第12話 試合前の励まし
剣術対抗戦の当日。
俺は選手用の個室の待合室の椅子に腰掛けながら、闘技場の観客たちの歓声をおぼろげに聞いている。
なんだか、この後、自分が試合をするのが何だか不思議な感じだ。
ランバートは先週行われた剣術ギルドによって開催された王都の剣術大会の個人戦で優勝を飾った。
個人戦で優勝。これはたとえば今からランバートがマグレガー王国の王立騎士団に入団を希望するとする。
王立騎士団はこの国のすべての騎士たちの頂点に君臨する騎士団だ。
その王立騎士団に幹部待遇で入団できる。
剣術のスキルランクは少なく見積もってもS以上。
スキルランクはSSS、SS、S、A〜F、適正無しまである。
Aランクでもかなりの上位者。全体の5〜10%以内くらいの割合だ。Sランク以上となると1〜2%以内。しかも戦闘系のスキルだ。
冒険者になるにしても一流のグループやクランからも引く手数多であろう。
剣術大会の個人戦の優勝とはそれくらいの実績と快挙だった。
ただ優勝したからといって王都で剣士としてランバートが最強かと問われるとそれは違う。
一度優勝した人間は基本的に大会からはあがり、二度と出場しないし、こういった大会に興味を示さない強者もいる。
神童、10年に一人の逸材、天才。
子どもの頃から呼ばれていたその呼び名をランバートはついにその実力を持って示した。
俺は必死に鍛錬してランバートを追いかけ、追いつき、追い抜いたつもりでいた。
だがもしかしたら、あいつは遙か遠くを駆け抜けていったのかもしれない。
ランバートの快挙を聞いてからその疑念が俺の頭を掛け巡っている。
とぎれとぎれだった歓声が一時静まった後、弾かれたように大きな歓声が響き渡る。
俺たちの前の試合が終わったようであった。
やるべきこと、やれることはすべてやり尽くしたという自負はある。
だが今回の戦いにはエレナが掛かっている為に万が一にでも負けは許されない。
そう、絶対に負けは許されないのだ。
ドアをノックする音の後、エレナが扉から顔を覗かせる。
「ウィル、大丈夫?」
緊張している俺の姿を見て心配そうに声をかける。
もういかなければならない。
俺は剣を手に取り立ち上がる。
「ああ、大丈夫だ」
「そう……よかった……ウィルならきっと大丈夫よ! 私、信じているからね!」
その力強い言葉とは裏腹にわずかに垣間見える不安そうな表情。
長い付き合いだ。どんなことを感じているのかは大体わかる。
エレナは強がってはいるが心細く、不安なのだ。
そんなエレナの様子がいじらしく、それでいてどうしようもなく可愛らしく感じられる。
自分で思っている以上に追い込まれていたのか。俺は普段では考えられないような行動に走る。
俺は思わず――エレナのその華奢な体を抱きしめたのだ。
「っ!!」
エレナは最初、驚き、その体を強張らせる。
だがすぐに安心してその力が抜けたことが分かった。
そしてエレナのその柔らかな体の体温はどんどん上昇していることがわかる。
「頑張ってくるから……」
「うん、頑張ってね……」
俺の背中に回したエレナの両腕に更に力が入ったことが分かった。
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