第14話 試合の決着
《倍速反動》
そのユニークスキルがランバートが剣術大会の個人戦で優勝できた理由だった。
身体能力と剣術の技術の高さ。
その二つももちろんあるが、最大の要因は倍速反動という彼のユニークスキルによる所が大きい。
この倍速反動とはたとえば上から下に剣を振り下ろしたとする。
普通であれば下に到達した剣を再度上に振り上げる際は逆方向へと反発力が働く。
この反発力を逆に推進力へと変えて、しかも元の振り下ろした剣速をさらに超えるスピードが可能となるものだった。
上から下に振り下ろされた剣がそれ以上のスピードをもって間髪入れずに下から上に振り上げられる。
更に上に振り上げられた剣がまたそれ以上のスピードをもって振り下ろされる。
この攻撃がまるで倍速がかかったように徐々にスピードを上げていく。
当然上がるスピードには上限があるが、それはスキルの習熟によって変わるらしい。
これが倍速反動の能力だ。
剣で防ぎながら、時に後ろに下がり、時に横に避ける。
四方八方から絶え間なく続く連撃。
このスピード域で攻撃を喰らえばただではすまない。即死速度域だ。
肌にひりつくような緊張感の中でお互いの限界を振り絞って競い合う。
俺はまるで魂が抜けるかのようなかつてない昂揚感を味わう。
途中ランバートのスピードがそれ以上、上がらなくなる。
俺の肉体ももうそのスピードについていくのが限界だ。
腱や身体の節々が悲鳴を上げているのがわかる。
観客たちの目にはすでに俺たちの残像すら写らなくなっている。
息すらできないようなランバートの連撃の時間がどれくらい続いただろう。
ガァキイイイイイイーーーンッ
最後の一撃を受け止めた後、ランバートはその攻撃を止めた。
肩で息をしているランバートは、一息を大きく吸い、深呼吸をして息を強引に整える。
「はあ、はあ、ば、ばかな……。今の攻撃を防ぎ切るだと? あ、ありえないだろっ!!」
先ほどまでの自信に満ちた余裕はどこにいったか、ランバートの表情には驚愕と焦燥の色とが浮かんでいた。
「え!? あいつあんな目にも止まらぬ攻撃を全部防ぎきったのか!」
「個人戦優勝したんだよな、ランバートって……。これってとんでもないダークホースが表れたんじゃ……」
「全然見えなかった…………同じ人間なのか? 信じられない……」
観客たちからも驚きと賞賛の声が次々と上がる。
観客たちだけでなくランバートも信じ難いという表情をしている。
そんな声を聞く中、俺の脳裏に鍛錬の日々が蘇る。
◇
俺は剣術の鍛錬について、重力魔法を使用した鍛錬と剣術道場での対人戦の鍛錬を重ねてきた。
身体能力と剣術の向上。
両方とも順当に向上をしてきたが途中で壁に当たる。
俺が通っている剣術道場に敵になる者がいなくなったのだ。
他道場に通ってもいいが、道場毎の流派だの、派閥だのといった面倒なしがらみがある。その上にランバートと同程度の相手がいる所となると適当な道場を見つけられなかった。
そこで俺は途中から適当な魔物を相手にすることで鍛錬の変わりにしてきた。
小型の鳥類の魔物、スペリオン。
スペリオンの特徴は頑丈な体となんといってもその凄まじいスピードだ。
自身が猛スピードで突っ込んでいくことによって相手にダメージを加える。
石を猛スピードでぶつけられるようなものなので死人が出ることもあった。
ただこのスペリオン。
巣の近くでないと攻撃的になることはなく、岩山の高層部に営巣する習性があった。
ゆえに冒険者の討伐依頼対象になることもめったに無く、狩人などでなければスペリオンと邂逅することもほとんどないような魔物だ。
俺はこのスペリオンに目をつけた。
スペリオンの超スピードを捉えられれば、上級の剣士たちのスピードにもついていけると思ったからだ。
最初はスペリオンの営巣している縄張りギリギリの範囲で単体のスペリオンの相手をする。
気がついたらふっ飛ばされている。
スペリオンは余りのスピードで目で追うどころではなく、その移動を意識化に捉えること自体が最初はできなかった。
