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第24話 決着:レイド全滅寸前の攻防で勇者死亡!?

「君はさまざまな状態を想定して戦略を組み、状況に応じて修正してレイドを動かして勝つことには長けているが、理不尽と思うような想定外の事態には案外と弱い」

 

 ハッカーXは†てぃふぇす†を睨め付けながら勝ち誇った声で語っていた。

 

「百八星合戦でファランギースが君を破ったのは、まったくバカバカしいとしか言いようがない、戦略を外れて暴走するパーティーの常軌を逸した行動を認めたが故であった」

 

 魔皇を中心とした黒い爆発で全員が吹き飛んでいた。

 魔皇に肉薄していた前衛らも勇者トシヒコも、ほとんど振り出しに戻ったような位置まで離されている。

 その彼らが見ている魔皇はその形態を変えていた。

 まるで花火大会のフィナーレで空一面に白がる白い光の大爆発のような美しさ。その背には左右6対で12枚の翼が広がり、その顔は慈悲深い女性のようだった。

 

「第二形態……まさか、このタイミングで」

 

 †てぃふぇす†が悔しそうに声を漏らした。

 間近で見ていたツバサ໒꒱には、ギリっと噛む歯軋りの声が聞こえてきそうだった。


「要は想定以上の攻撃があれば良いのだろう?」

 

 余裕を持って《魔皇サトラレ》が笑みを浮かべる。天使の顔をしているのに、その笑みは邪悪だ。

 それもそのはず、レイドのメンバーはその半数が今の爆発で行動不能となり、あちこちでデータロストのため煙のように消えていった。

 戦線は崩壊したと言ってよいだろう。

 

「魔王の第二形態はHPが20%を切ると、全てのMPを消費して起きる超戦闘形態だ」

 

 背中の翼が閃くと、白い羽根が弾丸となって、追い打ちをかけるように周辺に突き刺さった。


「やべぇ」

 

 魔皇の間近にいて、爆発の直撃を受けながらもまだロストしていなかったバッドガイに大きな白い羽根が肩口に突き刺さり、地面へと縫い付けた。まさにポーションを使おうとしていた時で、その手からポーションが転がり落ちる。

 慌てて拾い使おうと試みるも、縫い付けられた体が、転がってしまったポーションに手が届くことはなかった。

 

「後は頼んだぜ」

 

 バッドガイがそう口にしたのは直後に消えてなくなる寸前であった。

 後には転がったポーションだけが残っていた。

 

「魔法が使えなくなる代わりに射撃と衝撃波と接近戦のみのモンスターとなり、むしろ倒すのに難渋する……ふ、そんなことは君は百も承知だな」

 

 後衛はフェリンスと少佐がツバサ໒꒱らを衝撃波から守り抜いた。しかし、レアアイテムである冷やす盾スヴァリンを持つフェリンスは盾を広げてその衝撃波をほぼ防いだが、ルドラとネーネの分のダメージを庇った少佐は無言のまま消えていってしまっている。


「朕はファランギースを超えたぞ。第二形態への変態のタイミングを変えただけで、君に圧勝だ」

 

「黙れ、卑怯者! ゲームのシステムはいじらないはずではなかったのか!」

 

 あぶにゃんが†てぃふぇす†に目配せをした後に、よろよろと立ち上がって、魔皇を罵倒した。

 

 面白くなかったのか、魔皇が一つの翼を振り、白い羽根をあぶにゃんに突き立てる。

 当たるかに見えた攻撃であったが、あぶにゃんはギリギリでそれを躱した。

 

「魔皇とは言ってもスペックだけで、攻撃もAI任せか?」

 

 あぶにゃんの煽りが続く。

 魔皇は流石に不快に思ったようでその言葉が終わるか終わらぬかのタイミングでスコールのように白い羽の攻撃があぶにゃんを襲った。

 さすがの熟練者も避けようがない。

 

 †てぃふぇす†のイーグルアイはあぶにゃんのデータロストを確認した。

 

 しかし、その数瞬は熟練プレイヤーたちにとっては十分過ぎるほどの時間であった。

 ツバサ໒꒱が見渡せば、生き残ったものたちは瞬く間に自身の回復を成し遂げ、切れた魔法やバフの再構築を行い、反撃に備えられたのだ。

 

