第22話 会食で死亡
「で今、バラク、マーベリックの両夫婦と食堂のマスターだけが、あの食堂の中にいるって訳ですか」
またビルバオ村に駆けつけた俺はフレデリクに話しかける。息子のイーノスもまた今日も傍らにいる。
鉱夫たちは食堂の外で会食での交渉の結果を首を長くして待っている。
クレウスという強者を失い、バラクにした脅しが功を奏したのかもしれない。
バラクから鉱夫たち行きつけの食堂でバラクとマーベリックと双方の妻も同席させての会食での交渉を申し出られたのだ。交渉の邪魔になるかもしれない他の鉱夫たちは同席させないという条件で。
会食という場をわざわざ設けたという事は態度を軟化させたと受け取ることができ、鉱夫たちは交渉の結果に期待を寄せている。
「親方と、領主様、今日から仲良し!」
仲良しになるまでいくのは難しいと思うが。俺はそう言うイーノスの頭をまた撫でてやる。
「きゃーーーーッ!!」
その時、食堂内から女性の悲鳴が鳴り響いた。
急いで食堂の中に駆け込む。
そこには地面に倒れたマーベリックの姿があった。
「……死んでる」
マーベリックは苦しそうな表情で目を見開いたまま事切れていた。俺はそっとその目を閉じさせる。
「いやーー! なんであなた!」
マーベリックの奥さんが覆いかぶさるように泣き崩れる。
「お、俺は何もしてないぞ。突然苦しみだして倒れたんだ。食堂のマスターも、この奥さんも見てたはずだ!」
自分が疑われるのが分かっているバラクは聞いてもいない自己弁護を始める。
俺は食堂のマスターとマーベリックの奥さんに目を向けるが、二人ともバラクのその言葉には異論がないようだ。
「毒か…………」
俺は鑑定魔法をマーベリックが食べていたという食事に対してかける。
俺の鑑定魔法はそこまで精度は高くはないが――
反応をしばらく待つと内容構成物に毒物反応がでた。
トリプゼゾル。
植物から抽出される強い毒物だ。
古来より暗殺に用いられてきた。
毒殺で確定だ。
「バラクがやったに決まってる!」
「よくも親方を!」
一部の鉱夫たちが興奮してきている。
「すいません!!」
俺は手を挙げて大声を上げる。
「現場保全の為、一旦、皆さんは食堂の外に出て頂きたい。鉱夫の方々、それに、領兵の方々も同様に」
渋々といった感じでみんな食堂から外へと出ていく。
「さて……」
俺は食堂のマスターに視線を向ける。
バラクに怪しい動きがなかったのだとしたら毒物を入れられるとしたらマスターだ。
俺は一度兄弟団に帰った時に一度、ビルバオ村の人々について洗い直したが、マスターに特に怪しい点はなかった。
実はマーベリックと揉めていたとか?
「マスター、念の為に聞きますが、食事に毒は入れていないですよね」
「入れるわけがない! もし、万が一俺が毒殺を企てるとしてもこんな自分だけしか疑われないような状況で毒殺なんか絶対にやらない!」
マスターは強く否定する。
確かにそうだろう。だが、その逆をついてというのも考えられない事もない。
「奥さん、マスターとマーベリックさんは揉めてたりしませんでしたか? マーベリックさんに借金グセがあったり、どこかで恨みをかったり」
「ここのマスターさんとうちの主人が揉めていたというのは主人からも他の人からも聞いた事はありません。後、主人は借金をする事はないです。若い時に嫌な思いをしたとかでするのもされるもの嫌っていました。恨みは……身近では思い当たる限りではないですが……」
マーベリックの奥さんはその視線をバラクに移す。
バラクには恨みを買っていただろうがという事だろう。
「もし、万が一、私が毒殺したとしたならどうやって? 私はマーベリックの食事には一切手を触れていないし、この距離だ。毒物を注入する事は不可能だぞ!」
確かにマーベリックたちとバラクたち、両夫婦の机には若干の距離が空いている。
毒物は食べ物のジャガイモの中に注入されていた。鍋の方はどうだろう?
「念の為、鍋の方も見せてもらっていいですか?」
「はい、どうぞ」
鍋の中も鑑定してみる。すると――
鍋の中のジャガイモにも毒物反応が出る。
どういう事だ?
俺は各人の食事も鑑定してみる――
全員の食事から毒物反応が出る。
まだ、摂取した量が少なかった?
それともジャガイモを食べていなかった?
「皆さん、食事のジャガイモには手をつけましたか?」
「ジャガイモでしたら1、2個は食べたはずですけど……」
「私もだ」
「私も」
みんな口にしてるとはどういう事だ?
食べ合わせ?
それぞれが口にしているのは同じ食事で飲み物は違うが……飲み物からは特に毒物反応は出てない。
マーベリックが飲んでいるのは水。
ならば水との食べ合わせという事もないだろう。
他には……。
「もう、帰らしてもらってもいいですかな。私が毒物を入れていないというのは分かってもらえたと思うので」
「いえ、どうやらジャガイモ自体に毒物が注入されていたようです。つまり原材料に入れていたという事で、バラクさんが毒物を今は入れていないにしても、ジャガイモに誰かしらが毒物を混入させる事は可能です」
「ジャガイモに毒物! ……でも何ともないぞ? お前も大丈夫だよな?」
「ええ、あなた。ジャガイモに毒物って信じられませんわ」
そりゃそうだろう。何の毒物反応も出さずにピンピンしているのだから。
「私はもう帰ってもいいですか? 今日はパーティがありまして」
人死にが出ているのだが。
この領主の妻有りという所なのだろうか。
まあバラクと共謀している様子も今のところなさそうだし、帰しても問題ないだろう。
「いいですよ、今日の所はお帰り頂いても」
「じゃあ、帰るとする……」
「奥様の方は」
どさくさに紛れてバラクの方も帰ろうとするのでそちらは止めておく。
バラクの奥さんが食堂を出るとき、鉱夫たちがまた食堂の中に入ってくる。
「どうなった?」
「何? ジャガイモに毒?」
「どうせ、親方の食事にだけ毒が入ってるんだろ」
一人がバラクの食事からジャガイモを手づかみして口に運ぶ。
「あっ、ば、馬鹿!」
《異常回復》
ジャガイモを食べた男に咄嗟に状態異常の回復魔法をかける。
「ほら、見ろ! なんともないぞ!」
鉱夫たちからは歓声が起こり、やっぱりバラクに嵌められたんだと騒いでるが…………そうか、その手があったのか。
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