第36話 暗殺
「……という訳で俺たちはあなたを保護したという訳です」
貧民街の廃墟の一つに俺たちとエイブはいる。双子の二人曰く、身を隠すにはもってこいの場所だそうだ。
エイブにかけられていた手錠については解錠魔法で外している。
「俺がこの後殺されるなんて、そんな……」
「金貨で200枚だっけ? それをあなたに報酬を渡したとしても、あなたがこの先、その秘密を完全に守れるという保証はない。どこかで良心の呵責に苛まれて、自白をしてしまう可能性だってある。じゃあ、殺してしまった方が安全だし、お金もかからない。と悪人が考えるのは分かりますよね」
「……でも、じゃあこの先、妹はどうなるんだ? 薬が手に入らなくなったら……。無実の罪での告発までしたのに結局、俺は妹を救えないのか?」
「色々済んだら、俺ができる限りの事はします。今はこれが片付くまで、暗殺されないようここに潜伏していて下さい。食事とか生活に必要なものはこの二人の双子のタイガとセイガが用意します」
双子の二人はピースをする。
緊張感のない二人だな……。
「あんた何者だ?」
「兄弟団の者です」
俺はいつものように兄弟団のペンダントを見せる。まあ、兄弟団の任務でこれをやってるわけではないのだが。
「……潜伏ってどれくらいの期間?」
「長くても一ヶ月と考えてもらえれば」
「……それなら妹の薬はもつか……分かった。ここでおとなしくしとくよ。殺されるのは嫌だからな。一つお願いがある。妹に兄ちゃんは無事でしばらく隠れていると伝えておいてくれないか?」
「分かりました。タイガ頼んでもいい?」
「うん、分かった」
「エイブが逃走して身内周りへの接触が警戒されてる可能性が高いから気をつけて」
「了解!」
こうして一つの懸案については一旦対処する事ができた。後は本丸のドイルの尋問だ。
ドイルの行動パターンはある程度把握している。今日は後数時間ほどしたら通常業務は終了して帰宅するはず。エイブの逃走が影響したら変わるかもしれないが。
必ず謀略の黒幕を突き止めてやる。
核心に近づき俺の心臓の鼓動は徐々に高まってきている。
「すいません」
人通りの少ない路地裏にドイルが差し掛かった所で俺は声をかける。
俺はドイルを知っているが、向こうはこちらを知らない。怪訝そうにどこか険があるように眉間に皺を寄せる。
セイガは念の為に帰らせた。
今度は1対1。万が一にも取り逃がす事はないだろうから。
「誰だてめえは?」
そこにはいつも前世の俺には愛想笑いをし、ペコペコと媚びへつらってきていたドイルの姿はない。噂で聞いていた通りの裏の顔、いや本当のドイルの姿があった。
「エイブについて伺いたくてですね」
「あ!? なんでうちの見習い知ってやがる?」
「無実の罪を告発させるで金貨200枚の報酬でしたっけ?」
「てめえ……」
一気にドイルの表情に警戒の色が強く表れる。エイブの逃走についてはすでに耳に入っているのだろう。
「エイブを逃させたのはてめえか?」
といいながらドイルの右手が自身の腰裏の方へ移動しているのを俺は見逃さなかった。
「だったらどうなんでしょう? あなたが商会を利用して私利私欲の為に麻薬のソーマを扱っているというもの分かってます。バレたら商会を首になるだけじゃすみませんよね」
ドイルはその瞳を見開く。そして舌打ちを一つした後に、
「何者だでめえ?」
「第2王子のブルータス殿下が黒幕ですか?」
俺は鎌かけをしてみる。ドイルの右手が腰から何かを握ってきた。握っているのはナイフか?
「は? ……ブルータス殿下はただのジャンキーの顧客で何かあった時の為の保険だ。あんな無能に黒幕なんか務まる訳がねえだろうが……って、てめえに言っても分からねえか」
そういえば確かにブルータスに麻薬の密売などの黒幕は能力的に厳しいかもしれない。
「じゃあ、誰が黒幕ですか?」
「はは、言うわけねえだろうが」
「私利私欲の為にどこまで罪を重ねるんでしょう。自白すれば処刑は免れるかもですよ?」
「……何も分かっちゃいねえなてめえは」
「え? なにが……」
「おらぁッ!」
ドイルの右手に握られていた何かが投げつけられる。すると辺り一面にまばゆい閃光が放たれた。
しまった、閃光弾だ。
目眩ましの状態からやっと目が慣れた時にはドイルの背中はかなり小さくなってしまっている。
逃がすか!
俺は身体強化を最大限かけ、一気にトップスピードに乗ってドイルを追いかける。一般の人々には通り過ぎた俺の姿が確認できないようなスピードだ。
ドイルは猛追する俺を確認する。
すると奴は、跳躍し、民家の屋根伝いを飛び移りながらの移動を始めた。その身のこなし。どうやらただの商人ではなかったみたいだ。
俺もそれに併せて民家を飛び移る。のんびりと屋根で寝ている野良猫が飛び起きて逃げ出している。
とその時、ドイルの横から突然、奴を襲う横影が見えたと――――思ったら、ドイルは屋根から落ちる形でそのまま地面に叩きつけられた。
俺がドイルに追いついた時にはドイルを襲った人影は既に影も形もなくなっている。
そしてドイルが倒れた地面にはドイルから流れる血が広がっている。よく見るとドイルの胸部には大きなナイフが突き刺さっている。
……駄目だこれは致命傷だ、心臓が貫かれている。俺では治せない。
「……きっちり、口封じされちまったぜ……ちくしょう……後もう少しで…………」
そこまで喋った後にドイルは息が絶えたようで、その瞳は虚空の一点を見つめたまま動かなくなる。
「くそッ! 誰だ今の奴は?」
一瞬の内にドイルを殺害して逃亡。おそらく俺とドイルのやり取り、逃亡も確認していて、ドイルの逃亡経路を先回りしたのではないか。
暗殺者だとしても相当な腕利きだ。エイブが逃亡した事によってエイブから繋がる人物という事で先手を打たれたのかもしれない。
……ッ!
俺は頭を抱える。
現状での前世の謀略の黒幕への唯一の手掛かり。
それが見事に潰されてしまった。
そこへ通行人が通りがかる。
今、俺とドイルが関連付けられるのはまずい。
ドイルの殺人犯として疑われる可能性があるし、警備局からの取り調べやらのやり取りで貴重な時間が奪われるのも避けたい。
《瞬歩》
一瞬で冷たくなったドイルの元から離れる。
遠目から通行人を確認すると俺がどこに消えたのかとキョロキョロした後に首をかしげている。
俺はなんでもないように他の通行人に紛れて歩きだす。
もう処刑まで後1ヶ月を切っている。
ここで手掛かりが途絶えるのは致命的だ。
なんとかしないと。
俺は必死に頭を働かせる。
ドイルの自宅を捜索するか?
正式な兄弟団の任務ではない為、違法ではあるが、なりふり構っていられない。
後は先程の暗殺者。顔は何か頭巾に覆われていた為、黒の装束を着ていたという事以外の特徴はないのだか、それを兄弟団の情報網で調べるか?
他にはエイブに警備局に証言の撤回に向かわせるという手もある。
しかしこれはエイブが暗殺されてしまう可能性が非常に高い。それにこの方法だと黒幕にはおそらく辿り着けない。
他には…………一旦思いつくのはこれくらいか。
家宅捜査と暗殺者の情報収集。
この二点をすぐ取り掛かろう。
ドイルの自宅は双子が把握してるはずなので俺はまず双子の元へと向かった。
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