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第4話 中華街:わーーい!! 肩抱かれちゃったわよ!!

「その輪っか、可愛いね」

 

 としひこ君がつばさの頭の上に気がついてそう言ってくる。

 いくら現実の外観を元にしているとはいえ、アバターなのでここでは外観を褒めても仕方がない。そのチョイスなどのセンスを褒めるのが慣わしだった。


「ありがと。としひこ君は、前にあった時と同じ格好ね。でも、それがしっくり来てるから素敵!」

 

「そうかな?」

 

 としひこ君はそう言って、くるりとその場で回る。

 どことなく嬉しそうだ。

 

「どこか行きたいところある?」

 

「君の案内してくれるところなら、どこでも良いよ。強いて言えば、多くの人が行くようなところがいいな」

 

 面白い言い方だったが、つばさはYAMATOに入るのはまだ2回目だからね、と了解した。

 

「うん、じゃあ、メジャーな観光スポット巡りね」

 

 つばさは人指し指と人差し指の内側をくっつけて横に離す動作をした。

 その場所の空間にウィンドウが開く。

 

「ヤタ!マップを表示して!」

 

 つばさの開いたウインドウにYOKOHAMAの地図が表示される。ステーションにある小さな人影がつばさの現在位置。2本の指先でメジャーな観光スポットを押していくと色が変わった。 

 

「ヤタ、フレンドサーチ、魔王としひこ」

 

 地図にとしひこの位置も落とし込もうとしたが表示されない。

 

「あれ? おかしいな」

 

 戸惑うつばさに横から覗いていたとしひこが同じく不思議そうな顔をしたが、すぐに何か気がついたようだ。

 

「アプリの影響かもね。ぼくの方で表示されるように設定する」

 

 そう言ってしばらく動かなくなったが、次期につばさのマップにとしひこの表示が出るようになった。

 

「ありがと。じゃ、送るね」

 

 そう言ってとしひこにもマップを複製してメッセージから送る。

 

「このマップから飛べるけど、今日はゆっくり歩いていく、でいい?」

 

 時間のない観光者なら、スポットを飛んで飛んで回るところだが、今日の目的はとしひこにYOKOHAMAを案内することにあった。

 

「もちろん。ゆっくり歩いていこう」

 

 恋人であれば、ここは手を繋ぐところだ! 乙女ゲームなら、積極的に肘を絡めて歩くのも攻略のために良いのかもしれない! しかし、実際にはそんなことできるはずがなかった。たとえ、ここがバーチャルな世界ではあっても、つばさはお父さん以外でそんなことしたことないのだ。

 

「どうしたの?」

 

 フリーズしているつばさにとしひこが聞いてくる。


「ううん、なんでもない。リアルでうちの犬が足元に来たみたいなの」

 

 咄嗟にそう嘘をついて誤魔化す。

 

 ファルコ、出汁にしてごめん!

 

 そう思いつつ、つばさが歩き始める。としひこも一緒に歩き始めた。

 

「犬、飼ってるんだ。何犬?」

 

 犬の話にとしひこが食いついてきた。何を話して良いのか考えてなかったつばさには願ったり叶ったり。

 

「うん、ミニチュアシュナウザー。可愛いの!! モフモフしててね。としひこくんも飼ってるの?」

 

「うちも飼ってたけど、車の事故でお父さんとお母さんと一緒にイタリアングレイハウンドのレオンは死んでしまったから、今は飼ってない」

 

「え?」

 

 としひこの話しでつばさは固まってしまった。意外なところから、とんでもない話しが飛び出してきたからだ。


「あ、両親が亡くなったことは気にしなくていいよ。もう吹っ切れたことだし、今はやるべきことを見つけて、ぼくも昔を振り返らないようにしてるから」

 

「うん」

 

 人生経験少ない上に、両親も愛犬も健在のつばさとしては、どう言って良いのかわからなかっただけに、つばさは少しホッとした。

 

「あ、ここ」

 

 としひこが話題を変えてくれる。そんなこと話している間に、すぐについたのがYOKOHAMA CHINA TOWNであった。

 ステーションの近くは大きなデパートや市役所などの大きな建物が緑あふれる美しい街並みを形成していたが、その間のレンガ舗装の通りを進むとすぐに現れるのがCHAINA TOWNだからだ。

 白い門柱に緑の装飾がされた西の入り口で、白い虎が門の上を歩き回るようにして守護しているのが見える。


「うん、ここからがYAMATOの中華街ね」

 

