第10話 避けられぬ対決
「おう、久しぶり」
「久しぶり」
幼馴染のアルフレッドが、剣術道場の床にあぐらをかいている。
家庭教師の今日の仕事が終わったので子どもの頃から通っている剣術道場にやってきた。
道場では毎日夕方前くらいから門下生向けの稽古が開催されている。
「最近、道場に顔を出していなかったな、さぼりか?」
アルフレッドの体型はひょろ長で長い手足をしている。服装は白のワイシャツに小物入れのついたベストにベージュのパンツを着ていた。
商人を本業としているアルフレッドの服装はいつもこんな感じだ。
「ちょっと、いろいろあってな……ははは」
前世の記憶が蘇って、人が怖くなり引きこもっていましたとは言えない。
「なんだよ、煮え切らない態度だな」
その時、ふわっと何か甘い匂いが漂ってくる。
「今日はウィル、来たんだね」
エレナが俺を見つけてやって来た。
彼女も護身用として剣術を習っているのだ。
俺とエレナとアルフレッドのこの三人は幼い頃から一緒の幼馴染だった。
そこに突然――俺たちの目の前に偉そうにして腰に両手をそえた男が立ちはだかる。
「ようウィルとアルフレッドのバカども。才能もねえのにまだ剣術続けてんのか?」
「なんだと、ランバート」
血の気の多いアルフレッドがいの一番にランバートに向かっていく。
やれやれ、面倒な奴が来たなと俺は思う。
ランバートは合同練習を行っている隣町の剣術道場の人間だ。後ろにいつもの腰巾着の取り巻きを連れている。
歳は俺たちの一つ上で小さい頃から腕力が強く、剣術の腕も俺たちより上だった。
そういった背景から小さな頃から散々、無茶な要求をされたり、煮え湯を飲まされてきた相手である。
ランバートは大言壮語を吐くがその才能は小さい頃から圧倒的で同年代では負け無し。
近く行われる王都剣術大会の個人戦でも上位を狙えるのではと期待されているほどの実力者だ。
「ふん、弱いくせにアルフレッド、お前はいつも真っ先につっかかってくるなあ。また稽古で可愛がってやろうか?」
「なにぃ、やれるものならやってみろこの野郎!」
「ランバートさんに何言ってやがるこの雑魚野郎!」
「ぶち殺されんぞ!」
ランバートの取り巻き達が後方からくだを巻く。アルフレッドは至近距離でランバートと対峙する。そしてその鼻がランバートの鼻と接触するのではないかというほど近づいて、一歩も引かない。
こういったやり取りも面倒なのだが、ランバートが真に面倒なのはそこではない。
「まあいい、どけっ! お前なんかに用はないんだよ! 用があるのはエレナ、君だ」
「え?」
ランバートは強引にアルフレッドを押しのけ、エレナの前に進み出る。
「今日もまた美しいなエレナ。美しい赤髪を後ろで束ねて、町で見かける君も美しいが道場で拝見する君も美しい」
「う、うん、ありがと……」
エレナはそう答えながら俺の背後に隠れて顔を少しだす。
そのエレナの様子を見たランバートの額に青筋がたつ。
ランバートが真に面倒なのはエレナを狙っているという所だ。
明らかにエレナには嫌われているにもかかわらず。
「お、おい。そんな奴の後ろに隠れて、別に恥ずかしがらなくても……」
「恥ずかしがってなんかないよ、分かれよ態度で。エレナはお前とは話しをしたくないって」
「あーーんっ!」
ランバートは眉間に皺を寄せながら俺に詰め寄る。
取り巻き達も後ろから俺に暴言を吐いている。
エレナは完全に俺の背後に隠れた。
「この雑魚がっ、捻り潰してやろうかぁ! ……そうだエレナ、俺、兄弟団に入ったんだぞ!」
「えっ! 兄弟団?」
兄弟団はここの王都に本部がある自衛組織だった。
「なんでウィル、お前が食いついてくるんだよ」
兄弟団の幹部などは下手な貴族よりも権勢があり、王から警察権の行使も認められている。
何よりも民間の団体でいろいろな所に伝手があることから、情報収集能力が非常に高かった。
