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第6話 YOKOHAMA CUBE:巻き起こる不思議な出来事!どどど…どーなるの!?

「こまつざきみさと…さん? ううん、医学部の先輩は田中先輩よ」


 としひこの突然の質問につばさは戸惑った。

 

「あ、そっちじゃなくて、プログラミングの方…」

 

「好きだ!!」

 

 としひこが話している最中に、近くの集団から突然大きな声が上がった。

 びっくりしてつばさととしひこがそちらを見た。

 もちろん、公園にいた皆の視線が一斉に集まる。

 そこにいたのは地方から来たと思われる学生の一団だった。男女3人ずつの6人。

 そのうちの男の子1人が女の子に向かって、急に告白したらしい。


 プロポーズといい、告白といい、今日は何か、いつもと雰囲気違う!

 

 つばさがそんなこと考えている横で、としひこはまた見えないドローンを飛ばしているようだった。そして、アバターでは顔色はわからないが、その告白にとても興味を持っているような視線をしていた。

 まるで、そのようなことが起こる、ということを知っていたかのようだ。

 

「あ、お前、何、急に!」

 

 という声がその学生らの間で上がる。

 しかし、最も慌てていたのは、告白をしたはずのその男の子だった。


「ま、待った! 俺はそんなこと言ってない!いや、声は出たけど、言うつもりはなかった!」

 

「嘘つけ〜」

 

「え〜ん!!」

 

 学生らの間で、にわかに騒動が起きていた。

 

 つばさからしてみれば他人事なので、なんだろう、と言う程度の出来事だ。

 

 としひこがつばさの手を引っ張るように立ち上がった。


「騒がしくなったから、もう行こう」

 

「うん。じゃあ、次ね」


 つばさが地図で指し示したのは最新の集合施設のYOKOHAMA CUBEであった。

 時間も遅くなってきたので、また2人は時間帯を現実時間に戻す。すなわち、夜のYOKOHAMA CUBEに行くことになる。

 

 立方体の形をしたYOKOHAMA CUBEは色とりどりのタイルと緑の植物の混在した外観であった。カンボジアの古代遺跡のようでもある。

 従来は西口の「松島屋」や東口の「トゴウ」に代表される百貨店や西口ダイヤモンド地下街のような小規模施設の集合体のように既存の商業施設がYAMATOにその区画を持っていることが多かった。

 ここにきて登場したCUBEはエンターテイメント映像デザイン会社チームブラボーとイコングループの株式会社ウーパが手を組んで作り上げたエンターテイメント商業施設であった。


 エントランスを入ると、8つの門がある。

 ブランド品やヨーロッパの街並みが広がるユーロ、電化製品や車に現代住宅などのテック、アニメやサブカルチャーのオタク、芸能や渋谷文化のカワイイ、自然やアフリカなどを重視したネイチャー、日本の伝統文化のオオエド、夏と南国のサマー、冬と北欧のウインター、8つのブロックがエントランスの門から見渡すことができた。

 実際はこの8つは上下左右に立体的に繋がっていて、通路が交差する場所では足の動きに合わせて天地が切り替わり空中を歩けるようになっている。

 

 としひことつばさも初めては視界がグルンと90度切り替わるその光景に戸惑ったのだが、慣れれば面白いものだった。

 通路の交差点は上に行けば、前後左右に加え、上下も店が連なる通路が広がっているのだ。

 これはバーチャルな世界ならではの光景。

 ここでしか見られない。

 

 YAMATOはそのデザイン性において厳格にデザインチームの監修が行われている。逆に言えば、出店時にデザイン監修料を支払わねば出店自体できなかった。

 美しい世界を維持するには多少の必要経費が必要なわけだ。

 もちろん、それを嫌った人達によって安価なプラットホームも構築されたことがあったが、支払っても商品が届かないことや、実際の商品とバーチャル内での差が激しいものだったり、不具合なども多くて、先んじて厳格に作り込まれたYAMATOが結局の所は安全安心ということで皆戻ってきてしまっていた。


「こっちだと思う」

 

 海外からの人も多く、CUBE内を目的もなく散策する人は多い。

 つばさは地図で確認して、としひこの手を引っ張ってカワイイブロックの通路を進んだ。原色の色が溢れていて、素敵な空間だった。

 そんなところで男の子と手を繋いで歩いている…。

 

 現実世界なら、こんなこと絶対にできない!!

 

 ということを考えながら。

 

「それにしても海外の人もすごく多いね」

 

 としひこは相変わらず、周囲の人の観察を欠かさず行っているようだ。

 

「あ、それね」

 

 と、つばさは雑誌で事前に仕入れておいた知識を思い出した。

 

「海外のお客に日本製品を売り込むための施設でもあるって、本に書いてあった」

 

「へぇ」

 

「日本語会話を可能にする翻訳アプリが、ここだとただで手に入るんだって」

 

「じゃあ、OOSANBASHIで買わなくても言い訳?」

 

「実際はアプリを入れて、買い物しなければCUBEから出るときに自動でデリートされちゃうらしいけど、ある程度買い物さえすれば、日本語変換アプリがそのまま貰えるんだって」

 

「それはお得だね」

 

