第39話 真実
村の名前はケプト村。北に位置する寒村だ。
その村のとある夫婦が子を授かる。子の名前はルーカス。取り上げられた赤子は白髪白眼という奇異な見た目をしていた。
迷信深い田舎の村だ。呪われた赤子だ、不幸をもたらす悪魔の子だ、などと奇異な見た目の赤ん坊を不幸の象徴と見なして、処分しろとまで主張するものも中にはいた。
両親は生まれた赤ん坊の奇異な見た目についてはその子の将来を思い嘆き悲しんだが、赤ん坊は自分たちの息子。そんな村民たちの声から必死に赤ん坊を守ろうとした。
その田舎の村で誕生した白髪白眼の赤ん坊の噂。村中にすぐに広まったのはもちろんの事、その村の領内の貴族の耳にも入る。
そしてその貴族は貴族の集まりでその赤ん坊の話しをし、それを更に聞いた貴族が――
という風に貴族たちの間で白髪白眼という奇異な見た目の赤ん坊の噂は広まっていき、遂に王族の耳にも入る事となった。
白の魔術師の伝説。
民間ではすでに伝承が失われてしまった伝説だ。
遥か昔、同時最強と謳われ、世界を戦乱の渦に巻き込んでいた三大魔術師がいた。
白の魔術師はその三大魔術師を一人で打ち倒し、世界の戦乱を鎮めたと言われる最強の魔術師。
世界の英雄として白の魔術師は祭り上げられ、後世にその伝説が語り継がれる事になる。
民間ではその伝説はすでに忘れ去られてしまっているが、マグレガー王族の王直系にはその伝説は伝承されていた。
その最強の白の魔術師。
白髪白眼という奇異な見た目をしていたという伝承が残っている。
白髪白眼の赤ん坊がもし将来白の魔術師として覚醒する事があれば、王国の驚異となる。
しかし、白の魔術師を味方として引き込めれば、世界に現状、二人だけ存在する神級の魔術師と同等か、或いは、それ以上の戦力になる可能性があった。
そうなれば現在では小国に過ぎないマグレガー王国も神級の魔術師をそれぞれ要する二大帝国とも張り合える可能性がある。
マグレガー王はその白髪白眼の赤ん坊を王族で引き取り、王族として育てる事を決定した。
ルーカスの両親はその王国の決定に抵抗しようとするが、決定に逆らう場合は赤ん坊を殺す事もいとわないと伝えられる。
両親は泣く泣く赤ん坊を手放し、ケプト村には白髪白眼の赤ん坊など生まれなかったと厳しい箝口令がしかれた。
そして政略結婚という形でルーカスの母、エムリーヌは王族入りし、自らの腹を痛めた訳ではないその赤ん坊を実の息子として育てたという訳だ。
◇
「…………そんな馬鹿な……」
俺が父と母と思っていた人は血の繋がりのない赤の他人だというのか。
じゃあ前世で俺は生まれてからずっと両親だと思っていた人物に騙されていたというのか!?
俺はセバスチャンが言った事が信じられない。状況証拠からセバスチャンが言っている事が正しかろうという事は理屈では分かっている。
理屈では分かっているのだ。だけど…………。
「それなら今頃になってルーカス殿下を処刑しようとしているのはなぜです? ルーカス殿下が何か驚異になったからですか?」
「逆です。ルーカス殿下は大きくなっても白属性の魔術師の適正を示しませんでした」
俺の脳裏に不自然に診断された魔術の適性検査の記憶が蘇る。あれで白属性の適性を検査していたのか?
「いつか白の魔術師として覚醒する可能性はゼロでははありません。ですが、それまでのルーカス殿下の扱いが難しい。それに物心ついた後に覚醒しても、コントロールしきれなくなる可能性もありました。よって処分の決定が下されたという訳です」
「………………」
処分というその言葉が俺の胸に突き刺さる。
要するに俺は父だと思っていた王のその権勢を押し上げる為のていの良い道具に過ぎなかったという事か。
余りにも強すぎるショックで感覚が麻痺していくようだ……。
前世では実の父と母だと信じて疑わなかった。
少なくとも俺は父と母に親子の親愛を抱いていた。
そんな自分が笑えてくる。
「……なんでそれを生前教えてくれなかったんですか? いや、第7王子に……」
「もういいです。あなたは第7王子の生まれ変わりでしょう?」
「……なんでそれを?」
おかしな言動はしていたかもしれないが、セバスチャンにはまだ一言も転生した事は伝えていないはずだ。
「今の殿下の状況で希望が持てるのは転生魔法を使用して生まれ変わる事だけです。完全な白髪白眼とは言えないが白がかった青い髪とその瞳。そしてあのタイミングでの登場と私とルーカス殿下しか知り得ないあの情報」
確かに状況証拠から俺が転生したと判断する事は可能だ。
「転生後の今の名は?」
「ウィルです」
「ウィルか……良い名ですね。よくぞここまで……」
感慨深げにセバスチャンは呟く。
「前世であなたに私が教えなかったのは、あなたが無力だったからです。教えた所であなたは何も出来ず、絶望の度合いが深まるだけだったでしょう」
確かに、前世の俺は無力だ。
「それに白の魔術師を安全に処分する為に今、王国には神級の魔術師がいて殿下を密かに監視しています。助け出す事もできません」
「え? なんだって神級の魔術師が?」
「殿下の投獄を知ってあちらから接触を図ってきたそうです。万が一の白の魔術師の覚醒の為に処刑まで監視してやろうかと提案してきたらしいですね」
「神級の魔術師は白の魔術師の伝説を知っているという訳ですか? 他国にも伝説は残っているんですか?」
「神級の魔術師は数百年、生きていると言われる、言わば生きた伝説です。白の魔術師の伝説は知っていてもおかしくはありません。他国に白の魔術師の伝説が残っているかどうかは分かりませんが、殿下に対して今まで何も反応がない所、おそらく伝説は残っていないのではないでしょうか?」
確かに他国のパーティなどに王族として参加した事はあるが、見た目を奇異に見られることはあって白の魔術師などという言われを受けた覚えはない。
神級の魔術師は隣国の帝国にいる。
俺の事を知っていてもおかしくはない。
黒幕は分かった。動機も真実も分かった。
しかし神級の魔術師が前世の俺の投獄を逃げ出さないように警戒しているのなら助け出す事はほぼ不可能だ。
「結局救えないのか……俺は俺を……」
誰に対してでなく俺は天を仰ぎながらそう呟く。
セバスチャンは無言でうつむく。
強くなった自覚はある。剣も魔術も。
だが神級の魔術師が相手となると話しは別だ。
世界に二人だけの神級の魔術師。それぞれ世界に二つだけの超大国の帝国に所属し、一人で一国を相手取ると言われているほどの強さの持ち主。
戦えばまず勝ち目はないだろう。
顔に降り落ちる水滴を感じる。いつの間にか曇天となった空からポツンポツンと小雨が降り出していた。
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