第23話 策士策に溺れる
「やっぱり、バラク、お前が親方に毒含んだんだろ!」
「学のない馬鹿どもが。今、そこの兄弟団員が治癒魔法をお前にかけただろうが! 毒物を摂取しても間髪入れずにその毒を回復させれば毒は中和されて問題なくなるんだよ!」
「えっ、そうなのか?」
先程まで鬼の首をとったようだった鉱夫たちの勢いは急速に弱まる。
「今のはそうして、あなたがマーベリックさんの奥さん、あなたの奥さん、自分自身に治癒魔法をかけて、マーベリックさんだけが死ぬ状況を作ったという自供と受けとっていいですか?」
食堂内に一時の静寂が訪れる。
「ば、馬鹿な。何の根拠があってそんな事を」
「俺は鑑定魔法も使えるんですよ」
バラクの顔が青くなる。
「あなたの奥さんはもう帰ってしまったから分かりませんが。会食中に治癒魔法を使って毒を中和できたのは…………バラクさん。あなた一人だけです」
「やっぱり!!」
「よくも、親方を!!」
鉱夫たちの怒号が飛ぶ。
まさか鑑定魔法が使えるものが平民にいるとは思わなかったのだろう。
自身が毒物を入れられない状況を作り出し、万が一、全員の食事に毒物が入っている事が露呈しても、自分の食事にも毒物が入っていたと言い逃れするつもりだったのだろう。
結局はバラクしか犯人なり得ない状況証拠を自ら提供してしまった。
策士策に溺れる、とは正にこの事であろう。
「外から治癒魔法がされた可能性は?」
「その可能性は低いです。その場合は中の状況を知る透視魔法が使える必要のあるし、ある程度の遠隔での正確な治癒魔法の行使。少なくても上級以上の使い手である必要がありますから」
「可能か不可能かを聞いてる」
「……可能です」
バラクはニヤリとする。
こいつ強引に言い逃れするつもりか。
「それに可能性としては、お前らの親方が俺に罪をなすりつける為に、自分にだけ治癒魔法をかけずに自殺したという事も考えられる」
「ふざけんな!! 親方がそんな事するわけねえだろうが!!」
鉱夫たちの怒号が更に大きくなる。
「はっ! 学のない馬鹿どもめ! そこにいる兄弟団員に聞いてみろ。俺を有罪に出来るのかどうかな」
鉱夫たちの視線が俺に集中する。
「……たぶん、難しいです」
「そんな! こんなクズが野放しになるのか!」
「一体、何の為の法だよ!!」
悲痛な叫びが食堂内にこだまする。
「という事で、私は失礼するよ。マーベリック以外に誰が代表になるのか知らんが、さっさと次の交渉相手を早く用意したまえ」
ガッチリと上下左右を領兵によってガードされたバラクが食堂から悠然と外に出ていく。
「…………」
食堂内にはなんとも言えない沈黙が流れる。
「……もう無理だ、みんな戦闘の用意をしろ」
一人の鉱夫がそう述べる。
「ちょ、ちょっと待ってください! バラクはクレウスが去ってから王都に援軍要請しています。数十人かそこらで挑んでも100%勝ち目はありません!」
「親方がいなけりゃ俺は何処かでのたれ死んでた」
「俺もそうだ。きっとあのまま道を踏み外したままだったら、誰かにぶち殺されてただろう」
「兄弟団員さん、俺らはみんな多かれ少なかれ親方に恩義がある。法がどうあれこのまま黙って泣き寝入りってのは絶対ないんだよ。あんたは良くしてくれた。それは感謝してる。だけど何人たりとも俺たちを止めることはできない」
鉱夫たちはみんな腹を決めた面構えをしている。
もう無理なのか止めるのは?
このまま突っ込んでいっても勝ち目はない。奴隷落ちして無償の労働力をバラクに与えるだけだ。
その結末はきっとバラクの思惑通りだ。
腹を決めた鉱夫たちは戦闘の準備をするために、食堂を出ていく。
「もう、どうにもならないのか……?」
俺は誰にも聞かれることのない呟きをこぼす。ちょうどその時――
「安心しろ、俺がなんとかしてやる」
どこかで聞いたような声が頭上から聞こえてきたと思ったら、コロン、と何か小さな二つの玉が落ちてきた。
落ちてきた玉を拾い上げると、それは氷でできた目ん玉くらいの大きさの氷球だった。
頭上を見上げみるが、そこには当然誰の姿も見受けられなかった。
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