 暗黒竜班も淫魔女帝班も、数は減らしているものの、自分たちの役割を忘れてはいなかった。


 Hertzらも仏素ふっそらもすぐさま隊列を組み直し、魔皇との距離を取れるように攻撃を再開した。

 素早く†てぃふぇす†は指示を出しなおしていたようだ。声によるボイスチャットでなく、メッセージを手早く打って送ることで。昔のゲーマーはそうしたことに手慣れているそうだ。

 

「勇者を信じろ! 突撃!」

 

 堕天皇ゼロが無理ゲーと言っていた状態より少なく、半数近くまで減ったレイドで同等の戦い方を維持するのはもっと無理な話だった。

 

「サトラレは変態することでこちらの数を減らし、攻撃力も増したが、そのHPは20%まで減り、外装を失っている」

 

 凛とした†てぃふぇす†の声は冷静で変わらない。つばさはレイドの誰もが諦めていない、と言うことをバーチャルの世界ではあるが、肌で感じていた。


「一方、我らは勇者パーティーが健在だ。そうだろ?みんな」

 

 勇者パーティーは対魔王バフが特に強くかかるので、あれだけ魔皇の近くにいたと言うのにロストした者はいない。


「うひょ〜、しかし、両翼はもって3分だぜ! 手早く頼んます!!」

 

 暗黒竜と対峙している仏素ふっそから泣きのボイスチャットが入る。

 黒丸零式と堀内涼(本人)がその援護に回り、第五帝釈天とあぶにゃんは淫魔女帝を引き付けるHertzらの援護に回っていた。

 

 勇者パーティーと僅かな後衛だけで魔皇に挑むという、さらに難しいミッションが課せられた形だ。

 

 その間にも魔皇が壁となる配下を召喚する。

 スケルトンウォーリアー。攻撃力は大したことがないが、盾を持っていて防御力が高く、数が召喚できるので、ワラワラと湧いてくる。

 普通のパーティーであれば、たじろいで撤退を選択するのがセオリーなほどだ。

 

 しかし、先陣を切ったのは率先して戦いそうもない《義賊》堕天皇ゼロだった。

 

「オレは引かねぇ!! オレにあるのは前進のみ! そこらへんの有象無象どもとオレを一緒にするな!!」

 

 《義賊》の称号を与えられたことで、彼の中で何かが変わったのかもしれない。

 足バフを持つ彼が誰よりも早く魔皇の陣に突っ込んでいく。

 

「貴様は百回殺しても殺し足りないくらいのクソ野郎だが、その姿勢だけは認めるぜ」

 

 僅かに遅れて《聖騎士》ガガガが続く。

 硬いはずのスケルトンウォーリアーが次々に吹き飛んで消えていく。

 

「へっ!叩くより讃え合おうってか!?」

 

 減らず口を叩きつつも、ゼロの声は嬉しそうである。

 

 それでも攻防は実のところ劣勢であった。

 《聖女》リカエルは持ち前の機動力を活かして、攻撃に回復に、スケルトンの浄化にと獅子奮迅の働きを見せ、《賢者》†てぃふぇす†も中距離攻撃の魔法をバカスカ放っていた。

 ただ、《戦乙女》のツバサ໒꒱は事実上すとらいかぁとともに戦力外に等しかったし、魔皇に止めを刺す役目の《勇者》勇者ヨシヒコは必死になって攻撃をしてはいたが、スケルトンウォーリアーらの攻撃に満身創痍となっていた。

 

 それでも、フェリンスの加護の元、すとらいかぁは持ち前の基礎能力の高さで、強弩の連射でそれなりの援護をし、ツバサ໒꒱の旗振りはレイド全員の戦闘能力の向上をもたらしている。

 ここまで戦線が崩壊しなかったのはツバサ໒꒱のバフによるものと言っても過言ではなかったろう。

 

 スケルトンウォーリアーの壁がついに尽きた。

 『クリハン』ボスの配下は時間制の無限湧きではない。

 

 ガガガとゼロを左右に配して、中央を勇者ヨシヒコが駆け抜ける。

 レーヴァテインはあと僅かでまた魔皇に肉薄していた。

 

