第44話 白の魔術師
「…………」
突然何の前触れもなく処刑台に上がってきた男。数秒の静寂の後、民衆たちから驚愕の歓声が巻き起こる。それと同時に衛兵たちが駆けつけて処刑台を取り囲む。
前世の『俺』、ルーカスは驚愕の表情で俺を眺めている。
「部外者は処刑台に上がらないで下さい! 衛兵による排除を実行します! 抵抗すれば命の保証はできません!」
処刑人は有無を言わさない調子で大声を張り上げて俺に警告する。
そこで俺は懐から兄弟団のペンダントを取り出し、皆が見えるようにそれを掲げる。
「えっ、兄弟団がなんで?」
「何が起こってるんだ!?」
民衆たちがどよめく。
「きょ、兄弟団と言えど処刑を妨害する権利は有していません!」
「だが捜査権限はいついかなる時にも有しているはずです! 今回の処刑について兄弟団の第4階位団員のウィルが意義を申し立てます!」
処刑会場が混乱の渦に飲み込まれる。衛兵たちはすでに剣を抜き、槍を俺の方へと向けて、今にも飛びかかってきそうだ。
処刑人のジェラルドは判断に困り、お伺いを立てるようにとマグレガー王へと視線を向ける。
マグレガー王は立ち上がり片手を前方にかざして、
「邪魔者はこの場で排除しろ! 殺してもかまわ……」
「まあ、待て」
そかに神級の魔術師オリガが制止をするように片手を掲げて隣のマグレガー王に声をかける。
鶴の一声とはこの事だろう。民衆たちを含め、会場はシーンと静寂に包まれる。
「白髪白眼の二人目の男が登場とは面白い。いいぞ、ウィルと言ったか? 続きを申してみよ」
「ですが、オリガ殿」
「白髪白眼の男を排除する、というのは決定事項じゃ。わしがいるかぎりそれは覆らん、安心せえ。さあ、ウィルとやら」
オリガはおそらく処刑の経緯、謀略の詳細などは把握しておらず単純な好奇心より聞いているのだろう。
一方、俺が何を言うつもりなのか薄々感づいているマグレガー王は苦虫を噛み潰したような顔をしている。俺の口を封じたいがオリガに逆らう事はできないという状態なのだろう。
「オリガ様、こんな下賤な平民が申すことなど聞く必要はありません! 即刻、有無を言わさず処刑すべきです! 高貴な我々の目の前にその下賤な汚れた身を晒すなどもってのほかでございます!」
そこで唐突に第2王子のブルータスの横槍が入る。それにオリガは眉をひそめる。
「第2王子は随分とイラついていらっしゃるようですね。普段摂取している違法薬物のソーマがきれてしまっているのではありませんか?」
「違法薬物だって?」
「第2王子が? ほんとうか?」
俺の突然の告発に民衆たちがザワつく。
「だ、黙れ! この下賤でイカれた平民が! お、お、俺がソーマなど摂取しているはずがなかろう!」
「であれば、検査を実施致しましょう。王族主体での検査ではなく、公平な利害関係のない第三者を入れた検査を。そうすればどちらが嘘をついているかはっきりします」
「ば、ば、ば、バカな検査など! お、俺は王族だぞ! そんなものは……」
「我々、兄弟団は王族に対して逮捕権は有しておりませんが、捜査権限は有しております。検査をし、その結果を国民に公表する。その後は王に判断を仰う。で何も問題はないと思いますが」
「そうだそうだ、やましいことがなければ検査を受けられるはずだろ!」
「検査を受けろ! 身の潔白を証明しろー!」
民衆たちからも次々と声が上がる。
第2王子のブルータスはマグレガー王に助けを求めるように視線を向けるが、マグレガー王はそのブルータスに剣呑な視線を向けている。
そのマグレガー王の様子からマグレガー王はブルータスの麻薬摂取を知っていたが黙認していたのだと思われた。
「どうでもいいが」
オリガのその一言で再度、処刑会場は静まり返る。
「わしに意見とは、小僧、死にたいのか?」
オリガから強烈な殺気が発せられる。
まるで突き刺さるかのような殺気だ。
民衆たちからは所々で悲鳴まで聞こえてきた。
「め、め、めっそうもございません。オリガ様の仰せのままにいたします」
今にも泣き出しそうな調子でブルータスは応えた。
「ふん、まあいい。ウィルとやら、続きを話せ」
全員の視線が俺に集中する。その中でもマグレガー王とブルータスは憎々しげな視線を俺に向けてきている。
「それでは、第7王子にかけられた嫌疑。レジスタンスに参加し、王の暗殺を企てたという嫌疑ですが、こちらは全くのでたらめです」
民衆たちは騒然となる。
「で、でたらめだと! 何を根拠にそんな事、言ってやがるんだこのど平民が!」
性懲りもなくブルータスは俺に突っかかってくる。
「今、この場におりませんが、その第7王子の告発をしたベルガー商会所属のエイブという青年を私が匿っております。今この場にはおりませんが必要があればいつども招聘が可能です」
「なんだって、じゃあなんで第7王子は!?」
「一体どんな理由で無実の罪で告発されたんだ?」
「後ちょっとで処刑される事だったじゃないか!」
民衆たちの混乱の度合いが高まっていく。
「う、うるさーい! 下賤な平民どもが好き勝手言いやがって! 処刑だ、処刑!! おい、衛兵ども、さっさとルーカスとそこのウィルとかいう奴を殺してしまえ!!」
まで駄々っ子のようにブルータスが喚き散らす。当然、そんな道理が通るはずもなく。
「ブルータス! お前はもう黙ってろ!」
マグレガー王の雷がブルータスに落ちる。
「しかし、解せんのう。一体誰がそのエイブとか言うやつをそそのかしたのじゃ? 第7王子を嵌めて処刑する事になんのメリットが?」
オリガは薄っすらと笑みを浮かべながら俺に問いかける。おそらく俺の言葉をここまで聞いた彼女には真相はもうある程度予想がついたのだろう。
「皆さん、白の魔術師を知っていますでしょうか?」
ざわつく民衆たちからは誰もそれを知っているという声は上がらない。
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