第20話 氷結の魔術師
その時、キィっと食堂の扉が開き、兵士を何人か引き連れた身なりと恰幅のいい男性が食堂内に現れた。
男はカールがかかった金髪をオールバックにして、口をへの字に曲げており、ぱっと見、頑固そうだ。
フレデリクはそのままカウンターの俺の隣に陣取る。
「ウィルって言ったよな、あんた。早速おでましだぜ。あれがこの村や近辺を統治してる領主のバラク = オズワルドだ。相変わらずいけ好かねえ面してやがる」
バラクは店の中央に用意されている椅子に座る。
食堂内の他の椅子や机は移動され、中央のバラクが座った椅子を囲むように円形に他の椅子や机は配置される。
食堂内には先程まではなかったピリピリとした緊張感が立ち込め始める。
そこにバラクの対面に用意された椅子へ腕組みをした一人の男が座る。
白髪の角刈りにその顔には年齢を思わせる皺がいくつか刻まれている。鋭い眼光をしており、その迫力は百戦錬磨の猛者を思わせる。
「あれが俺たちの親方のマーベリックよ。今のストライキで食えてない奴らに身銭きって飯を食わせたり、できた人だぜ」
「親方! 俺たちも遊んでもらえる!」
たまたま入った食堂だが、小さな村なのでここが村の集会場のような形で利用されているらしい。
「給金のアップと休日の確保。そして危険な鉱山環境の改善。それが最低条件だ」
「その要求を飲むことに私になんのメリットがあるんだ? 交渉がしたいなら交換条件が必要だぞ」
「メリット? 俺たちは人間らしい最低限の生活を要求してるだけだ。休みなく働かされて、給金は危険な鉱山仕事やってるっていうのにすずめの涙。安全に必要な設備投資もろくにせずに常に死と隣り合わせの環境で働かされる。俺たちは奴隷じゃねえんだぞ?」
そうだそうだという声が店内の鉱山の鉱夫たちから上がる。
「全員解雇してもいいんだぞ?」
ニヤリと笑みを浮かべながらバラクは告げる。
「俺たちの他にあんな劣悪な条件で働くやつが誰がいるってんだ?」
「解雇した後は奴隷を買ってくればいいだけの話だ。初期投資は必要だが、後の必要経費はお前たちより安い。王から譲り受けている領地という事で領民のお前たちを働かせてやっているにすぎない。身の程を知れ、勘違いするな!」
「ふざけんな! それじゃ俺たち奴隷と変わらねえじゃねえか!」
「働き通しでなんの楽しみもないような人生。そんなの耐えられるか!」
我慢できなくなった鉱夫たちが抗議の声を上げる。
「バラクさん、そうは言うが俺たちは奴隷じゃねえし、ましてや、黙って耐えるカカシでもねえ。不満も溜まって耐えきれなくなって爆発すれば反乱という手を使わざるおえなくなりますぜ」
鉱夫たち親方のマーベリックは身を少し乗り出しながら、低い声でバラクに凄む。
バラクはそれに眉をひそめ、
「やれるものならやってみろ。忘れたのかこの前に暴動じみた騒動を起こして、先生にこっぴどくやられたのを」
店のものたちの視線がバラクの後方にいる、魔道士のローブをきた青の髪と瞳をした青年に向かう。
バラクとともに店に衛兵と一緒に入ってきたが、バラク側の人間だったようだ。
「後3日間の猶予をやる。それまでに黙って鉱山の仕事に戻れ。そうすれば寛大な私は今回の件を不問にしてやる。そうでなければ…………お前ら屑どもは全員クビだ」
そこまで話すとバラクは椅子から立ち上がり、
「最後通告だ。己の身の程を知り、よく考える事だな」
そう言って衛兵たちを引き連れ、店から去っていく。
「誰が屑だ! 血も涙もない人間の屑はお前だろうが!」
「もう我慢ならねえ! 死ねばもろともだあ! バラクと刺し違えてでも戦って死にてえ!」
「そうだそうだ! 奴に思い知らせてやろう!」
「お前ら、落ち着けッ!!」
バラクが去り、頭に血が上った鉱夫たちをマーベリックは一喝する。
「頭に血上らせて突っ込んでいっても氷結の魔術師の返り討ちにあうだけだ。今度は下手すりゃ命だってとられかねねえ。それに領主のバラクの野郎に暴力に訴えたっていう口実を与えちまったら最悪、俺ら奴隷落ちしちまうぞ。そうなりゃあいつの思うつぼだ」
「氷結の魔術師って?」
俺は隣のフレデリクに問いかける。
「ああ、さっきバラクの後ろにいた野郎だよ。前にバラクの代理人が来て、あまりの理不尽さに俺らが暴動になりかけた時、あの野郎に一瞬で足元を凍らせられて身動きとれなくされてよ」
「……凍らせられたってそれは何人くらいですか?」
「今ここにいる、2、30人はくだらないと思うぜ」
「はい、お待ち」
頼んでいたランチがカウンターの台の上に置かれる。なんの肉だろうか。焼かれた肉にソースがかかっており、その周りに野菜が添えられて彩られている。それにパンとスープ。うまそうだ。
にしても20、30人を一気に、足元だけと言えど凍結させるなんて上級でも難しいんじゃないか?
俺も氷の上級魔法はつかえるけど、そんな限定的な使い方、少なくても俺はできない。だとしたら魔帝級という事になるが、そんな魔術師がこんな田舎に?
「その魔術師ってバラクに昔から仕えてるんですか?」
「いや、ちょっと前に冒険者ギルドから派遣されたらしい。氷結の野郎がきてからだぞ。バラクが前にもまして給金を絞り、2週間に1日あった休みまで削りやがったのは。強い奴を引き入れたから調子に乗ってやがんだ!」
なんとか親方のマーベリックに説得されたのか鉱夫たちはすごすごと帰っていくようだ。だが先程の様子から不満は限界でいつ爆発してもおかしくないだろう。
「ちきしょう、バラクの野郎! 俺たちを非人あつかいしやがって! ウィル、あんた兄弟団だろ。なんとかなりそうか」
「うーん。努力はしてみるけど、道義的に向こうが悪いからってそれで逮捕はできないんですよね。知ってるとは思うけど、この国の法は貴族に有利にできてるから……」
「そうかあ、やっぱりなあ」
なんとかして上げたいのは山々だが。向こうが一線を超えてくれば話は別になるが、今の所、この状況の打破は難しそうだ。
「兄弟団難しい? 正義の味方、悪いやつやっつける!」
「うん、まあ、兄弟団は正義の味方だけどね……」
俺はそう言ってイーノスの頭を撫でる。
とりあえずバラクの所にいって話しをしてみよう。
「おい、冷めちまうぞ」
ああ、食事がきていたのだった。
俺はナイフとフォークを片手に食事にとりかかる。
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