第43話 処刑当日
処刑場の最前列。早めに到着した事もあって観覧には特等席ともいえるその席を確保する事に俺は成功した。
処刑台の向かいには民衆たちが観覧するスペースがあり、その裏側に貴族や王族連中が鎮座する貴賓スペースがあって、その中央にはマグレガー王が鎮座している。
王族の中には前世の母や妹の姿は見つからなかったが、兄弟の王子たち、第一王子に第二王子の姿は確認できた。
第二王子のブルータスの表情からはこれから起こる事への期待が伺われた。第一王子や王の表情からその感情は感じ取れない。第七王子の処刑などただの行事で何も感じていない可能性もある。
貴賓スペースの顔はほとんどが前世で見知った顔であったが、王の隣で王と同じように偉そうにふんぞり返っている座っている女性がいる。
女性は背格好からは少女のようにも見える。誰だろうかあれは?
それに神級の魔術師もどこからか処刑の様子を監視しているはずだが、そちら姿も今の所、確認できていない。
黒い祭事のような衣装を着て頭巾をかぶった男が処刑台に上がってきた。
「私が本日処刑を取り仕切らせて頂きます、処刑人のジェラルド = セオドールといいます。本日は私と、後はこちらの処刑執行人のランス = セオドールにて処刑を執り行います」
おおーーという歓声が民衆たちから起こる。
処刑人はれっきとした貴族だ。
処刑など人から忌み嫌われる行為ではあるが、王族は民衆の不満を解消する為の一種の娯楽としての処刑を重要視しており、重要な役割という事で処刑人には貴族階級が与えられている。
「本日はマグレガー王、並びに、王族や貴族の方々も観覧にいらっしゃっています。それになんとマグレガー王の右隣おられるあの方はなんと……隣国の超大国ヴァルミスラ帝国の大公でいらっしゃる、神級の魔術師、炎帝のオリガ = ユージニア様でございます!」
おおーーというどよめきが民衆たちから上がる。
大公とは貴族階級の中の最高位である。通常は王族の親類や王に次ぐ権勢を持つ貴族が与えられる爵位になる。
超大国ヴァルミスラ帝国の大公など、小国のマグレガー王より数段も格が上だ。実際の財力と要する領地の兵力を比べてもマグレガー王国など相手にならないだろう。
なるほど、彼女が神級の魔術師か。数百年の時を生きると言われているらしいが、その姿は年端のいかない少女の姿とはふざけた話だ。
特殊な若返り魔法を行使しているのか、それとも歳を取らない肉体をしているのか……いずれにしても俺たち一般のものたちの常識では測れないのだろう。
「高貴な方々の目前でもありますので、ある程度の節度を皆様方お願いいたします。罪人はもう少しで連行されて参りますので、今しばらくお待ち下さい」
処刑人が述べたその『罪人』という言葉に反発心が生じる。これから連行されてくるのは罪人でもなんでもなく、無実の罪で投獄された無力でかわいそうな男だ。
「おおーーっ!!」
歓声が処刑場の端の辺りの民衆たちから上がる。
ここからはまだ確認できないが、どうやら前世の俺が連行されてきたらしい。
王子に対してやじが飛ぶ。
民衆たちは謀略を背景を知らないにしても、やはり投げかけられるのは心無い言葉ばかりだ。
前世の俺の姿を初めてこの目で目にする。
裸に布をはだけただけのようなみすぼらしい格好。青白い顔をして生気が感じられず、その目からは怯えが感じられる。
第三者として『俺』を確認するとなんだか不思議な感じがする。痛々しいとまでの表現が当てはまる第7王子のその姿。俺はなんだか不思議な違和感と共に、前世の記憶が蘇り心痛を感じる。
裸足の足裏で感じる処刑台の冷たさに、人々の悪意に満ちた視線。あまりにも理不尽な状況、不安と恐怖の極地に立たされた当時の心情がフラッシュバックされるように蘇る。
第7王子はその首を断頭台の中へと強引に入れられる。
「静粛に! 静粛に!」
処刑の執行官が声を張り上げると辺りは静まり返った。
「本日、これより罪人、ルーカス=マグレガーの処刑を執行いたします。罪状はレジスタンスに荷担し、クーデターを企て、国家転覆を図った罪。刑罰はギロチンによる断首となります」
おおぉーーーーーー!
民衆たちの歓声が沸き起こる。
「ざまぁ見やがれ! 何が王族だ!」
「良いもの食って、良いもの着て、享楽を謳歌していたんだろう! 今、どんな気持ちだぁ!」
「重税を課して、自分たちだけはいい思いをしやがって!」
民衆たちから前世の俺に対して罵詈雑言が吐かれる。
そして民衆の誰からか小石が処刑台の第7王子に対して投げ入れられた時――
俺は処刑台へと上がり、その小石を受け止める。
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