第41話 決戦前夜
白の前に他の魔法なく、白の後にも他の魔法なし。すべては白となる。
白の魔術書の冒頭に明記されている言葉だ。まだ全て読み進められておらず、よく意味は分かってない。
だが白魔法というのが一種の反魔法だという事は分かった。通常の魔法の発現をプラスとすると白魔法はマイナスの魔法の発現だ。
通常魔法の効果を打ち消す事もできるらしい。但し効果を打ち消す場合は打ち消す対象の魔法の基本術式レベルは把握しておく必要があるようだ。
俺は自宅の自室で火魔法の小さな炎を発現させる。それに反魔法の白魔法の術式を頭にイメージして……発現して……ぶつけてみる。
小さな炎のオレンジと白とが混じり合う。そしてオレンジだったものがどんどんと白色へと変わっていき、真っ白になった時、その魔法自体が消滅した。
「できた!」
俺は思わずそう呟く。今、白魔法成功したよな? 火魔法の炎を白魔法が打ち消した。
適性がないはずだったのにどういう事だ? 今世になって多くの魔法を習得したから白魔法も扱えた?
いや、そもそも適性がなければ他の属性の魔法がどれだけ使えようとも適性のない魔法は扱えないはずだ。
後考えられるのは……そもそも白魔法の適性検査なんて、何百年も適性があるものが現れなかったのにどうして可能なんだ?
もしかしてあの適性診断器。遥か昔に作られたもので故障していた?
まあいい、真偽の程は確かめようがない。どうやら俺は白属性の適性がある。この事実で十分だ。
処刑までは後20数日だ。少しでも白魔法の習得に努めて、神級の魔術師を打ち倒せるようにならなければいけない。
家庭教師の仕事と、後兄弟団の任務は処刑までは完全に無しにしよう。時間が惜しい。白の魔術書をなるべく読み込み、白魔法の習得に務めるのだ。
そこで俺はもしかしたらひどく無謀な試みをしているのではないかという考えが頭に浮かぶ。
いくら白魔法が伝説では最強だったとはいえ遥か昔の話。それより現在は魔法技術も向上しているだろうし、現時点で世界最強の神級の魔術師に挑んだりしたら下手したら瞬殺されないだろうか?
……だがもしそうなったら、もうしょうがないだろう。可能性がある所にかけるしかないのだ。
白魔法を習得できて、それでもまだ絶対敵わないと思うのならその時にまた考えよう。
まずは白の魔術書の読み込み。ある程度把握した後は、術式の写経。
そして術式を頭に叩き込んだ後は実践にいきたいが、ここまで魔術書のボリュームがあると後わずか20数日ですべての習得は難しいのではないかとも思う。
先程試した白魔法の中の基本的な術式はすとんと腑に落ちてすくに使えた。もしかしたら相性がいいのかもしれず、それなら全習得は可能かもと一抹の希望はある。
時刻はもう深夜で自室のろうそくが控えめな明かりを書籍に落としている。方針が決まった俺はまた白の書へと没入していく。
◇
処刑まで後1日。明日の日中には前世の俺は処刑されるはずだ。
明日に備えて今日はもう早く寝なければならないのだが、俺に恐怖と不安の波が押し寄せてきて眠る事ができない。
やるべき事はやったという自負はある。寝食を忘れて白魔法の習得に没頭した。
相性がよかったというのもあるだろうが幸い白の魔術書に書かれている白魔法はすべて習得できた。
だが相手は神級の魔術師、人知を超えたような化け物が相手だ。
まだ見ぬ神級の魔術師に対する不安と恐怖は白魔法の習熟とは別に処刑日が近づくにつれて、どんどん強くなっていく。
ここまで来たら命をかけて挑むんだという強い気概と思いとは裏腹に、押し寄せてくる不安と恐怖の感情の波からは逃れようがなかった。
今、前世の俺は…………処刑前日は一睡もできなかったっけ……。
今頃は薄暗い牢獄で恐怖と不安に押しつぶされそうになって震えているはずだった。
一抹の希望。転生に成功するという未来だけを夢にみて。
俺は俺の為に戦わなければならない。
俺は俺の為に頑張らなければならない。
処刑のあの日あの時に誓ったように俺は俺を……。
その時、コンコンっと俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
扉から顔を覗かせたのはエレナだった。
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