第27話 久々の喧嘩
「ルスランが第2王子のブルータス様と懇意にしているというのは本当だよ」
場所は双子の民家の台所。
かまどからは俺に出してくれるコーヒー用のやかんから湯気が噴き出していた。
「なんで、それが分かるの?」
「だって、俺たち王宮にソーマ届けに行った事あるもん」
「第2王子宛に?」
「「うん!」」
随分と思い切った事をさせる。
万が一衛兵に持ち物検査をされて、ソーマが見つかって、それを双子に自供されて、とか考えないのだろうか。
「じゃあ、第2王子自身がソーマ使ってるんだな」
「使ってる。王子の部屋まで行ったら、もうソーマ使う容器の用意してたし」
ソーマは水に溶かして蒸気にしてそれを吸い込む方式で吸引する。であればもう第2王子のブルータスがソーマを使用している事は確定だ。ならば攻め方は決まった。
そこでガラッと台所の引き戸が開かれ、青白い顔をした女性、双子の母親が現れた。
「ごめんなさいねえ、来客してもらったのに何ももてなしできなくて。兄弟団の方ですよね」
早速、双子の少年は自分たちが兄弟団の子弟になれることを母親に報告したらしい。態度にはあまり見せてはいないが本心ではかなり嬉しかったのだろう。
「はい、兄弟団のウィルといいます。どうも、おかまいなく。彼らからお体の調子がよくないと伺ってますので」
「すみませんねえ、何もできなくて。どうか二人をよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
「ごほっ、ごほっ!」
「母さん、部屋に戻っててよ! コーヒーとかはこっちでやるからさ!」
会釈を一つした後に母親は自室へと戻っていった。
子弟を取るという事はこうして責任を負うという事でもある。気が引き締まる思いがする。
双子は慣れない手付きで俺へのコーヒーの用意を行っている。コーヒーを頂いたら早速、動こう。
俺は双子の少年から給された、塩と砂糖を間違えて入れたコーヒーを口に含んだ後に盛大に噴き出した。
◇
再度、ルスランの邸宅の前に来たのだが、その邸宅の入口で悔しそうに何か毒づいている男がいた。男をよく見ると、それはアルフレッドだった。
「アルフレッド?」
「ああ!? ああ、なんだウィルか」
苛ついた表情をしている。
ちょっと前までは大口の取引が決まったと言って浮かれていたが……。
「どうした?」
「クソ貴族に支払いバックレられたんだよ! ちくしょう! 補填できるような金額じゃない、どうすりゃいんだよ」
アルフレッドは幼い頃から、今は家族経営してるような小さな商会だが商会を大きくする事が夢だと公言していた。
補填できないという事は商会の経営に大きなダメージ負わせる、最悪では倒産の憂き目にあわせるという事だろう。
商会を、そしてその商会を興した父を誇りとしてきたアルフレッドにとっては痛恨の極みだろう。
「だれだその貴族っって?」
顎をしゃくりルスランの邸宅を示す。
「そこの邸宅のルスランとかいうクソ野郎だよ。契約を交わしたのは執事だから俺は知らないとかほざきやがって。商人の納品後にだぞ! 商品が早く欲しいから仮契約で一旦納品してくれって言われて……完全に謀られた!」
「それならなんとかできるかもしれない」
「ほんとか、ウィル! なんでもする! 俺はどうすりゃいい?」
俺は兄弟団の任務の今までの経緯をアルフレッドに伝える。
「そうか、そういう事ならこれからかける殴り込み、俺も参加するぜ!」
焦燥し、落ち込んだ様子から一変。
闘志をその瞳たぎらせ、拳を作ってその指の関節を鳴らすアルフレッドの姿がそこにはあった。
「なんだ、誰が来たのかと思えばさっきの乞食商人と無能兄弟団の平民どもか」
がっと飛びかかりそうになるアルフレッドを手で制する。
ルスランの邸宅の応接室に通された俺達は応接室のソファーに偉そうにふんぞり返っているルスランと対峙している。
後方には先程一緒だった取り巻きの奴らも控えていた。
「ルスラン、あなたを違法薬物の麻薬ソーマを販売斡旋した罪で逮捕します」
「はっ!? 馬鹿かお前は、俺は第2王子のブルータス様と懇意にしているといっただろうが! 無敵なんだよ、俺様は!」
「兄弟団は王族への逮捕権は保持していないが、捜査権限は保持しています。ブルータス殿下に薬物検査魔法をかけても大丈夫でしょうか? もし王族に違法薬物を卸していたなんて事がバレたら、とんでもない事になりますよね」
「な、な、なっ…………。そんな事できるわけ……」
「できるんですよ。もう少し法学の授業を真面目に受けた方がいいですよ」
「てめえ、平民無勢がブルータス様に偉そうに何言ってやがる!」
「ゴミ屑の平民は俺たち貴族の下で這いつくばってりゃいいんだよ!」
「ああ、一応言っときますが、逮捕するのはルスラン、並びに、違法薬物の販売に関わった者たち全員ですよ」
「なっ、ルスラン様、こいつ……」
「そ、そんな事、平民にできるわけ……」
「おい、こいつらぶっ殺すぞ! 誰に逆らったのかを思い知らせてやる! 俺は魔術学園の成績優秀者だぞ!」
そういってルスランは威圧的に立ち上がる。
後方の取り巻きたちはそのルスランのその言葉に喜悦の色を浮かべながら同じように立ち上がる。
駄目だこいつら、心底のクズだ。
「じゃあ、表に出ましょう。幸いにも広い中庭があるんだから」
「よし! 久々の喧嘩だ!」
俺と共に、パシッと拳を手の平に重ね合わせながらアルフレッドも立ち上がる。
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