「商品は海外にも拠点があって、ここで買い物さえすれば、大抵の店は次の日から1週間後には手元に届くらしいよ」

 

「ああ、聞いたことある! 日本の良いものを海外に売り込めって言う小泉首相肝いりの海外進出事業の一つだって」

 

 と話している間に、つばさたちは来たいと思っていたお店を見つけた。

 男女ともに製品を取り扱う衣料品店のバーチャル店舗である。まさに海外店舗も多い。

 

「ほら、としひこ君の洋服、選んであげる!!」

 

 戸惑うとしひこを引っ張り、つばさはあれやこれや引っ張り出してはとしひこに試着させた。まさか、このまま白Tにジーンズの格好だけではいけないだろうと。だいたいが、夏の格好ではないか。現実世界はすでに初冬なのだ。

 現実と違って、試着を選べばアバターの外観が切り替わるだけなのだから、YAMATOでの服選びは簡単だ。


 若者向けの黒のジャケットと黒のスキニーパンツを白Tに合わせてみる。

 

 素材がいいから、何でも似合うなこやつ。

 

「どうかな?」

 

 とつばさの問にとしひこははにかんだ。

 

「お洒落って、慣れてないから照れくさいけど、つばさちゃんってセンスいいね。気に入ったよ」

 

 そう言って履いているズボンの感触を確かめるかのように足を動かしている。本当に嬉しそうだ。

 つばさ的に実際はアップアップであったが、としひこにそう言ってもらってつばさはホッとした。

 

「それじゃ、会計しとくね。私からのプレゼント!」

 

 この店を選んだのは現実の衣料品店でも安価でお洒落だったからだ。

 バーチャルでアバターを装飾するものはデータだけで現物がないからなおさら安い。もちろん、希望してお金さえ払えば、この商品であれば、リアルの商品が届く。最もその場合はサイズなどの調整が必要だ。

 

「ええ!? そんな悪いよ」

 

「いーの。これ着て、次も一緒に出かけてくれれば」

 

 強引に押し切って精算した。

 そして、次のデートはの布石をしっかり打っていた。

 

「それなら、ちょっと、こっちに行こう」

 

 今度はとしひこがつばさを引っ張って来る途中に通り過ぎた渋谷系のカジュアルファッション店につばさを連れてきた。

 

「これ、つばさちゃんに似合うと思う」

 

 そう言って、つばさに試着を促したのは白いふわふわのシャツの背中につける天使の翼だった。天使の輪の飾りをすでにつけていたので、これで本当に天使のスタイルだ。

 こちらはアバター専門グッズの店舗のようだ。

 いつの間にとしひこはここまでチェックしていたのだろう?

 

 もしかして、すっごく処理能力が高い…もとい、頭がいいのかな。

 

 とつばさは感じた。

 

「ありがとう!!」

 

 こちらもたいした価格帯ではなかったので、つばさはもらうことにした。

 こんな事するのは初めてだ。男の子にプレゼントをもらうのも。

 

 としひこがつばさの白い翼に触ると、パタパタと動くようになった。

 

 そんな仕様だったのかな?

 

 とつばさは思ってしまった。

 

「あ、あそこ、ワンコのグッズが売ってるね」

 

 としひこがさらに次の店につばさと入る。

 

「可愛い! うちのファルコに買うには、リアルの商品だから、ちょっと高いなぁ」

 

 つばさが目を凝らすと見える名札の価格を見て、ちょっとがっかりした。商品情報も色々ウィンドウが開いて見えるのだ。


「うちのマンションの3、4階には犬のためのホテルと室内ドックランやショップがあるから、そこで探した方が安いかもね」

 

「え? それって、リアルの話?」

 

「あ……」

 

 としひこが口を滑らせた感じがした。

 ちょっと気まずい空気が流れる。

 

 聞かなかったことにして、つばさはとしひこの手を引いた。

 

「このあとだけど、時間あればテックブロックで360度プラネタリウム、見ていかな……」

 

「嫌いだ!」

 

 大きな声が突然つばさの声に被って周辺に響いた。


「ええっ?! お前、突然、何言ってんだ?」

 

 大声を出したと思われる人の隣の人もびっくりしていた。


「いいね〜」

 

「ちょっと〜、それ、嫌味ぃ?!」

 

「ムカつく!」

 

「そ、そそ、そうなん?」

 

「えーん!」

 

「どーしたの?急に!?」

 

「い、いや、こんなの声出すつもりじゃなかったわ!」

 

「退屈だ〜!」

 

「あんた、買い物好きだって言ってたじゃない?」

 

 にわかに周辺がうるさくなっていった。

 大声で気持ちを伝えるのが流行り病のように起こったみたい。

 ただ、それが、口に出した本人すですら、なぜか皆、慌てているように見える。

 

 呆気に取られて、つばさは喋るのをやめて周りを見渡していたが、その声はさらに増えていき、やがてあちこちで言い争う喧嘩に発展する人たちまで出始めていた。

 言わなくてもいいことを口走ったことによる衝突。それはまるで悪夢のような広がりを見せていた。

 

「なんなの…かな…」

 

 つばさはギュッととしひこの腕にしがみついた。

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