第25話 双子の二人
突然目の前に処刑台のギロチンが、ダンッと降り落ちる。
俺はびっくりして飛び起きる。
身体は……大丈夫だなんともない。
ギロチンは俺の身体とは別の場所に落ちている。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
突然、四方八方からギロチンの刃が降り落ちてくる。
それと同時に人々の笑い声が……俺を嘲笑する声が聞こえてくる。
人々の姿は見えない。
俺を名指しにして嘲笑しているわけではない。
しかし、俺は嘲笑されている対象が自分だと思ってしまう。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
ギロチンはまだ降り落ちてくる。
人々の嘲笑はまだ聞こえている。
俺は頭を抱えて地面に座り込む。
そして、最後。
次に降り落ちてくるギロチンは俺の頭の上に落ちてくる。なぜかそう悟った後に。
ダンッ!
真っ暗となった世界でその音だけが俺の意識下で鳴り響いた。
「うぁあああーーーっ!!」
俺はベットから飛び起きる。
「…………はあはあ、夢か……」
身体中から嫌な汗が噴き出している。
俺はふーっと一つ大きなため息をつく。
処刑まで後、90日。
兄弟団に入団して3ヶ月程で現在の階位は4階位だ。
部屋のカーテンを開け、朝日にしかめっ面になりながら、俺は今日の任務の支度に取り掛かる。
◇
「よう、ウィル。何してんだ?」
俺を呼ぶ声がする方向を振り向くとそこにはアルフレッドがいた。
ニコニコと景気の良さそうな顔をしている。
何か良いことがあったのだろうか?
良くも悪くも直情的なアルフレッドはすぐに顔にでる。
「兄弟団の任務に行くとこ。どうした、アルフレッド、なんか良いことあった?」
「ん? ああ、まあ、ちょっとな……」
少し話すのを躊躇するような様子を見せた後、俺の顔を一瞥した後にこいつなら話してもいいと思ったのか――
「大口の取引が決まったんだよ、ついさっきな! 相手は貴族。取扱品目は薬品の原材料。相当な利益になる! 俺が今まで受注した取引の中で一番だ!」
「そ、そうか。よかったな!」
余程うれしかったんだろう。
本業が商人のアルフレッドは俺が聞いてもいないことまで嬉しそうに一気にまくし立てた。
「このまま、正常に取引できれば親父からボーナスが貰えるはずだ。そしたら、奢ってやるから今度飲みに行こうぜ!」
「ああ、楽しみにしてる! じゃあな」
ホクホク顔のアルフレッドと別れて、俺はそのまま目的地の貧民街へと向かう。
麻薬ソーマの密売取り締まり。
それが俺が今、取り掛かっている兄弟団の任務だ。
すでに密売人は割り出し、その密売人がいる貧民街へと向かっている。
密売人は年端も行かない俺の弟と同い年の10歳の双子の少年だ。
貧民街出身で病気の母親の薬代を稼ぐ為に麻薬の密売に手を染めたらしい。
そこまでの情報は掴んでいるのだが、肝心の胴元がまだ判明していない。ただ怪しい所の目星まではついている。
だから今日、双子の兄弟をひっ捕まえて尋問して胴元を吐かせるつもりでいる。
貧民街に入っていくと石畳だった通路は土煙を立てる自然のむき出しの土道となる。
民家はバラック建ての簡素な建物が並んでいる。
よそ者に対して警戒心があるのか、ただ歩いている俺に無遠慮な視線を向けてくる物もチラホラと。
貧民街を歩いていると恐喝された。
いきなり複数人に囲まれた。
犬をけしかけられた。
建物から水をかけられた。
等々の逸話を聞いているので否が応でも警戒心は高まる。
「すいませーん」
しばらく歩いて到着した、双子の少年が母親と住むバラック建ての建物の前で俺は声をかける。
たぶん今の時間帯は二人はまだ家にいるはずだった。
玄関のドアを無言で開けて、顔だけ出した少年がこちらを値踏みするように警戒感を丸出しの表情で見つめてくる。
そこに俺は兄弟団のペンダントを懐から取り出してみせる。
「兄弟団の者だけどちょっと話を聞かせてくれるかな? 君たち双子だよね。もう一人の方も。お母さんはいいからさ」
驚いた顔をした後に少年は無言で頷き、一旦、入り口のドアを閉めた後に双子の兄弟二人して家から出てきた。
「家の前で話すのもあれだからちょっと離れようか」
双子の二人は顔を見合わせた後に頷き、俺の後についてくる。
「この辺りでいいかな」
しばらく歩いた後に俺は路地裏の空き地になっている所で止まって声をかける。
「単刀直入に言うよ。君たち麻薬の密売やってるよね。その胴元を教えて欲しい」
二人は目を見開く。おそらく兄弟団の者が来たという事からある程度の予想はしていたのだろうが、明らかな動揺がその表情に現れる。
「し、知らない! 俺たち、麻薬なんて……ソーマなんて知らない!」
「麻薬がソーマであるとはまだ一言も言ってないんだけどね」
双子はあっという顔をした後に、苦々しげに下を向くと――
「セイガ!」
「タイガ!」
双子はお互いの名を叫ぶと弾かれたようにそれぞれ逆方向に逃げ出した。
「ちょ……」
何も直ぐに拘束して牢にぶち込むつもりなどないのに……俺は仕方なく双子の片割れ、兄のタイガの後を追う。
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