第9話 家庭教師
今日は教師見習いで俺に任されている貴族の少女の家庭教師の日だ。
少女の名はアリージョ。金髪のカールがかかった長髪と透き通るような白い肌をしている。俺より5歳は年下だったはずだ。
赤色が好きなようで、いつも俺が訪問した時は赤系のドレスで着飾っている。
どこか気品を漂わせる佇まいと所作は、貴族教育の賜物かまたは彼女が生まれ持ってそなえたものか。
少し気が強そうな顔立ちはしているが、ニコッと笑った時に垣間見える八重歯が可愛らしかった。
「それではマグレガー王国の建国時期とヤムール王国との関係を答えてみてください」
先ほどまでに授業した内容をさっそく質問する。
こうすることで理解力のチェックと記憶の定着にも役立ち一石二鳥なのだ。
「えーっと……マグレガー王国の建国時期はおよそ500年前で、ヤムール王国との関係は……友好国?」
「建国時期に関してはおよそ500年前で正解です。ヤムール王国との関係について、表立った敵対はしていないし、交易も結ばれているけど、友好国ではない。局所的な小競り合い、領土紛争は度々起こっているという内容でしたね。そちらは残念ながら不正解です」
「むぅーー」
不正解に不満なのかアリージョは小さな顔の頬を膨らませる。
「じゃあ、問題です!」
「え、はい」
突然、アリージョから問題が出される。
「この前、近所のアリーナおばさんは怒っていました。なぜ怒っていたでしょう?」
誰だよアリーナおばさんって。
わかるわけがない。
アリージョは負けず嫌いで、こうして自分が不正解する度に俺への対抗心を燃やして、よくわからない問題を出題してくる。
その行動はかわいいが若干、面倒くさい。
「うーん、飼い猫がおばさんのお気に入りの何かをダメにした?」
「……っ!!」
アリージョは驚愕の表情を浮かべた後に「正解!」と回答する。
適当に答えただけなんだけどな……。
「ふーん、やるわね。それで話は変わるけど、先生まだ剣術続けてるの?」
「ああ、続けてるよ」
アリージョも今でこそこんなドレスで着飾っているが剣術を嗜んでいるらしい。というのも彼女の父親が王立騎士団所属の騎士で、その影響らしかった。
父親は平民から剣一つで貴族にまで上り詰めた苦労人だ。一度会ったことはあるが、騎士にはとても見えず、眼鏡をかけた細身で学者でもしているのではないかというような風貌だった。
「ふーん、後先生って彼女いるの?」
「も、もちろん、いるさ。モテモテで困っていてね」
「ふーん」
目を細めてアリージョは応える。
どうみても疑っている表情だ。
俺はすまし顔をしながら給されている紅茶を手に取る。
「本当は?」
「あっ、はい、いません」
「童貞?」
「っ!!」
その質問で思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになるが、踏みとどまった。
こんな美少女を俺の毒霧で汚す訳にはいかない。
「も、ももも、もちろん、経験はあるとも!」
「ふーん」
またしてもアリージョは俺に冷たい視線を向ける。
くそ、これは絶対に信じていないな。
俺は平静を装いながら、
「アリージョは彼氏いるの?」
「……気になる?」
アリージョは上目遣いとなって俺に尋ねる。
「いや、気になるっていうか別に聞いてみただけだけど」
「はい、おやつはもうお終い!」
「えーーー!」
おやつが載せられたトレイにはまだクッキーがのっていたんだけど。
そこで俺は部屋に立てかけられている柱時計の時刻を確認する。もうそろそろ時間だ。
「それじゃあ、今日の授業はこの辺りで。復習はちゃんとしておくようにね」
「はい、先生」
アリージョは最後には生徒らしく従順に返事をし、次の訪問日を確認してその日の家庭教師の仕事は終わった。
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