第32話 完全治癒
「ぐぞぅおッ! 殺してやる!! ジュリアーノファミリーの奴ら皆殺しにしてやるッ!!!」
バルディーニの咆哮が倉庫内に響く。
倉庫内にはむせかえる様な血の匂いが充満している。
バルディーニファミリーの稼業の一つである、運搬業。その運搬業の荷物の保管場所である倉庫内の一角に両手を後手に縛り付けられ、床に血溜まりをつくった青年の亡骸がそこにはあった。
青年の顔は原型を留めておらず、左手の特徴的な火傷の痕がなければ食堂の青年本人かどうかも分からなかったかもしれない。
あまりにもひどい傷で、それは原型をとどめていないというより、元の原型から変化しているとさえ思われた。
「頭! 落ち着いて下さい! 今突っ込んでいったら奴らの思うツボですよ!」
「知るか! 奴ら全員ぶち殺してやる!」
激高するバルディーニをファミリーのものたちが必死で引き止めている。
「バルディーニさん……」
「なんだあ、ウィルとか言ったか? てめえも止めるんじゃねえぞ!」
「抗争はちょっとまってください」
「なんでだ!? 待てねえよ!」
遺体の損傷状況から素人の手口ではない。かといってマフィアだからこんな殺しができるかというとおそらく違う。
殺しや拷問のプロかまたは、猟奇的な殺人犯。
今のところ想定される犯人像はこんな所だ。
最もジュリアーノがそのプロを雇ったという事は十分に考えられるが。
「マフィアだからといってここまで酷い見せしめのような殺しをしますか?」
「……いや、聞いた事はねえな」
「後、少しだけ待ってください」
「……1日だ。1日で解決しろ。じゃなきゃジュリアーノ奴らと全面戦争だ!!」
「いやぁーーーーーーーッ!!!」
青年の母親、この前に食堂で注文を取ってもらったおかみさんの叫び声が倉庫内にこだまする。余りの酷い青年のその姿を見て半狂乱となっている。
「なんで、なんで、ハリーがこんな目に。ハリー、ハリー!? 返事をしてちょうだい!」
俺は無言で倉庫を出る。後1日で解決できなければ血の雨が降るだろう。倉庫からは悲痛なおかみさんの慟哭が外にまで響いていた。
「俺が剣士のサンドラ。右隣が支援系魔術師のシルヴィオ、左隣が攻撃系魔術師のオースティだ」
空き地にて、対面のサンドラはそう俺に冒険者パーティーの自己紹介をした。
「ジュリアーノファミリーの人と揉めたという話を聞きまして」
俺はサンドラたちに面会の要件はまだ伝えてなかった。
「そうだけど、それが何か? 兄弟団が捜査するような事か?」
敵対するマフィア同士が戦争になるかもしれない。その火種となりそうな最初の殺しの被害者がサンドラたちと揉めていた相手だった。今、街中で大きな話題になっているのに知らないフリだとしたら大したものだ。
「彼は死にました。遺体は酷く惨殺されていました。心当たりは?」
サンドラたちは目を見開き、お互いに顔を見合わせる。
「まさか、それを俺たちがやったと疑ってるのか?」
「違うのですか?」
「違うに決まってるだろ! 確かに揉めたのは揉めたけど、殺し合いをする程じゃない。くだらない酒場での喧嘩だぞ?」
「どんな喧嘩だったんですか?」
「確か、最初は俺たちがうるさいとかで文句言ってきたんだよ、奴が。それで売り言葉に買い言葉になって。俺たちが冒険者パーティーって知るとあいつは捨て台詞残して去っていったけど。それだけだぞ?」
サンドラは顔を赤くして否定している。
「それを根に持って後で殺しに行ったとか?」
「はあ? いや、そんな事ないよなお前ら」
「当然だ。揉めてた事自体、今の今まで忘れてたわ」
「……あ、ああ、そうだな」
オースティの返事が少し端切れが悪い。
「なんだ? 何かあるのかオースティ? お前、まさか、その傷……」
「…………」
オースティは青い顔をして黙っている。その時、
「すいません、怪我の治療で宿に伺ったんですけど……」
いつかの治療師のレックスだ。
「ああ、すいません、急な面会の予定が入って」
オースティが詫びをいれる。
俺たちはサンドラたちが拠点にしている宿屋の近くの空き地で話している。
「オースティ。せっかくだから治療してもらえ。それで治療してもらいながらさっきの話しの続き話せよ」
オースティは腕に巻いていた包帯を取る。
そこには痛々しい大きな切り傷が広がっていた。
切り傷は縫い合わされているが、その処置は雑なようで血がにじみ出ている。
「……あいつの事、許せなくて、次の日休暇の時に俺は会いに行ったんだよ。ジュリアーノファミリーっていう事は聞いてたから。組事務所の前で張って、奴が出てきたら声をかけて……」
「ちょっと一旦抜糸しちゃいますね。血が出るとは思いますが、縫ったままの状態だとその状態で完全治癒しちゃうと変形しちゃうので」
「あ、はい、お願いします、先生」
オースティの告白の傍ら、レックスは手際よく、処置を進めていく。
オースティンの顔が抜糸の痛みの為か一瞬歪む。だが次の瞬間にはなんでもないように話しを続ける。冒険者だからだろうか、そのような痛みや傷には慣れているようだった。
「それでやり合う事になって……でも殺してねえぞ! 俺は腕を切られて、奴は顔に火傷を負ってた。それで痛み分けっていう事で話はついたんだ」
レックスが詠唱を始めたかと思うと、レックスがかざした手から光の粒子がオースティの腕に注がれる。すると、あれだけ酷かった傷が傷一つない状態へと完治する。
「殺ってないんだな?」
「ああ、誓う。俺は殺ってねえ」
「そういう事です」
オースティと話していたサンドラは俺と向き合って、そう伝える。
だが、俺の頭には全く別の可能性が浮かび上がっていた。
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