身体強化による防御力の向上がなければ鍛錬どころではなかっただろう。
鍛錬を重ねる内に次第に線でスペリオンの移動が捉えられるようになり。
次にその線の移動をどうにか目で追えるようになり。
そしてついにその攻撃を躱せるようになった。
それからは営巣している場所に徐々に近づいていく。そして一匹だけ相手にしていたのを一匹から二匹、二匹から三匹と相手にする数をどんどん増やしていった。
最終的には営巣している巣が目視できる所まで近づいてスペリオンの群れを相手にした。
四方八方から超スピードでせまってくるスペリオンを躱す。
一歩間違えば――たとえば小石で躓くだけで下手すると死亡するような危険な鍛錬だ。
毎回ボロボロになり命からがら生き延びて、を続けていく内に最初、数秒耐えられていたのが数十秒。
数十秒から数分。
数分から一時間でも躱せられるようなった時、スペリオンたちは俺が巣に近づいても無視するようになった。
こいつは相手にしても無駄だとでも思ったのだろうか。
スペリオン達の巣を目の前に悠然と歩けた時。
喜びと同時にどこかしら寂しさを感じたことを鮮明に覚えている。
◇
お互い少し呼吸が整うと一旦、俺はランバートに対して距離を取る。
その開いた距離でランバートの緊張と警戒に若干の弛緩が生じたのが分かった。
「約束に違いはないな? 俺が勝ったら兄弟団に推薦するという」
「ああ、もちろんだ、そっちこそ違えるなよ。まさかお前が俺の倍速反動の連撃を防ぎきるとは思ってはいなかったが、調子に乗るなよ! お前はまだ一撃も俺に加えれてな……」
俺が振り下ろした左上段からの振り下ろしがランバートの首と肩に直撃する。
ランバートはその一撃によって昏倒し、音もなくその場に崩れ落ちた。
観客たちは少しの間、まるで時が止まったかのように静まり返った後に――――
うぉおおおおおおーーーーーっ!!
地響きのような歓声が闘技場に響き渡る。
「いつの間に移動したんだ? まったく見えなかったぞ!」
「本当だ! 気づいたらランバートが倒れていて……一体何をしたんだ!?」
「無名の剣術道場からとんでもないダークホースが現れやがった! 個人戦優勝者を倒しちまったぞ!」
俺は刃を持たないその剣を鞘に収める。
《瞬歩》
スペリオン達の攻撃を避ける鍛錬をしていた時に発現した俺のスキルだった。
まるで一歩を踏み出すかの如く、少し離れた距離を一息の内に移動する。
瞬歩はごく稀に発現するスキルらしいがユニークスキルではない。
俺はランバートの一瞬の隙きをついて勝つために最後の最後までこのスキルを隠していた。
「ウィル! やりやがったなこの野郎!」
「大番狂わせだ! これで俺たちの道場は一躍有名になるぞ!」
アルフレッドなど、道場仲間たちが観客席からなだれ込んでくる。
数限りない称賛を受け、もみくちゃにされている中――
「お疲れ様、ウィル」
エレナが俺に声をかけると道場仲間たちは気を利かせてみんな俺たちから少し距離を取る。
「約束は守ったぞ。ランバートなんかにエレナは渡さない!」
「うん……私、信じてたからウィルのこと……」
エレナの頬が真っ赤に染まる。
ヒューヒューとはやし立てる声が観客席からも上がる。
試合後の興奮そのままに思いの丈をぶちまけてしまった。はやしたてる声で少し冷静になると身体だけでなく顔まで熱くなる。
「そ、そろそろ帰ろうか。次の試合もあるし」
俺のその一声で道場仲間たちは観客席に戻り、俺はエレナの手を取り、会場を後にする。
勝者の凱旋を観客たちは拍手をもって送ってくれる。
「ねえ、ウィル。ウィルの髪の毛と目の色、少し白くなった気がするんだけど、私の気のせいかな?」
「え、そうかな? 最近、鏡、ちゃんと見てないから分かんないや」
エレナはまじまじと俺の顔を眺めている。
帰ったら久しぶりに鏡で確認してみるか。
会場を後にしてしばらく経っても、後方からはまだ観客たちの拍手の音が鳴り響いていた。
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