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第25話 絆:横浜杏立サッカー同好会ファイトォォ!!

 対魔皇戦レイドは崩壊した。

 

 《魔皇サトラレ》、《暗黒竜アスコット》、《淫魔女帝コフレ》ら3体のボスは生き残っていると言うのに、レイドパーティーは指揮者であった左右の班長を始め、半数以上の仲間を失っている。

 そして、それは時間と共にさらに減少していっているのであった。

 

「立て直せない!」

 

 至高の壁であった仏素ふっその参謀モカブレンドが泣きを入れた途端、《暗黒竜》のブレスが暗黒竜班の面々を薙ぎ払った。

 強靭な肉体を誇る巨人や硬い防御を誇るリザードマンらまで、唸り声と共にデータロストしていく。

 

「下がれ!! う…」

 

 支援魔術師のペタマンが恐慌をきたし、生き残りのパーティーに後退を命じたが、次の瞬間に後ろから巨大な双剣で切り伏せられていた。ペタマンの実の兄妹プレイヤーであるバクマンが、《淫魔女帝》の魅了に堕ちていたのだ。

 Hartzとペタマンという支柱を失った淫魔女帝班が瓦解するのに時間はかからなかった。

 後は《淫魔女帝》の流れ出る流血のような剣で殺されるか、お互いに殺し合うだけの状態である。

 

「畜生!! しまらねぇなぁ」

 

 そう言って消えていったのは勇者パーティーに組み込まれたはずの堕天皇ゼロである。手数を多く出せる双剣使いは防御力が低かった。対魔王バフがあっても、至近からの攻撃は受けきれなかったのである。

 

 魔皇班の前衛パーティーも第五帝釈天、黒丸零式、堀内涼(本人)、アリスリデルの4人から、黒丸零式と堀内涼(本人)が姿を消して2人になっていた。

 魔皇班の勇者パーティーは《勇者》と《義賊》を失い、ガガガ、リカエル、†てぃふぇす†、ツバサ໒꒱の4人に。

 魔皇班後衛はフェリンス、すとらいかぁ、ネーネ、ルドラの4人であったが、実戦力として頼りになるのはフェリンスくらいであろう。

 

 レーヴァテインを握り締めたまま、前のめりに倒れた勇者トシヒコに、回復をかけるのは無駄ではないかと思われたが、半狂乱になって《聖女》リカエルが勇者トシヒコに回復魔法をかけていた。

 

 残りは掃討戦でしかないと思っているのか、《魔皇サトラレ》は無言のまま白く輝く翼を広げ、残りの面子に白い羽根を打ち込む。

 空を螺旋状に広がるその白い奔流は、味方を殲滅する死の刃ではあったが、見惚れるほどに美しかった。

 

 しかし、その眼前に大きな盾を広げて羽根を防ぐ者が突然現れた。

 フェリンスがツバサ໒꒱の横を離れて、単身で《魔皇》の前に躍り出たのだ。

 五月蝿いハエを追い払わんと《魔皇》がその両手でフェリンスを切り裂きにかかったが、防御を高める武技を併用したフェリンスは独力でその攻撃を凌いだ。

 金属がぶつかり合う激しい音響と壮絶な火花が何合も繰り広げられる。

 

 同時に右からガガガと第五帝釈天も襲いかかる。†てぃふぇす†は《魔皇》の頭上から〈雷撃〉の魔法を落とさんと詠唱していた。

 《魔皇》のHPは自身が起こした第二形態への変態で、すでに20%以下と危険ゾーンには突入しているのだ。

 

「小賢しい!!」

 

 苛立ちの声をあげ、《魔皇》は邪魔なフェリンスの広げられた冷やす盾スヴァリンを強力な打撃で弾き飛ばした。

 流石のフェリンスもその衝撃についにHPが尽き、盾と共に空へと人形のように跳ね飛ばされていた。

 

 その瞬間。 

 

 ツバサ໒꒱はまるでスローモーションで見ているかのように信じられないシーンを見ていた。

 

 弾き飛ばされたスヴァリンとフェリンスの裏手から、一直線にレーヴァンテインが魔皇の剥き出しになった心核へと突き出されたのだ。

 死んだはずの勇者トシヒコがムクリと起き上がって、フェリンスの後ろからその動きに連動して心核破壊の一撃をやってのけたのである。

 

 つばさは知らなかった。

 ただでさえレアな称号である勇者のエクストラスキルに〈回生〉という対魔王戦の生き返りスキルがあるということを。 

 

 勇者トシヒコくんを信じろ。

 

 父は確かにそう言っていた。

 

 諦めた時が負けた時。

 絶望的な状況であっても誰も諦めていなかった。

 彼らのその最後の秘策が一度HPがゼロになった後、油断した魔皇を〈回生〉して停止コードを心核に打ち込むことだったのだ。


 頭上から雷が落ちて《魔皇》の視界が塞がれる。

 そして、《魔皇》の胸に深々とレーヴァテインが突き刺さった。

 

「やったわ!!」

 

 †てぃふぇす†が歓喜の声を上げた。

 

 レイドのメンバーが散々にやられようとも、魔皇を倒すという執念。

 残っていたメンバーにはそれがあった。

 

 激しく魔皇が光ったように見えた。

 

 その途端、ガガガと第五帝釈天が左右に吹き飛び、痙攣と共に消えていく。

 同様に勇者も吹き飛んだが、流石の対魔皇バフのためか、リカエルの〈域癒〉が効いたのか、かろうじて生きていた。

 

