第33話 魔神
「その時の火傷の程度はどうでしたか?」
「やった俺がいうのもなんだけど酷いもんだったぜ。ありゃ一生残るんじゃねえかな」
「…………」
俺は熟考する。
「それでは、私はこの辺りで。なんだか取り込んでるみたいだしね」
「ああ、先生ありがとうございました! お代はいかほどですか?」
「金貨1枚になります」
「傷残りそうだったし、安いもんだろ」
「そうだな、それではこれで……」
金貨を受け取ったレックスが、
「じゃあ、また何かありましたら」
と言って、その場を去ろうとした所、
「すいません、先生。少し質問いいですか?」
突然の俺からのレックスへの問いかけで全員の視線が俺に集中する。
「……あ、はい。なんでしょう?」
「先生は今、オースティさんが言ってたジュリアーノファミリーの顔に火傷の傷を負った人の事。治療しました?」
「……いえ、してませんが……」
「本当ですか?」
「なんでレックス先生が治療したと?」
サンドラが疑問を俺に投げかける。
「ジュリアーノファミリーで殺害されたものの遺体の顔には火傷の痕は特に見受けられなかった。つまり誰かが治療したという事です。そして火傷の痕を完全に消せるような治癒は聖属性の上級魔術師で難しい。魔帝級以上だけが可能です。この町にレックス先生以外に魔帝級の聖属性の魔術師がいますか?」
全員の視線がレックスに集中する。
「そうは言われても、治療していないものは治療していないので……」
「疑問だったんです。今回の殺人の被害者の顔形が元の形からも変形してしまっているような傷について、どうすればそんな事が可能なのかと? だけど、今、レックス先生が治癒を、完全治癒を行っている所を見て気がつきました。致命的とも言えるような傷をつけて、それを強引に治癒してしまえば、元の顔から変形してしまうような状態になりうると」
「…………」
レックスは今度は返答せず、暗い目をして下を向いている。
「レックス先生、アリバイを証明できる証人はいますか? それぞれの殺人が起こったと思われる日時、どちらにいましたでしょうか?」
「ちっ、もう少しでうまくいきそうだったのによ」
そう吐き捨てたレックスは表情は先程までの柔和な表情ではなく、剣呑なものへと変わっていた。
「あーあ、また、放棄して一からやり直すか」
サンドラたちは余りの変わりように呆気にとられている。
「もう一つ疑問があるんですが」
「なんだ? 冥土の土産に教えてやるぞ」
レックスが発する殺気によって、辺りが緊張に包まれる。
「なぜ殺したんですか? 異なる二つのファミリーに関係ある人間をわざわざ? たまたまですか?」
「潰し合せる為よ。抗争になりゃ怪我人が増える。俺は儲かる。良いこと尽くしだ」
「そこまでの実力、魔帝級の治癒師なんか、冒険者をやれば金級どころかプラチナ級でも歓迎されるでしょう。宮廷魔術師にもなろうと思えば容易になれる。こんな町の治療師みたいな真似をするよりはよほどそちらの方が稼げるはずです」
「目立っちまうだろ。宮廷魔術師にプラチナ級の冒険者だと下手すりゃ一挙一投足が注目される。そうなると殺しがやりにくくなる。殺しが最優先なんだよ、俺は」
遂にその本性を明らかにしたレックスに対して、冒険者パーティの者たちがいきりたつ。
「いくら魔帝級と言っても、支援系の治癒師。アタッカーを揃えた冒険者パーティーにも勝てるとでも? ウィルさん、逮捕強力しますよ。どんでもないやつだこいつは」
サンドラたちはすでに剣を抜き、杖を構えている。
「くっくっく……」
レックスが不敵に笑う。
「まあ、いい。この町でもまあまあ楽しめた。お前らをぶち殺したらまた次に行くとしよう」
「こんな事を繰り返してるのですか?」
「ああ、そうだ。それにしてもよく状況証拠だけで俺にたどり着けたもんだな。如何せん、治癒をくりかえしながら切り刻む快感にはまっちまったのがたまにきずだ。そんなことで俺にたどり着くやつがいるとは想定外だったな」
治癒しながら、しかも完全治癒されながら切り刻まれるなど終わりの見えない地獄でとんでもない苦痛だろう。想像もしたくない。
殺害された青年の笑顔が脳裏に浮かぶ。俺は強く握りこぶしを握った。
「支援系の治癒師じゃ、アタッカーを備えたパーティーには勝てない。そう言ったな、今」
「ああ、そうだが?」
ブワッとレックスが凄まじい量の魔力が解放される。そして無詠唱で魔法を同時発動しているのが分かった。これは……
「俺も冒険者をしていた時があってな。殺しの片手間みたいに真剣にやっちゃいないソロだったが、金級まではすぐにいったぞ? その時、冒険者だった時の俺の通り名は……」
無詠唱で二つの魔法が凄まじい魔力を消費して発動されている。
「魔神だ!」
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