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第3話 適性検査

 ** 前世処刑の約1ヶ月前 **


「……ということで、復習ですがご存知の通り、人は魔術のそれぞれの属性に対して適性があります。」


「ああ、そうですね」


 俺は授業の教材の書籍、魔術大全に目を落としながら、家庭教師のオルエッタからの質問に無機質な回答を返す。


「属性については火、氷、水、風、雷、土、影、闇、聖の属性があり、それぞれの属性に対して人は初級、中級、上級、魔帝級、神級などの適性を持っています」


「ああ、そうですね」


「たとえば殿下は火と光と風属性について上級の適性をお持ちです。これは大変優秀な適性になります」


「ああ、そうですね」


「……しかし、殿下の現在のご状況はそれぞれの優れた適性に反して、火と光と風属性、いずれも初級の魔法の扱いですら怪しい状況でございます。なぜでございましょう?」


「ああ、そうですね」


「…………」


 俺がした返答に対して怪訝な表情をするオルエッタ。


「一方、殿下は適性ランクが低いのに、影魔法の上級が扱えるのはすごいですね。一般的に才能の壁を越えるには相当な努力が必要です。なぜ影魔法だけそこまで上達の努力をされるのですか?」


「ああ、そうですね」


「…………」


 俺のことをじーっと見つめたオルエッタのその眼鏡にキラリ、と光が灯ったと思ったら――


隠蔽解除(ハイベール)


 オルエッタが手にした杖から光が放たれる。


 俺が熱心に熟読していた本に対してかけられていた隠蔽効果が解かれ、冒険小説の表紙が顕になった。


「なっ、授業中にいきなり魔法をぶっ放すとか。オルエッタ、正気ですか!」


「それはこちらのセリフでございます、殿下。私は今の今までカカシ相手に授業していたのでしょうか? 冒険小説に夢中で授業など上の空で!」


「カカシ相手とは上手いことを言いますね」


「私がお聞きしたのは、なぜ影魔法だけ上達の努力をされるのですか? でございますよ!」


「それはもちろん授業をサボり、好きな読書を楽しむ為に決まっています」


「まじめに授業を受けてくださいッ!! 奥様にいいつけますよッ!!!」


 部屋中に響き渡るヒステリックな金切り声で叱られる。


 そうして感情を爆発させた後に、オルエッタはこちらにゴミでも見るような目を向けた後、黒板に板書を続けていった。


 他の王子にも同様に幼い頃から家庭教師はつけられている。


 担当した生徒の王子の成績によって家庭教師の評価は定まる。


 成績について下から数えた方が早い俺の担当についたのはオルエッタからするとハズレくじだろう。


 最も俺の方にも言い分はある。

 王国の王子という身分に生を受けた現状。


 勉強しようがしまいが。

 魔術に秀でていようがいまいが。

 剣術に優れていようがいまいが。


 俺の将来に与える影響は軽微なものだ。


 それぞれに優れていた方がいいのはいうまでもない。だが王族の身分であれば何をやっても食うには困らないだろう、と予測される将来を考えるとどうしてもやる気が起こらなかった。


「……ということで、今日の授業はこれくらいにして……」


 オルエッタは自身のバックを探ると水晶を一つ取り出す。


「それは?」


「こちらは適性判断器の水晶でございます」


「適性判断器?」


 先ほどオルエッタが述べた通り、俺はすでに適性判断を受けている。


「以前からもしかしたら変更があるかもしれませんので。念の為に」


 年を重ねたら生まれ持った才能が変わることなどあるのだろうか?


 それによくみたら適性判断器の水晶の大きさや色も以前受けたものと違うような気がするけど……。


「それではこちらに手をかざしてみてください」


 俺は言われた通りに水晶に手をかざす。


 それに対してオルエッタは計器を眺めている。あの計器に計測結果が表示されるはずだ。


 前に読んだ適性判断器の文献によると魔術のそれぞれの属性の適性判断はあの計器によって、水晶を媒体として行われている。


 水晶を媒体にして術者の魔力に反応してその魔力を検知。逆に水晶を通して術者に特殊な魔力を流れさせて術者の人体の魔力回路の反応を検知。


 そういった原理によって術者のそれぞれの魔術の属性について判断している。


 オルエッタの表情が若干変化する。


「け、計測は終わりです。それでは今日の授業はここまでとさせていただきます」


「え!? もう、終わりですか?」


「は、はい、終わりです。それでは失礼いたします」


 オルエッタはどこかしら慌てたような様子で、計器や授業のテキストをカバンにしまい、いそいそと俺の部屋を後にした。


 なんだったんだろうか……。


 俺は少し呆然とした後、この後に授業がないという事実に対しての解放感と喜びが湧き上がる。


 そこでコンコン、と俺の部屋のドアをノックする音。


「はい」


「失礼いたします」


 お辞儀をしながら、白髪のタキシードに身を包んだ俺の専属執事のセバスチャンが入室する。


 鼻の下に白い髭を蓄え、生きた長い年月を思わせる皺が顔に刻まれている。


 セバスチャンは寡黙な男で余計なことはほとんど喋らない。それでいて優秀だった。


 昔は名のしれた魔法剣士だったらしいが、なぜ俺みたいな将来性の低い怠惰王子のお付きになっているのかが不思議である。


 前にちらっと聞いたことはあるが、王族付きだからといってそこまでいい給金を受け取っている訳ではなさそうだ。


 もっといい給金が貰える豪商なり、他の将来性がありそうな王子なり、貴族なり、セバスチャンなら引く手数多であろうに。


「なんでしょう?」


「奥様がお呼びでございます」


「えっ!? ん……わかりました」


 もしかしたら、オルエッタからもう先ほどの件のチクリが入ったのだろうか。


 解放感の喜びから一転、憂鬱な気持ちになりながら重い腰を上げて母の部屋へと向かう。

【※大切なお願い】


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