 そう、《魔皇》は停止していなかった。


「勇者の過去動画をまさか朕がチェックしていないとでも思ったかね」

 

 魔皇は心核をわずかに外して自分の胸に刺さっているレーヴァテインを破壊した。

 

「KE!KE!KE!KE!」

 

 おかしな笑い声を《魔皇》が上げる。

 剣身が粉々に砕け、黒い球のよう停止コードが、レイドメンバーの唯一の希望が地面にゴロゴロと転げ落ちた。

 

「魔王相手に勇者が生き返るレアスキルなぞ、百も承知」

 

 停止コードは魔皇の後ろの方に転がっていく。

 

 油断なく《魔皇》は間髪入れずに《勇者》に白い羽根を打ち込んだ。

 

「既知のスキルが来るとわかっていれば、避けることが出来ても不思議はあるまい?」

 

 勇者トシヒコがその四肢を地面に縫い付けられた。


「殺しても生き返る敵は封ずるに限るな」

 

 そう、言って《魔皇サトラレ》は神々しい顔に邪悪な笑みを浮かべる。

 

 届かなかった。

 

 ネーネもルドラも頭を抱え、現実主義者の†てぃふぇす†ですらも膝から崩れ落ちた。

 

 絶望の空気がこの69階層を満たす。


「まだだよ!!」

 

 そんな最悪の空気の中でツバサ໒꒱が声を上げた。

 その目はまだ諦めていない。アバターの目には覇気が満ちていた。

 『クリハン』素人のつばさだからこそ諦めていなかったのだ。

 

 その声を聞いて《聖女》リカエルが動いた。

 魔皇を天空から攻撃せんと空を駆けるように翔ぶ。

 ほぼ同時に動いたのがすとらいかぁだった。槍田部長から借り受けたブリューナクの槍を投げ捨て、魔皇に目もくれず、俊敏な彼女が飛び出していく。

 

 取るに足りない攻撃力のすとらいかぁは魔皇にしてみればゴミのような存在だ。

 しかし、〈蒼穹の飛天使〉の二つ名で呼ばれるコロシアムの猛者の《聖女》リカエルは脅威となり得る。魔皇の攻撃対象は空にいるリカエルとなった。

 白い羽根が迎撃せんと無数に彼女に撃ち込まれる。

 レイドに対する広範囲攻撃の集中砲火に耐えられるほどの防御力はリカエルにもない。あぶにゃん同様にリカエルは一瞬で消えていった。

 

 その間に俊足で移動したすとらいかぁは魔皇には向かわず、その後ろへと転がっているものに追いついていた。

 まさに階層の辺縁へ消えてなくなる寸前のそれが驚くべきスピードで折り返されるように宙を飛んだ。

 

 ツバサ໒꒱も自然と体が反応していた。

 

 そう、これはいつもやっていること!

 

「つーちゃん!! やって!!」

 

 †てぃふぇす†がツバサ໒꒱に叫んだ。このタイミングで。

 合理主義者†てぃふぇす†が目を見張って、応援することしかできていなかった。 

 援護の魔法を唱えるような時間はない。

 咄嗟に出たのは彼女からつばさに嘆願するかのような叫びだった。

 

「いっけぇえ!!!」

 

 まさにドンピシャのタイミング。

 飛び込んだツバサ໒꒱が、横蹴りするように脚を繰り出す。

 そうそれはレーヴァンテインの黒い球体、球状の停止コードをツバサ໒꒱は思いっきり《魔皇》に向かって蹴り込んでいた。

 

 リカエルが相手を引きつけ、すとらいかぁによって驚くべきスピードでエンドラインから折り返されたボールは、ツバサ໒꒱によりシュートされたのだ。

 

 それは剥き出しになった《魔皇サトラレ》の心核に、吸い込まれるかのように叩きつけられた。

 本当にほんのわずかの電撃的な攻撃であった。

 

 サッカーだけは子供の頃から父とボールを蹴って遊び、同好会で綾音と璃花子に教わって鍛え続けてきたのだ。


 《魔皇サトラレ》は信じられない事態が起き、それに対処できなかったことをようやく理解したようで、大きく目を見開いた。

 心核にぶつかった黒い停止コードが分解されて濃い緑色の記号の塊がほぐれていく。それはまるで絡まったDNAが展開していくようだった。

 その記号が眩しいほど白い《魔皇》の身体を鎖で縛るかのように数条も広がっていく。

 

 《魔皇》が胸の心核から淡い緑色の光を発し、ホロホロと崩れていく。

 同時に両側の《暗黒竜》と《淫魔女帝》も、操り人形の糸が切れたかのように崩れ落ちた。

 

 《魔皇》は崩れていく自分の体を見て、一瞬の油断と戦闘力の低い者たちへの侮りが、圧倒的有利で完勝目前の自分の敗北を招いたことを悟ったようだ。

 

「ツバサ໒꒱! 忘れぬぞ! 朕を……倒した其方のことを!!」

 

 魔皇の輝く白と停止コードの緑が混ざり合って、蛍のようなライム色の儚い光の渦を撒き散らしながら、崩壊した魔皇が夜空へと広がって霧散いく。


 当のツバサ໒꒱も自分がしたことをはっきりと認識できてはいなかった。

 とにかく、無我夢中だったのだから。

 

 座り込みながら青空と白い雲の空へと広がり消えていく輝きを見てつばさは涙した。

 そして思うのだ。

 

 ああ、この世界はやっぱり、すべての一瞬が美しい、と。

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