第18話 行方不明の犯人
サーカス団のテント内部の舞台には団長のスタンプが一人だけおり、舞台の上で椅子に座って酒を煽っている。
「あれ? ダメだよ勝手に入ってきちゃ。この町での興行ももう終わりだよ」
赤ら顔のスタンプはご機嫌でそう述べる。
「新しい魔獣、もう仕入れれたみたいですね」
俺はなるべく冷静を装って話しかける。
「ああ、外の檻のね。そう、すぐに手に仕入れる事ができたよ。今回は」
「参考までにどこから仕入れたのか、教えてもらってもいいですか?」
「ダメダメ、それは企業秘密だよ」
そう言うとスタンプは瓶に入った酒を直接煽る。
「合成魔法でユーナちゃんと近所の大型犬を合成した、のではなく?」
酒を煽っていたスタンプの動きがピタリと止まる。
「…………なんでそう思う?」
声色を冷たくしたスタンプが俺に問いかける。
「外の魔獣は俺とエレナの事を知ってましたよ。それに自分で……ユーナは…………」
怒りで身が震える。
「ユーナはラッキーと舞台に上がるんだと言っていたぞッ!!」
「……ちっ」
スタンプは舌打ちを一つする。
すると先程までの興行用の外向きの柔和な愛想のいい表情とは打って変わって、冷たい光を目にたたえた表情へと変わる。
「記憶の消去が完全じゃなかったか。また上書きしねえとな」
「……この町で毎年発生している行方不明者を攫ってるのはあんたの仕業だな。その度に合成魔法で魔獣に変えて、魔獣が死んだらまた新しい獲物を攫ってきて魔獣に変えてを繰り返して……」
「……お前、何者だ?」
「兄弟団の者です」
俺は兄弟団のペンダントを懐から取り出す。
「いくら欲しい?」
「は?」
「口止め料だよ。いくら必要だ?」
「…………」
スタンプのそう述べる様から、自身が行っている事に良心の呵責は一切感じていないのだろう。
「それとは別に聞いていいですか?」
「なんだ?」
「ユーナちゃんは元に戻るんですか?」
「無理だね。魂レベルでの合成だ。無理に引き離したら間違いなく死ぬ」
「そんな! あんまりよッ!!」
瞳に涙を溜めたエレナの怒声がテント内部に響き渡る。
「……もう一つ質問です。なんでこんな事を?」
「なんで? 金儲けに決まってるだろうが。全く行方不明とうるさいからわざわざ孤児を引き取って仕込んでたのによ」
「そんな身勝手な理由でユーナちゃんの将来を! あんなに無邪気で可愛い子の将来を…………許せないッ!!」
「許してもらわなくて結構。俺も団員たちを食わせていかないといけないんでね」
ガンッ!
俺は我慢できなくなりスタンプを殴り飛ばす。
「っ! 何を怒る事があるんだ? お前らにとっちゃ全くの赤の他人のガキだろうが!」
本当に理解できないのだろう。
スタンプが殴られた頬を押さえながらそう言ってる様子に嘘はなかった。
「ユーナについては俺の役に立ちたがってたんだから、魔獣になって舞台に上がれるんだから本望だろうが! 感謝される事はあれ、え!? ひぃッ!」
俺は腰に下げた剣を鞘から抜く。
スタンプを椅子から転げ落ちて腰を抜かす。
しかし、その前にはエレナが立ちはだかった。
「駄目よウィル、殺しちゃ」
「でも……エレン、こいつは」
「駄目! こんな奴、殺す価値もないわ! こんな奴の命をウィルが背負う必要はない! 投獄して罪を償わせるべきよ!」
俺は天を仰いで瞑目する。
「お願い……ウィル……」
「…………」
俺は剣を鞘に収めた。
「……スタンプ、あなたを誘拐、及び、違法魔法の行使による罪状により、兄弟団の名の元に逮捕する」
俺はスタンプの両手に手錠をかける。スタンプは戦闘になると敵わないと悟っているのか特に抵抗は示さなかった。
その後、スタンプは有罪が認められ刑罰が確定するまで投獄される。
犯行はスタンプの単独犯でサーカス団の団員たちは団長のその所業について何も知らされていなかったらしい。
裁判で刑罰の確定を待つ前にスタンプは牢獄で自死を選んだ。そしてユーナもその道連れに連れて行かれてしまった。
魔獣となったユーナの扱いに苦慮し、ユーナがスタンプに寄り添う事を希望した為、一旦その希望を尊重して兄弟団でその受け入れ先を探している矢先の凶行だった。
あんな目にあわされてもスタンプに寄り添う選択をとったユーナには理解に苦しむが、偽りであっても愛情を示してくれたスタンプは、天涯孤独の身となったユーナにとってかけがえのない存在だったのかもしれない。
もし、依頼を放棄せずにケルン町での捜索を継続していたら結果は変わったのではないか?
人語を解して自らもしゃべるという極めて希少な魔獣を保持しているサーカス団について疑念を持つべきだったのではないか?
俺は本件についてその後も自責の念に駆られ苦しむ事になる。
本件の解決の功績で兄弟団の階位は8階位へと上がる。
これはいろんな意味で忘れる事ができない階位の昇格となった。
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