第21話 領主との面談
「出自は?」
バラクとの面談の第一声はそれだった。
「平民です」
俺のその回答を聞いたバラクは露骨に表情と態度を変える。
「んで、その兄弟団が何の用だ?」
バラクはソファーに腰深く座り直してふんぞり返るようにして俺に問いかける。
分かりやすいやつだ。
「鉱山の鉱夫との話し合い。もう少しなんとかなりませんか?」
「領民は言わば領主の所有物だ。それをどうしようと俺の勝手だ。使い物にならなければ解雇という形で捨てる。最も俺の領地にいる限りは領民税はしっかりと取るがな」
領民は領主の所有物なんかではない。
領主こそ領民がいなければ成り立たないので大切にしなければならないはずだ。
だが法的には問題はない。
さて、どうするか……。
「それにしてもこんな無能が領主とは領民たちは可哀想だよ。統治能力、経営能力もここまで低いやつなんて今まで見た事がない」
俺は足組みをし、突然態度を変える。
「なに!? 平民風情が貴族の俺に向かって、今なんて言った?」
「無能領主だよ。む・の・う」
「む、む、無能だと! 俺は自分の領地から反乱は許してないし、鉱山の経営も赤字になった年など1年としてない!」
バラクはソファーから立ち上がりいきりたつ。
こんな分かりやす挑発に乗ってくれるとは。
「あそこまで領民から不満が出てる時点で無能なんてすよ」
「身分の差を理解するような頭もなく、立場もわきまえない下賤な愚か者たちの不満などでなぜ私が無能になるのだ! もう、我慢できん。おい、クレウス!」
「なんだ?」
「今の話を聞いてただろう。こいつに思い知らせろ!」
「だそうだ、ここじゃなんだから、外に出るか」
望み通りの展開になった。
ただこのクレウスという氷結の魔術師がどこまでの強さを誇っているかになるけど……。
「ほら、かかってこい」
一瞬で足元を凍らされたという事ですぐにカウンター魔法を出せるように気を張っている所に、クレウスは余裕の表情でこいこいというジェスチャーもしている。
杖すら手に取っていない。
舐められているのだろうか?
俺は剣を鞘から抜きざま、一気にクレウスとの間合いを詰めて、そのまま左上に剣を抜き去る――――がクレウスの姿はすでにそこにはなかった。
俺が……見えなかった……?
「中々のスピードだな。剣士としては少なくともA級、ひょっとしたらS級以上の実力がありそうだ」
いつの間にか俺の右後方に移動していたクレウス。
一体いつそこに移動した?
気配すら感じられなかった。
まるで時が止まったかのように……。
どっと体から冷や汗がわきでる。
もしかしたら俺はとんでもない奴を相手にしてるのか?
「どうした? 剣で敵いそうにないから諦めるか? 魔力も相当量有しているから魔術も扱えるんだろう?」
俺は一気に魔力を解放する。全開でいく。
手加減をして勝てる相手じゃない。
極限まで身体強化をかける。
火属性と氷属性。
双方上級レベルの魔力を有した魔法を同時に発現する。
そして相反するその二つの魔法を合成し、魔法剣として剣にまとわせる。
現状の自分の最高威力の攻撃。
《二色剣》
「うぉおおおおーーーッ!」
俺は今度は一瞬でクレウスとの間合いを詰め、自らの不安を打ち消すように上段からクレウスに向かって剣を振り下ろす。
「…………」
俺は自分の目を疑う。
クレウスはまた俺の目の前から消え去っていた。
「素晴らしい!」
声が聞こえた右斜め後方。無意識的な反応でそちらに振り向きざま横薙ぎの剣撃を加えようとするが――
クレウスはなんとその剣を軽々と指先で受け止めた。
更に剣にまとわせていた合成魔法の魔法剣の効果さえも打ち消さられる。
こいつは果たして同じ人間か?
合成魔法の打ち消しなどなんで初見で可能なんだ。
「魔法の無詠唱での同時発動。更にそれの合成魔法。更に更にそれを剣に纏わせて魔法剣にするだと? 暇つぶしのつもりだったが思わぬ収穫だった。お前、名をなんと言う?」
「ウィルです」
「ウィルか……その白がかった髪と目の色は生まれつきか?」
妙な点が気になるのだなと思いつつ、
「ええ、最近ちょっと白がかってきてはいますが」
「そうか…………お前は見逃してやる。先が楽しみだ」
「な!? 何を言っている、クレウス。わしの命令を聞け! そのウィルとかいう小僧に思い知らせろ! なんなら殺しても構わん。ここはわしの領地、もみ消してやる」
「おい、俺に命令できると勘違いするな。最初から暇つぶしで手伝ってやると言ったはずだぞ」
「黙れ! 平民の屑冒険者が! わしの命令が聞けんのなら即刻契約解除だ!」
「屑………だと……。誰にものを言っている……貴様」
辺り一帯に身も凍るような冷気と内臓が圧迫されるかのような圧力が加えられる。
「ひ、ひぃいいいっ!」
バラクはあまりの迫力に腰を抜かし、その場に尻もちをつく。
「……まあいい、という事で俺はお払い箱だ、ウィル。お前にまた会える日を楽しみにしてるぞ」
そう言うとクレウスはその場から去っていく。
「こ、これだからちゃんとした教育を受けていない平民は! 契約のなんたるかもちゃんと理解していない」
クレウスがいなくなった途端、バラクは元気になる。
このまま脅迫をしようとしてきたとしてバラクを逮捕するのは少し厳しい。
暴力の行使者のクレウスは消えてしまったし、彼を証人として召喚するのはたぶん難しいだろう。
状況証拠だけで証拠も証人もいない。
裁判になれば勝てないだろう。
今日の所は引き下がるか……。
「クレウスという剣と矛はいなくなりましたね。少し検討してみてください。このまま鉱夫たちを解雇いsて激怒した鉱夫たちがやけになって殺しに来たりしなければいいですが……」
バラクは顔色を青くする。
少しは効いただろうか?
その後、バラクからマーベリックとの会食の申し出がされたのはその翌日の事だった。
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