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第34話 身体強化

 レックスは一瞬のうちに俺たちの目の前から消える。


 コポコポという音が聞こえる。

 音がする方向を振り向くと、そこにはレックスに首を短剣でかっきられ、苦しそうに首筋を抑えるシルヴィオの姿がそこにはあった。


 俺は咄嗟に治癒魔法をシルヴィオにかける。


 なんとか致命傷は逃れたが、一瞬で喉を掻っ切られたシルヴィオの目からは恐怖が伺え、早くも戦意は失われている。


「ほんとだったらもっと殺しは楽しんでやりたいんだけどな。場所が悪いし、時間もないから、苦しまないように一瞬で終わらせてやるよ」


 またレックスは目の前から消え去る。


「う、うわああああああーーッ!!」


 サンドラとオースティはパニックに陥る。


 レックスが今発動している魔法は身体強化と自身への治癒魔法だ。身体強化と言ってもここまでのスピードを発揮する事ができるものなのか?


 シャッ! シャッ!


 という風切り音のようなものが断続的に聞こえてきた。


 その直後、サンドラとオースティは血が吹き出す首筋を押さえて、その場に倒れ込む。


 俺はサンドラとオースティン、二人同時に治癒魔法をかける。


 吹き出す血は止まったが、血を失い過ぎたのか青白い顔をして二人とも倒れこむ。


 ガキィーーーンッ


 俺は攻撃してきたレックスの短剣を剣で防ぐ。攻撃をなんとか目で追えるようになってきた。


「ほう、驚いたな今のに反応できるのか。じゃあ、もう少し速度を上げるか?」


 俺はレックスが身体強化と治癒に使用している魔力を更に上げた事が分かった。


 身体強化は分かるが、なぜ治癒の魔力まで上げる?


 くそ! 更にスピードが上がってる。まずい!


瞬歩(しゅんぽ)


 俺は瞬歩を発動してなんとかその攻撃をかわす。


「なに、消えた!? …………そうか瞬歩か。全く楽しませてくれる!」


 瞬歩によって今の攻撃はなんとか躱せた。だけど長くは持たない。連続攻撃などされたらたぶん躱しきれない。


 身体強化を使ったからと言って魔術師がこんなに早く動けるものなのか? 聞いたことがない。何かからくりがあるはずだ。俺は必死に考える。


「だが、からくりが分かれば次で終わりだ。瞬歩のつなぎ目。一瞬のそのつなぎ目を捉えて、殺してやるよ」


 まだレックスは身体強化だけでなく、自身に治癒魔法もかけ続けている。なぜ、傷の負っていないのに必要のない治癒魔法を?


 その時、俺に一つの仮説が閃いた。そうか、もしかすると……


《身体強化》


 俺はレックスに身体強化をかける。


「な、何を?」


 俺がかける身体強化の強度に従ってレックスが使用している治癒魔法の魔力量が上がっていくのが分かる。


「まさか、お前……くそう!」


 するとレックスは自身にかけている身体強化を解除した事が分かった。それに合わせて俺もレックスにかけた身体強化を解除する。そしてその一瞬のすきをつき――


 レックスに向けて剣を右上段から振り下ろした。

 直撃し、血しぶきは舞うがその傷は一瞬のうちに治癒される。


「よし! 分かったぞ、あんたのスピードアップのカラクリが!」


 レックスの常識を超えた身体強化のスピードアップのからくりはこうだ。


 通常身体強化は自身の肉体強度に応じてかけられる上限がある。


 それは元々鍛えているかどうかなどで個人差はあるが、それがある為、魔力があるからと言って無尽蔵に身体強化をかけられる訳ではない。


 しかし、レックスは完全治癒が使える魔帝級の魔術師。自身の限界を超え、肉体にダメージが及ぶような身体強化を自身にかけて、それを治癒魔法によって瞬時に癒して、常識外の身体強化を実現している、というからくりだ。


 そして俺が更に身体強化をかけた事によって、おそらく許容できる肉体の全体ダメージを超えそうになったという訳だった。


 俺は化けの皮が剥がれたレックスに対して何度も斬撃を放つ。しかしその傷は瞬時に回復し、血しぶきのみが宙に舞うという奇妙な光景となっていた。


 人の肉を切り裂く感覚。不快な感覚だ。なぜこんな事をレックスは喜々として行えるのか。


「ひぃ、ひぃーーーーーっ! お、お父様、お許しください、お許しください!!」


 気が触れたのかレックスは攻撃の途中から意味の分からない事を喚き始めた。


「レックス、もう降参しろ。あなたにもう勝ち目はない!」


「お父様、私が悪かったです! 母様などを思いやった私がクズでした。ですからもう折檻は……」


 レックスの目にはもう、目の前にいる俺ではなく、他の誰か、レックスが父というものの幻影しか写っていないようだった。


 彼はひざまづき瞳からは涙を流して、誰もいない宙の一点を見つめている。


 俺は血のりがついた剣を空中で一振りしたのち、鞘に収める。


 そして魔術封じの効果もある、兄弟団の手錠をレックスにかける。


 こうしてこの町で起こった、連続猟奇殺人は解決された。




「ありがとな。兄弟団っていやあ、権限を振りかざすばかりで役に立たないのも多い中、おめえさんはよくやってくれたよ。おかげでやらなくてもいい抗争を回避できた」


 事件後、食堂の青年のお墓参りにいった時に偶然、先約でバルディーニが花を供えていた。


「レックスせ、いや、レックスの野郎は処刑だって?」


「ええ、斬首刑が決まりました」


 どこから吹いてくる風がバルディーニが供えた花から花びらをいくつかさらっていく。


「俺みたいな悪党なら分かるぜ……だけどよ……あいつはあんな死に方をしていい子じゃなかった。あんなに若くして死んでいい奴じゃなかった」


 バルディーニは天を仰いでいる。目に溜まったものがこぼれ落ちないように。


「一つ借りだ。なんかあったら言ってこい。お前の名前を出せば、大体の事は通るのようにファミリーのものたちには言っておく」


 そういった後、バルディーニは歩き出し、そして俺に背中を見せた状態で右手を少し掲げて別れの挨拶とする。


 墓地に更に強い風が吹くが、今度はバルディーニが供えた花から花びらがさらわれていく事はなかった。


【※大切なお願い】


 少しでも、


「面白い!」

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「更新頑張って欲しい!」


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