 実際、飲食店が連なる横浜中華街とは違って、YAMATOのCHINA TOWNは家に届けられる冷凍食品などのお店、中国系の物品が届けてもらえるショップなどが連なっている。

 現実の中華街も彩りが賑やかだが、YAMATOのYOKOHAMA CHINA TOWNは現実世界のゴミや古さはなく、大通りには人々の他に龍が練り歩き、爆竹が大きな音と美しい光とともに爆ぜている。一年中が春節と呼ばれるのがここだった。

 歩いているアバターらは三国志時代の中国の武将や美人の格好をした人たちも結構いる。これは仕込みではなく、現実世界で着物をレンタルするサービスと同じく、外観のデータをレンタルして街歩きを楽しんでいる人たちだ。もちろん、気に入れば、買って帰ることもできる。

 

 としひこはそれらを物珍しく見ていた。

 

「ああいう外観はCHINA TOWNならでは……よ、ね……」

 

 そう言いながら、つばさの視線はとしひこに。

 腕を組む、までいかずとも、手を繋いで歩きたいな〜、と思っていたのだ。

 しかし、ここがバーチャルの世界であっても、ゲーム的にいくと決めていたとしても、勇気を出して手を繋ぐなど、つばさにはできなかった。

 

「あれは?」

 

 周りを見ていたとしひこが、通りを駆け巡る奇妙な一団に目を向けていた。

 

「あれは『逃亡中』ね。早い話し、鬼ごっこ。イベント会社の企画ゲーム」

 

 AIによる黒づくめの鬼と、与えられたミッションをクリアしながら、捕まらないように鬼ごっこしているのである。

 CHINA TOWNはYAMATOの中でも迷路のように、いや、YAMATOの中だからこそ大通りを外れると迷路のような構造をしている。

 ミッションをクリアしながら、有利になるアイテムを手に入れつつ、参加者は鬼から逃げて、鬼の巣のボスを倒すのだ。

 そんな話をつばさがかいつまんで、としひこに説明した。

 つばさも父と参加したことがあるのだ。なかなかにエキサイティングだった。

 現実の世界とは違って、アバターは走っても疲れないので、スピード設定やアイテムなどの要素がある。鬼に触られたら終わりではなく、持っている魂玉を破壊されたら終わりという、バトル要素が加わっているのだ。つまり、壊されるまではアイテムで抵抗が可能。

 つばさのお父さんは、大学の寮時代に持ち込み禁制のゲーム機とテレビを部屋に持ち込み、ゲーム部屋の主と呼ばれていた趣味人でもあり、初見のゲームで隠しアイテムを推測から実際にゲットしてしまったという推理力も持っていたから、初参加であるはずの『逃亡中』でも、いかんなくその観察能力でつばさとともにラスボスを倒すミッションまで到達していた。残念ながら、その時は最後のボスを倒せず終わっていたが。

 

 逃げる時に手を繋いで引っ張ってもらうのもありだけど、YAMATOじゃ男女の身体能力差なんてないからなぁ。

 一緒に参加したいなと思ったが、今日ではないだろう。男の子と二人でゲーム出来なかったのは、ちょっと残念ではあったが。


 なんて、自分の願望でモヤモヤとしているつばさは、気がつくととしひこが何かをしていることに気がついた。

 大通りの空に向けて何やら指示を出しているように見える。


「としひこ君、どうしたの?」

 

 声をかけられたとしひこがニッコリとした。


「ごめん、写真を撮ろうと思って。空中に透明なドローンを飛ばしてた。ほら」

 

 そう言ってとしひこがつばさの肩を抱き寄せ、建物の二階あたりを指さした。

 

「あ…」

 

 驚いたのはつばさである。バーチャルとはいえ、としひこ君の方から肩に手、手を回してくるとは!


 またもや顔が真っ赤にになりかけたが、今度は派手なエフェクトを事前に切る設定にしておいたので避けられた。でも、リアルの本体は心臓バクバクであろう。


「出来たよ」

 

 としひこが空中に写真を出す。

 そこには色美しい通りで肩を寄せ合って上を見上げるつばさととしひこの姿が写っていた。


「もう、びっくりした! あ、その写真、貰える?」

 

 そうおねだりしながら、昔、父にしていたように、自然にとしひこと手を組むことに成功したつばさであった。

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