第17話 魔獣の真実
翌日もその翌日も俺はケルン町で行方不明者の捜索と聞き込みを行ったが、有力な情報は得られなかった。
また、兄弟団の情報網を使い、ケルン町で人身売買に関係していそうな人間、盗賊団など裏稼業に関わっている人間などを調べたがそれもめぼしい情報は得られず。
その日も日が沈みかけて空が赤く染まるなか途方に暮れて帰る所で、サーカス団のテントの前をまた偶然、通りかかる。
「ぐす……ぐす……」
ユーナが一つの檻の前で泣きべそをかいている。
「……ユーナちゃん、どうしたんだ?」
「……ウィルお兄ちゃん」
「名前、覚えててくれたか」
「エンハンス、死んじゃったの……」
檻の中ではこの前に見た魔獣が力なく横たわっていた。
「人語を喋れる魔獣は寿命が短いんだよ」
煙管を咥えたこの前の団員が現れる。
「そうなんですね」
「ああ、うちに仕入れている人語を喋れる魔獣は例外なく短期間で亡くなってる。泣くなユーナ。生き物はいつか死ぬんだ。エンハンスは寿命だったんだよ。いつまでの泣いてないで物事には諦めも肝心だぞ」
そう言って団員はユーナの頭をくしゃくしゃと撫でる。
諦めも肝心か……。
その様子を見て、俺は潮時かなと思う。
行方不明者の捜索とその原因の解明。
小さな町の主要な所はすべて回り、大半の町人たちに顔を覚えられるくらいに聞き込みをした。
だが芳しい情報は得られず、糸口すら掴めない。
現状ではこれ以上の状況の進展は無理だな、というのが俺の冷静な判断であった。
一旦依頼を諦める踏ん切りが自分の中でついた。
「じゃあ、兄ちゃん帰るからな。今度会えるのは1年後かな? その時はユーナちゃんが舞台に上がってるの楽しみにしてるからな」
サーカス団は1ヶ月程度、同じところに留まった後に次の興行の場所に移動する。
依頼を放棄すればケルン町に立ち寄る事もないので、これで少なくとも次の興行まではお別れになるはずだった。
「うん、ユーナ、そのうちラッキーと舞台に上がるから! 観に来てね!」
目にはまだ涙を溜めているが、一変笑顔となり元気よくユーナは答える。
俺はその後、町長に侘びを入れ、兄弟団にも行方不明の依頼を降りる事を伝える。
そして、それから1週間程時が経った後。
「ウィルさん、あの行方不明者の捜索の依頼なんですけど?」
「え?」
兄弟団の受付のカウンターを通りがかりで呼び止められる。
「人ではないけど、犬がいなくなったという情報が町長から寄せられましたが……どうしますか?」
「犬か……もしかしたら何かの手掛かりになるかもしれないから、行くだけ行ってます。ありがとう!」
俺はお礼をいってまたケルン町へ向かう。
すでに依頼は降りているのにこうしてわざわざ伝えてくれたという事は、受付のカレンはたぶん気にかけてくれていたのだろう。
「どこ行ってるのー? ウィル」
ケルン町の町長の元へと向かう途中、道端で偶然エレナと合う。
「ケルン町に。兄弟団の任務でね」
「大変なやつ?」
「うーん、今の所は大変じゃないかな」
「じゃあ、ついて行っても良い?」
「なんで? 暇なの?」
「べ、別に暇じゃないけど! ほら、まだサーカス団いるんだったら、ユーナちゃんにも会えるかなって」
エレナの家はパン屋を営んでおり、エレナはそれを手伝っている。今日も朝早くから起きて、パンの仕込みや店番などを行っているはずだ。
「あれから日付が経ってるからサーカス団はもういないかもよ」
「別にそれでもいいよ。散歩がてらに」
まあ今日は特に危険はないだろうし、いいか。
俺はエレナを聞き込みに連れて行く事にした。
「いなくなったのは大型犬だほー。一昨日からいなくなったそうだほー。人じゃないけど時期も時期なので念の為に連絡したほー」
大型犬の場所を聞くと、サーカス団がテントの設営をしていた場所の近くだという事だ。
「なんかユニークな町長さんだったね」
「ああ、初めて会った時からあんな感じだった」
「ユーナちゃんに会いたいんだほー」
「ふふっ。ほー、止めろ」
「すごい可愛かったんだほー。いなかったら寂しいほー」
エレナと取り止めもない会話をしながら目的地に向かう。
しばらく歩くと町長から聞いた、大型犬を飼っているという民家までたどり着く。
「すいませーん」
家は留守のようで何も返事はない。
大きな犬小屋が民家の庭に設置されている。
「留守みたいだな」
「じゃあ、ちょっとサーカス団まで行ってみようよ! まだテントあるみたいだしさ」
サーカス団はまだケルン町に滞在しているようで大きなテントがその民家から見えた。
「ユーナちゃんに会えるんだほー」
まだ言ってる。エレナはほーが気に入ったようだ。
すぐにサーカス団のテントに到着するが、興行が行われていた前とは違い、物音がせず人気がない。
「興行終わってるみたいだし……こりゃ、団員たちみんな暇を貰ってるんじゃないかな。人の気配がしないぞ」
「えー、残念なんだほー。ユーナちゃんもいないんだほー?」
前は積み上げられていた木箱なども消えている。もしかしたら次の興行の場所までの移動をすでに始めているのかもしれない。
閑散としたテントの周囲に俺は檻の中に入れられている魔獣を見つける。
「あれ? 新しい魔獣もう見つかったのかな?」
「新しい魔獣?」
「ああ、あの後、出演してた魔獣亡くなってたんだ」
「あら」
俺たちは魔獣が入れられた檻に近づく。
「じゃべれるかな? こんにちは、魔獣さん」
「……こん……にちは」
「すごい! しゃべった!」
エレナは無邪気に飛び跳ねる。
「エレナ……おねえ……ちゃん……」
「え!?」
俺たち二人は想像外の出来事に固まる。
しばらく時が止まったようになる。
「…………なんで、この子私の名前を?」
起こった現実を受け入れられてはいないが、エレナは絞り出すように疑問を呈する。
この前の魔獣とは明らかに違う。
前もテントの外にいて、どこからか俺たちを観察してた?
或いは……まさか……。
「……お兄ちゃんの名前は分かるか?」
「ウィル……お兄ちゃん……」
「え!? なんで、ウィルも初対面だよね?」
エレナは俺と魔獣の顔を見渡す。
俺の脳裏に最悪が想定される。
そんな……間違いであって欲しい。
もし想定通りなら、それは悪魔の所業だ。
「……お兄ちゃんとした約束……覚えてるか?」
魔獣は素直にこくんと頷く。そして――
「ユーナ……ラッキーと……舞台……上がる」
「え!? ユーナ……って言った、今? え、え、どういう事!?」
エレナは絶句する。
最悪の想定が当たってしまった……。
「ねえ、ウィル、どういう事なの? ……ウィル?」
「…………」
許せない……これが同じ人間のやる事なのか?
激流のような怒りが俺に押し寄せてくる。
俺はエレナのその問いには答えずにサーカス団のテントの中に入る。
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