第40話 白の書
処刑までは後25日をきっている。
今ごろ前世の俺は薄暗い牢獄の中で処刑までの日々を不安と恐怖の中で過ごしているはずだ。
一か八かで第7王子を助けだけせないか探索魔法を飛ばして検討してみたが、神級の魔術師の探知魔法が地下の牢近辺に蜘蛛の子も通さないにように強力に張り巡らせており、気づかれずに地下牢に行くのは不可能だという結論になっている。
おそらく処刑時も神級の魔術師は警戒を止めないだろう。であれば後は神級の魔術師を打ち倒して俺を救うしかない。だがどうやって?
俺は郊外にある大木に寄りかかり寝転がって大空を眺めている。
ここは郊外だがまだ王都に近く魔物も寄り付いてこない場所で、ウィル、俺の小さい頃からのお気に入りの場所だ。
「なーにしてんの?」
突然の呼びかけにハッとすると、俺を中腰で眺めているエレナの姿がそこにはあった。
「な、なんでここが?」
「さっき店の前、難しそうな顔して通り過ぎたでしょ。そういう時はウィルはいつもこの場所に来るんだから。お店はお暇取れたから抜け出してきちゃった」
屈託のない笑顔でエレナはそう言うと、うんしょっと言って俺の隣に座る。
「ちっちゃい時はよくここに来たよね。なんだか懐かしいわ」
そうだ、ウィルの小さな頃はここまで来るにも大冒険だった。
俺が冒険者の勇者役、エレナはお姫様役でよくここまでエスコートしてきてたっけ。
ここまで来た事が親にバレると城壁外の所に抜け出したからといってこっぴどく叱られた事をよく覚えている。
「何を悩んでるのか知らないけど、ウィルなら大丈夫だよ! ファイト! 絶対できる!」
両手に握りこぶしを作り、エレナは必死に応援してくれている。応援してくれるのは嬉しいが苦笑いするしかない。
たがこうした根拠のない励ましや応援に救われてきたのも事実だ。
「どうしても超えられそうにない壁が立ちはだかった時、エレナはどうする?」
エレナは腕組みをし、考え込む。うーん、うーんと唸っている。
「うーん、もう、超えられなかったらしょうがないかな。それで自分が否定される訳じゃないもの。大切な出会いであったり、思い出であったり、大切にすべきなのはそういった事の方でしょ」
大切な出会いや思い出……。
その言葉で俺の脳裏に前世の記憶が蘇る――――
一番大切なのは妹のティアナとの思い出だ。今世では会える事はないだろうがティアナには幸せになってもらいたい。
父と母の思い出は……俺の中でそれはもう苦いものへと変わってしまっている。
後はセバスチャンに……そうだ……転生魔法授けられた初対面なのに何故か懐かしさを感じた、あの不思議な老人。
そういえば、俺、前世で転生魔法を授けられた時に魔術書の白の書も一緒に渡されたよな。その時には完全に人払いされて。セバスチャンまで部屋の外に出されて誰にも言うなって。
…………なんでこんな事、今まで忘れてたんだ!?
白の書をパラパラっとだけ流し読みして……それで……そうだ! 部屋の暖炉の裏に隠したんだ!
「そうだ!」
俺は急に立ち上がってそう叫んだ。エレナはびっくりしてキョトンとしている。
「まだその手があった! ありがとう、エレナ! やっぱりエレナは俺の女神だよ!」
エレナは頭にはてなを浮かべながらも俺の女神という称賛に訳もわからず嬉しそうにしている。
「時間が惜しい。早速行ってくる!」
「え? う、うん、行ってらっしゃい、じゃあね」
俺は早速王城の方へと向かって走り出した。
◇
水堀に囲まれた高い城壁を俺は勢いをつけて飛び越える。警備が比較的手薄な正門の逆方向からの侵入だ。
辺りを警戒しながら忍び足で進む。ここから前世の俺の自室まではそんなに遠くない。
途中衛兵が巡回してくる。俺はギリギリまで壁際で身を隠して、衛兵が俺を通り過ぎてその背中を見せた時に――
《瞬歩》
一瞬で衛兵の背後に周り、首筋を強打して昏倒させる。そして気を失った衛兵を物陰まで引きずって、その服を剥ぎ取って俺はそれに着替えた。
よし、これで遠目では不審には思われないはずだ。俺は今度は王城内を普通に歩いて進む。前世の自室までの最短ルートを。
道中、王城のメイドとすれ違うが素知らぬ顔で通り過ぎる。
1階から2階、3階へと階段を上がり俺は前世の自室へとたどり着く。
ガチャガチャ。ドアノブを回し、自室の扉を開けようとするが鍵がかけられているようだった。
カチャ。解錠魔法で鍵を開ける。そしてそっと扉を開き、中に誰もいない事を確認すると扉をしめて中から鍵をかけた。
俺の自室。前世の自分の部屋のはずなのになんだか不思議な感じがする。どこか他人感もあるけど懐かしさも感じるというような。
窓も閉め切って、掃除もせずに放置しているのだろう。部屋の中は少し埃っぽい。
部屋の中を観察してみるが、特に変わった所はない。拘束される前の部屋のままだ。
早速、暖炉裏を探ってみる。奥のレンガを引き剥がす。少し灰が舞い、咳込みそうになる。一つ、二つとレンガを引き剥がして、三つ目のレンガを引き剥がした時に目的の魔術書が顔を出した。
魔術書を引きずり出して、一旦、暖炉の中から這い出る。埃と灰をかぶっているので魔術書からそれを払う。ページを開いてみると当時のままで特に問題もなさそうだ。
暖炉裏のレンガを元に戻す。何かの気まぐれだろうがめんどくさがり屋の前世の俺がよくこれを暖炉裏に隠したなと思う。俺の性格ならその辺りにほっぽり投げていてもおかしくない。誰にも見せてはいけないと謎の老人に強く言い聞かせられたからではあるけれど。
俺が白魔法を扱えるかどうかは分からない。転生もしてるし、前世では投獄前まで適性は認められなかったとの事だ。可能性としては薄いだろう。
だが俺が神級の魔術師に勝てるとしたらもう白魔法にかけるしかない。俺はその白の書を大事に抱える。後は無事に家まで帰れるかどうかだった。
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