33 ビビアの怒り
「やだ」
「やだじゃないわよ」
「だってやなもんはやなんだもん」
「何でセリアナに会っちゃいけないのさ」
ぶすっと膨れた顔でそう言えば、ビビアが頭痛を堪えるように頭を抱えた。
あの日、冬祭りの初日。
ハポイと炭を取りに行った私は、前を歩く見慣れない2人組を見かけた。
どちらもこの時期、北の街で着るには薄すぎる外套。
なんとなく嫌な感じがして、見つからないよう間隔をあけて歩いた。
まぁ結論から言うと、その2人組こそが襲撃者だったのだ。
鍵をこじ開けた2人組は、1人が門扉に立ち、1人が中に入っていった。
シスターオルミエーヌから、セリアナの話を聞いていた私は『もしかして』の疑いが当たってしまったことに気づく。
衛兵を呼ぶ時間がないことも。
急いで手元に大振りの枝と、手頃な石を選んだ。
そして石を、見張りの死角にあった茂みに勢いよく投げ入れる。
緊張していたのだろう。
そちらに勢いよく顔を向けた隙に、男を思い切りよく殴りつけてやった。
二三発でようやく気を失ってくれたので、あとは室内の男を、と思ったところで何かが割れるような音。
慌てて中に入れば、丁度厨房仕事をしてたのだろう、ビビアとシスターノイアが必死になって物を侵入者に投げつけていた。
男は修道女たちの抵抗に、一瞬怯んだようだったが、同じく音を聞き付けてきたであろうセリアナを見た。
すると迷いなく、ぎらりと反射する獲物を。
セリアナに振りかぶった。
あとはもう、覚えていない。
惨状と他の者の証言によると、どうも襲撃者を蜂蜜酒の瓶でぶん殴ったらしい。
その後はありとあらゆる物で滅多打ちにしたものの、相手のナイフも腕を掠めており、トドメはさせず。
相手も相手で、平衡感覚を失い、ほうぼうのていで逃げていった、と。
どうにもこうにもそういうことらしい。
幸いにして腕の怪我は腱にも届いてはいなかったが、思ったより深く出血も多く。
縫いはしたものの発熱は免れず。
今日まで4日間、こんこんとほぼ眠っていた、そうだ。
伝聞ばかりで、そうだ、だのらしい、だのまだるっこしい。
その上犯人を逃がしてしまったのかと思うと、心の底から口惜しい。
「…くやしい…」
「………は…」
「あいつら、逃がしちゃって。くやしい。つかまえてやりたかったのに」
そうぶすくれたように言えばビビアから表情が消えた。
と。
「ば っ か じ ゃ な い の あ ん た !!!!」
どかん!と。
その小さな体の、どこから声が出ているのか不思議になるくらいの音量で、ビビアが叫んだ。
「バカだバカだとは思ってたけどここまでバカだとは思わなかったわよ!!」
「死ぬかもしれなかったのよ?!覚えてない方は楽かもしんないけど、あんた腕だけじゃなくて色んなところナイフで刺されそうになってたのよ?!」
「運良く腕だけですんで…!なのにつかまえたかっただ?ふざけんなばーーーか!!!!」
「どんだけこっちが不安だったか…!!怪我だって破傷風になったかもしれないのよ?!それくらいですんで本当に運が良かったって言うのに!!」
「命粗末にすんじゃないわよこのう⚫こ女が!!!」
肩で息をするビビア。
言ったあとで貧血を起こしたのか「うう…」と呻いて私の寝ているベッドに突っ伏す。
おろおろどうすればいいのか慌てていると
「…シスタービビア…色々な言いたいことがあるのは分かりましたが、少し譲って頂けますか?」
ひやりと静かな声。
シスターオルミエーヌ。
その人が入口にたっていた。
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