第42話 結ばれる二人
「ずっと何か根詰めてるっておばさんから聞いて……」
ずっと白魔法の習得に集中している俺の事を心配した母親からエレナに連絡が言ったのだろう。
「え? ウィル、髪と目が真っ白じゃない! 大丈夫?」
「え?」
俺は机の引き出しから手鏡を取り出して、自分の姿を確認してみる。そこには白髪白眼の自分自身が写っていた。
元の青い髪と青い瞳から徐々に髪も瞳も白くなっているなとは思っていたが、ここ数日で一気に白化が進んだらしい。
「それに……ウィル、大丈夫……?」
不安と恐怖に押しつぶされそうになっているのが表情に出ていたのだろう。幼なじみのエレナの目はごまかせない。
「ん……大丈夫じゃ、ないかな。はは……」
「どうしたの? 何を思い詰めてるの?」
そこで俺はすべてぶちまけてしまおうかという衝動に駆られる。俺は明日処刑される予定の第7王子の生まれ変わりで、ウィルにはウィル自身の記憶は保持した状態で統合人格のような形で転生したと。
「あの……いや、なんでもない……」
……いや、止めておこう。前世からの業は俺だけが背負うべきものだ。
「もう、どうしたのよ! 顔色も悪いよ、ウィル。髪も目も真っ白になって……」
エレナはそう言って近づき、両手で俺の髪や顔を撫でる。
手を伸ばせば直ぐに触れられる距離にエレナが来たことで、エレナへの親愛が、抱きしめたいという衝動が湧き上がる。
だけど俺は明日にも死ぬかもしれないのだ。こうしてエレナと触れ合えるのは、親愛の情を通い合わせられるのはこれが最後かもしれないのだ……。
そうだ……もしも、これが今生の別れになるならエレナに自分の思いを今、伝えるべきではないのか?
唐突に俺の頭にその考えが浮かび、一気に心拍数が上がる。
そうだ、ここでエレナに自分の思いを伝えるべきだ。きっと拒否されない。エレナから感じる親愛の情は錯覚ではないはずだ。そうでなければこんな真夜中に男の部屋に来たりしないはずだ。
よし、伝えよう。
後1分経ったら、いや後2分経ったら。
心臓の音がうるさい。
一世一代のかつてない程の緊張が俺に押し寄せる。
「ねえ、ウィル、覚えてる……?」
「ん……?」
唐突にエレナから問いかけが投げかけられる。
「小さい頃……私が一人で郊外にいって迷子になった時……一人で泣きながら平原を彷徨っていた時にウィルが助けに来てくれた事……」
そういえば確かにそんな事があったような……微かな記憶がある。
「あの時から、私はウィルが何かあった時は私が助けてあげるんだ! って誓ったの。一体何があったの? ウィルあなたひどくつらそうな顔をしてるわ……」
「…………」
迷いは消え、決意は定まった。
俺はエレナの為なら死ねるし、何度でもエレナを助けるだろう。
俺は両手でエレナの両肩を掴み、その瞳を見つめながら、
「エレナ……俺はエレナの事が好きだ。俺と付き合って欲しい!」
エレナは目を見開き、息を呑む。
そして下をうつむいた。
永遠とも思えるような無言の時間が流れる。
うるさいほど俺の心臓は鼓動を早めている。
期待と拒否への恐怖が混じり合ったようなじっとしていられないような感情が押し寄せている。
エレナはその頬を赤らめ、その瞳を少し濡らしてうつむいていた顔を上げる。
俺の瞳とエレナの瞳が合う。
電流のような親愛が俺に流れる。
今すぐエレナを抱きしめたい!
誰にもエレナを渡したくない!
強い激情のような感情を感じる。
「私でよければ……」
にっこりと笑ってエレナは俺にそう伝えた。
「きゃっ」
俺は我慢できずにエレナを抱きしめる。
エレナの華奢で柔らかなその身体を全身で感じる。しばらくしてエレナの両腕が俺の背中に回される。エレナの両腕に力が入るのが分かる。脳髄がしびれるような快感を感じる。
どれだけ抱きしめあっただろう。俺とエレナはお互い見つめ合う。
「エレナ……」
「ウィル……」
心が通じ合っているのが分かる。お互いが相手に対して感じている愛情を感じる。
俺はエレナのその小さな顔を包み込むようにして、お互いの唇を重ねる。
唇が重なった時、エレナの身体がびくっとして、すこし硬直したのが分かる。
だが数秒もするとエレナの硬直は解けて、力が抜けたのが分かる。エレナの両腕は俺の背中に回される。どんどんエレナの体温が上昇しているのが分かる。エレナが俺の背中に回した手に力が入る。
俺はエレナの胸部に触れ、彼女の控えめな膨らみに触れる。
「あっ、ダメ……」
身体をビクつかせてエレナはそう訴えるが、俺はもう止まらない。エレナをそのままベットに押し倒した。
目を覚ました時には窓からはまばゆい太陽の光が部屋の中へ降り注いでいる。
隣には透き通るような白い肩を布団から露出させたエレナの姿があった。
すーすーっとかわいい寝息をたてている。
俺はそっと優しく彼女の頬にふれる。
昨晩の記憶が蘇る。
彼女の吐息を、初めて俺に見せた乱れた姿を。
お互い初めてだったみたいだ。
彼女の初めてで嬉しいという思いと遂にエレナが俺の彼女になったんだという不思議な感覚。
俺が昨晩まで感じていた神級の魔術師への不安と緊張は嘘のように消え去っていた。
変わりに生じたのはエレナの為にも決して死ぬわけにはいけないという強い信念にも似た決意。
俺はまたエレナに救われたようだ。
「ありがとう……」
彼女の頬を撫でながら小さな顔でそう呟く。
「へへへ……」
寝ているはずのエレナが嬉しそうに笑う。何かいい夢でも見ているのだろうか。
俺はエレナを起こさないようにそっとベットから抜け出る。服を来て、鏡を確認する。寝癖などはないようだ。
随分と寝入ってしまった。後2時間くらいで処刑だろう。
俺は書き置きを書いて、ベットの上に残す。
第7王子の処刑の場に行ってくる事。何があってもその場で起こる事を受け止めて欲しい事。そして最後に愛してると書き置きを残す。
昨夜の思い出と色々相まって俺は少し赤くなる。
「じゃあ、行ってくるよ」
俺は寝ているエレナにそう声をかけて、自室のドアを開き、決戦の地へと向かう。
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