38 淡く息づく世界
その場の雰囲気に流されそうになる。
いけない。流されては。
ーわたくしは、ひとりになるのだから。
心に決めて、声を発しようとした時。
「セーニャ、まずあたしは謝りたい。ごめん、辛い思いさせて」
「!」
びくり、と体が震えた。
ざっと血の気が引く。脳裏をよぎる、あかい、記憶。呼吸が荒くなりそうなとき、手のひらをぎゅっ、と握られる。
「大丈夫。あたしはここにいる。本当にごめん、あたしが下手打ったせいで、余計にセーニャを傷つけた」
「あ…」
ほろっと。
思いもかけず、涙が落ちたのがわかった。
握る手は冷たい。外で待っていたからだろう。
でも、とても力強い。
広くはない、かまくらの中。
近くに見える顔は、鼻先が少し赤くなって…吐く息が、白い。
吐く息が、見える。
いきてる。
このこは、いきてる。
途端にまた滲む視界に、我慢できずに俯く。
「本当、ですわ…!心配かけて…!どんなに、どんなに不安だったか…!」
「ごめん、本当に」
「なんで庇ったりするのよ…どっどれだけ、わ、わたくしがどれだけ…!」
「うん、ごめん」
「わ、わたくしなんか見捨ててよ…!なんで庇ったりするの…!」
「それは無理」
キッパリと急に否定されて、思わず顔を見上げる。
力強い、真っ直ぐな瞳。
大嫌いな、大切な眼差し。
「セーニャは…ビビーも。あたしにとって、何にも変えられない友達だから。だから、無茶する。大事だから」
「辛い思いさせてごめん。無茶してごめん」
「でも多分、また同じことをすると思う。下手は打たないようにするけど」
「だから、ごめん」
反省してるのか、してないのか分からない言葉に更に感情がごちゃまぜになる。
「ばかっ!」
「うん」
「ばか!ばか!」
「うん」
「ばか…ばか……!」
ぼろぼろと。
溢れてくるのは涙だけではなく。
「…怖かった…し、しぬかとおもった…」
「…うん」
「死ぬのはいや…こわい…」
「当たり前だよ」
「…でも、だれかが死ぬのもいや…それもいやなの…」
「…当たり前だよ」
「……ふっぐぅっ…」
「…うぇ、うえええええええ~~!!!」
「好きなだけ泣きなさいよ」
突き放す声。
声色だけなら決して優しくはない、それ。
「どうせこれだけ降ってるんだもの。誰にも聞こえやしないわ」
そのくせ、こんな時だけ、優しさの滲む声。
しんしんと降る雪は、止む気配を見せず。
それは、先程とは変わらない景色の筈なのに。
ついさっきまでは、心の底から凍りそうな景色だった筈なのに。
途方もなく、優しく、淡い世界に思えた。
更新再開です。
ゆっくりですが、よろしければお付き合いください。