「美里さん! ぼくは貴女を止めてみせる!」 

 

 勇者トシヒコのその声は魔皇にも届いた。

 魔皇は一瞬だけ止まったようにみえたが、勇者を薮睨みして、すぐに嘲笑していた。


「愚かな勇者だ。朕と姫を間違えるとは」

 

 その間にも激しく白い翼から羽根の弾丸が撒き散らかされる。

 肉薄していると配下を呼び出せないのだろうが、弾丸が勇者パーティーの面々へと突き刺さってHPを削っていく。

 

「姫に会いたければ、朕を倒して、70階層に上がることだな!」

 

 《聖女》リカエルが最前線で激しい攻撃に耐えつつ、方法から回復魔法を飛ばして勇者ヨシヒコのHPを全快させた。《勇者》は対魔王バフを持つ要、万が一にも死なせるわけにはいかない。

 しかし、高速の両手による攻撃と打ち込んでくる白い羽根は容赦なく勇者パーティーのHPを削り続ける。

 

「しかし、その機会は永遠に与えない」

 

 魔皇が両の手で目の前の扉を開けるかのように空間を引き裂くと、漏れ出す虹色の光の空間が垣間見えた。

 

 〈魔虹〉と呼ばれる、異空間の壁を作りながら、前方にいる敵に広範囲攻撃を加える魔王第二形態特有の攻撃。炎、風、水、土、毒、雷、氷の矢が無数に辺り一帯に美しく広がり、等しくダメージを与えていく。

 フェリンスがまたもや咄嗟に冷やす盾スヴァリンを広げて後方にいるツバサ໒꒱やすとらいかぁ、ネーネとルドラを守り抜いたが、被害が甚大であったのは左右の暗黒竜班と淫魔女王班の生き残り達であった。

 

 無差別に加えられる多属性攻撃は、予想もしていなかった方向からの攻撃を受けた周辺のレイドパーティーの面々の体力をこそぎ落とした。

 当然のことながら、彼らは自分たちの目の前に暗黒竜と淫魔女帝というレイドボスを相手にしていたので、魔皇の魔虹のこうげきと同時に対峙してるボスからの攻撃も受けたのだからたまっものではなかった。


「すまぬ〜。健闘を祈る〜」

 

 暗黒竜を相手に指揮を取っていた仏素ふっそが消えていく。

 

「ちっくしょう!!理不尽すぎる!!」 

 

 淫魔女帝を引き回していたHertzも怒声と共に消え去った。

 当然だ。彼らこそがレイドボスのヘイトを取っていたのだから、直接攻撃を喰らったのである。魔虹の氷の矢は命中対象を3秒間フリーズさせて動けなくする。

 レイドボスの攻撃をまともに喰らえばHPが瞬く間に無くなっても不思議ではない。

 そういった理不尽なボスの強力な攻撃に対して、通常であれば復活のレアアイテムや魔法があったり、死に戻りでリスポンから戻ってくる、といった対応を取るのが通常であったが、データロストしてしまう現状ではとれる戦法ではなかった。

 

「としひこ君!!」

 

 一生懸命戦旗を振っていたツバサ໒꒱が、魔虹の攻撃を一番近くで浴びてしまった勇者トシヒコの崩れ落ちていく様を見て、大声で叫んだ。

 

 その悲痛な声は《魔皇サトラレ》を大いに喜ばせたようだ。

 

 離れた場所にいる猛者達と違い、近くにいる勇者パーティーの前衛らは手痛いダメージを喰らっている。

 咄嗟にリカエルが〈裂隙〉という多属性対応のダメージ減少の魔法を前衛陣にかけてはいたのだが、ガガガやゼロのように瞬時に反応して防御をしたことがない俊彦に、魔皇の攻撃を防ぐことは難しかった。

 

 †てぃふぇす†のイーグルアイは勇者トシヒコのHPが0になったのを確認した。

 

 そう、元々が無謀な戦いだったのだ。

 レイドボス3体を同時に相手することは。

 

「《勇者》は死んだ!」

 

 魔皇が高らかと、そう宣言した。

 

 まさかの《勇者》の敗北。

 YAMATOの救済はもうなし得ないのだろう。

 つばさの脳裏にそんな言葉が浮かんだ。

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