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第1話 処刑

「おっ、あれじゃないか? やっと来たぞ!」


「えー、あれがほんとに第7王子か? ボロボロじゃないか」


 民衆たちがざわめく中。

 太陽の日差しに思わず顔をしかめる。


 1ヶ月ぐらいであろうか。

 突然拘束され、陽の光の当たらない地下牢にぶちこまれから。


 俺は裸足にボロ衣を少しだけまとい、手には手錠がかけられている状態で処刑台へと向かう。


 裸足の足には石畳の冷たい感触と、ほぼ裸に近いような身体に当たる外気が冷たい。


「おらっ! さっさと歩け!」


 後方で監視している衛兵にこづかれる。


 ……くそっ。

 こんなことは1ヶ月前では考えられないことであった。


 マグレガー王国の第7王子こと、ルーカス=マグレガー。


 それが俺の名だ。


 レジスタンスに荷担してクーデターを企てた。

 それが俺にかけられた嫌疑だった。


「殿下の処刑が決まりました」


 無機質に俺に告げてきた執事の言葉が、まるで昨日の事のように脳裏に浮かぶ。


 無罪を強く主張したが無駄だった。


 というかこの処刑までの間にわずかでも会話できたのは俺専属の執事と俺を監視している警備兵だけだ。


「ほら、ひざまづいて顔をそこに入れろ!」


 俺はひざまづき、処刑の断頭台へと自らの首を強引に入れられる。


 …………死。


 否応なしに突きつけられる強烈な現実。

 俺は今から首をはねられて処刑されるのだ。


 ひざまずいている足がプルプルと震えてくる。

 動悸がして嫌な汗が身体中から吹き出す。


 覚悟は決めていたはずだった。

 だが実際にその段になってみると恐怖からは逃れられない事が分かる。


「へー、第7王子ってあんな顔していたんだ」


「白髪に白眼って聞いていたけどほんとにそうなんだな」


「ははっ、髪はボサボサでボロボロの今の姿は、とてもじゃないが王子には見えないな」


 憔悴し、ボロボロとなった俺の姿。

 処刑を観覧にきた民衆たちは、まるで見世物の小屋の希少動物に向けるような目を俺に向けている。

 

 よく見ると民衆たちの中にはまだ年端も行かないような子どもまでもがいた。


 子どもはその純粋な眼差しを俺に向けてきているが、はたしてこれからこの場で執行されることを理解できているのだろうか。


「静粛に! 静粛に!」


 処刑の執行官が声を張り上げると民衆たちは彼に注目し、辺りはシーンと静まり返った。


「本日、これより罪人、ルーカス=マグレガーの処刑を執行いたします。罪状はレジスタンスに荷担し、クーデターを企て、国家転覆を図った罪。刑罰はギロチンによる断首となります」


 おおぉーーーーーー!

 民衆たちの歓声が沸き起こる。


「ざまぁ見やがれ! 何が王族だ!」


「いいもの食って、いいもの着て、享楽を謳歌していたんだろう! 今、どんな気持ちだぁ!」


「重税を課して、自分たちだけはいい思いをしやがって!」


 民衆たちはつばを飛ばしながら俺に向かって次々と罵詈雑言を吐いてくる。


 日頃の王族に対する不満を吐き出しているのだろう。

 だがそんなことを俺に言われても困る。


「痛っ!!」


 民衆の一人が投げつけた小石が俺の顔面に命中した。右頬からは血が流れてくる。


「はははっ! いいぞ! ざまぁ見やがれ!」


「いいぞいいぞ! もっとやれー!」


 民衆から投げつけられる石が次から次へと俺の顔を目がけて飛んでくる。


「痛っ! 止めっ! 痛いっ! 痛い!!」


「投石を止めなさい! 刑の執行の邪魔になります!」


 執行官のその声で民衆たちの投石はやっと止まる。

 一部民衆たちはまだやり足りないのかブツブツと呟きながら不満そうだ。


 一方の俺は顔中がズキズキと痛む。

 顔面をボコボコに殴られて、かつ、錆びた刃物で切り刻まれたような痛みだ。


 なぜ俺に投石をする?

 一体、俺がお前らに何をしたというんだ!?


 俺は民衆たちを見渡す。

 傷だらけになった俺に対して嘲笑しているもの。

 薄ら笑いを浮かべているもの。


 人々の悪意が、ヘイトが、本来咎人に向けられるべきものが自分に向けられているのが分かった。


 一方、わずかでも俺に対して憐憫の情を向けていると思われるものは皆無である。


 無実の俺がなんでこんな目に……。

 余りに理不尽な状況に瞳からは思わず涙が溢れ出る。


 そして人々の悪意と憎悪の底の知れなさに恐怖を覚える。


「それでは、合図後に処刑を執行いたします!」


 最終通告だ。後は処刑の執行官が最後の号令をすれば、ギロチンのその無慈悲な刃は俺の首を目がけて降り落ちてくるはずだった。


 騒がしかった民衆たちの間を、まるでさざなみのように奇妙な静寂と緊張感とが支配していく。




 投獄中、俺が地下の薄暗く汚い牢屋で不安と恐怖に震えているとき。


 ふと謎の老人によって授けられた転生魔法を思い出した。


 そして半信半疑ながら、いちるの望みをかけ、一か八かで俺は転生魔法を発動する。


 転生魔法はここと同じ都市の別人に転生して、この処刑の日より1年前に前世の記憶を思い出すように設定した。


 賭けのテーブルに置かれているのは自分の命だ。

 賭けに勝った時の対価は未来。


 もう後、俺は転生魔法が成功することにかけるしかないのだ。

 



 俺は強く決意する。

 もしも転生が成功したのなら。


 ――転生した俺は今度こそ本気で生きて。

 ――今度こそ後悔をしないように。

 ――いい人生だったと死に際に思えるように。

 ――自分が納得できるように何者にかに成って。

 ――俺を嵌めた奴らに必ず逆襲をして。


 母と妹。そして――


「処刑執行ッ!」


 俺は、俺を、救う!!!


 ダンッ!




 ルシア暦 1324年5月3日

 マグレガー王国 元第7王子 ルーカス=マグレガー

 国家転覆罪の罪状により斬首刑に処される


【※大切なお願い】


 少しでも、


「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張って欲しい!」


 と、思って頂けましたら、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価頂けると、作者の大きなモチベになります!


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