警察権限、捜査権限を有し、情報収集能力も非常に高い組織。
兄弟団に加入すれば前世の謀略の調査に有利に働くことは間違いない。
しかし、加入には高いハードルがある。
加入には兄弟団メンバーの推薦が必要なのだ。
俺の心に葛藤が生まれる。
ランバートに兄弟団の加入を頼むべきか……。
「……くっ……その……ランバート。よかったら、俺を兄弟団に推薦してくれないかな?」
「はっ!? 正気か、ウィル!?」
アルフレッドからすぐさまツッコミが入る。
そう、俺たちからしてみたらランバートは幼い頃から嫌な思いをさせられてきた不倶戴天の敵。
そのランバートに頭を下げて、入団の推薦を頼むなど普通であれば考えられないことなのだ。
「ふーん、お前、兄弟団に加入したいのか? じゃあ、推薦してやってもいいぞ。ただし、条件がある」
何を思いつたのかランバードはニヤニヤとしている。
俺は嫌な予感がする。こいつがこういう表情を浮かべる時にはろくなことがない。
「なんだ?」
「エレナを俺に譲れ」
「はっ!? そんな要求飲める訳が……」
「じゃあ、兄弟団への推薦は無しだ!」
「ぐっ……」
絶対に飲めないような条件を出すだけ出してきて、嫌がらせじゃないか!
ほら見ろとばかりにアルフレッドがこちらを見ている。
一方エレナは心配そうに俺の方を見ているなと思ったら、
「条件っていうなら一方的なものじゃなくって交換条件にするべきでしょ……」
エレナからの思わぬ返答に全員の視線が彼女に集中する。
「ま、まあそうだな。それじゃあ…………半年後に開催される王都の剣術大会。そこでの道場別の対抗戦で俺と戦って勝てたら兄弟団に推薦してやる。それでどうだ?」
「は? そんなの飲めるわ……」
「……いいわよ」
「ちょっ、エレナ駄目だろそれは。お前、ランバートと付き合えるのか?」
俺は慌ててエレナを止めようとするが……。
「大丈夫よ! だってウィルが勝てばいいんだもん。ウィル勝つでしょ!」
それはそうだけど万が一負けたら……。
俺が今までランバードに勝てたことがないのはエレナもよく知っているだろうに。
「恋は盲目……」
そんな中、恋愛経験がほぼない、アルフレッドが遠い目をしながら人知れず呟いている。
お前がいうな、お前が。
「良し! 俺が負けたら責任をもって、ウィルを兄弟団に推薦してやるよ。ただし、俺が勝ったらエレナ、お前は俺と付き合う! そして、……でゅふふふ!」
ランバートのその表情を見ると今すぐにでもぶん殴ってやりたい衝動が湧いてくる。
気がつくと俺たちの周りにはいつの間にか両道場の人だかりができていた。
「おおーー、エレナを掛けた決闘だぁー!」
「キャー、愛するものを掛けた戦い! 素敵ー!」
俺たちの会話は野次馬たちに聞かれてしまっていたようだ。
俺とランバートの決闘は両道場の確定事項となってしまう。
こうなればもう後には引き下がれない。
「才なき者に引導を渡すもの才ある者の責務。神が与え給う決して超えることのできない才能の壁というのを分からせてやるよ。土壇場になって逃げてくれるなよ?」
ランバートたちは高笑いを上げながら去っていく。
すると俺たちを取り巻いていたギャラリーも蜘蛛の子を散らすように消えていった。
残ったのは困った顔をしたアルフレッドと、俺への期待にふんすーと鼻息を荒くさせているエレナだけだった。
ランバートは相当な強者で現時点では俺より数段格上だ。
練習試合は何度かしたことはあるが一度も勝てていない。
だが…………あんな奴にエレナは絶対に渡さない!
エレナの為。
そして兄弟団に入って前世の謀略を有利に調査する為。
元々の想定にもあったが、強くなるという明確な目標が定まった。
俺は今日、この時からそれに向かって全力で邁進していくこととなる。
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