ですか……強敵ですね……。それより、兄様! この前の冒険の続きを読んでください!」
妹のティアナは棚に走っていって一つの本を大事そうに抱えてくる。
そしてその本を俺に手渡した後に俺の膝にちょこんと座る。
俺が前はどこまで読んだかとめくるページを目をキラキラと輝かせながら見ている。
ティアナは最近ではもっぱら冒険小説を俺に読んでもらうことにハマっていた。
稽古用の剣を母にせがんで買ってもらったのも冒険小説の影響だ。
俺は先ほど、強撃されたヒリヒリする鼻を撫で、膝上の重みを感じながら前回の途中からのその冒険小説を読み上げていった。
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