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第22話 最終決戦開始!:そんなところに私がいる理由は?

 2029年という年は歴史的に見て世界的転換の始まりであったと考えられる。

 有機スーパーコンピューターの確立により、圧倒的演算処理がもたらされ、メタバースと呼ばれるバーチャルリアリティーの社会的基盤の整備が行われた。

 日本では未来を見据える若き指導者が台頭し、リスクを取り、新しいものへとチャレンジする意識が根付き始めている。

 

 そんな中で、YAMATOのYOKOHAMAサーバーに端を発したウィルスの発生と混乱、後にYOKOHAMAサーバーシャットダウンとして年間の十大ニュースにも選出されたその事象は、日本のみならず世界的にも注目され、そこであった出来事の動画は注意深く分析されることとなった。


 感染力の強いサトラレを活用し、YAMATOを作り出す有機スーパーコンピュータ“那由多”が正体不明のハッカーXによってハッキングされ、YOKOHAMAサーバーは外部からのアクセスが出来なくなったと言われる。

 那由多には不可視領域が発生していて、管理チームの管理が及ばなくはなっていたが、幸いにもYAMATO自体は正常に起動して運営されている。YOKOHAMAサーバー以外は異常事態というほどでもなかなっていたのだ。

 爆発的な感染力を誇るサトラレであったが、すでにその表面的な作用である感情を大声に出す、という事象はパッチによって発現しなくなっていた。

 YOKOHAMAが日本の半分を担っていた諸外国からのアバターの受け入れも、KOBEサーバーがやや過負荷ではあったがその業務をこなしていたので、落ち着きを取り戻しつつある。

 

 ハッカーXは逆に言えば、YOKOHAMAサーバーに閉じ込められた状態に近い。ハッカーXの外部からの遮断に対して、カクオン側はYOKOHAMAサーバー外部へのアクセスを制限する措置に出たからであった。

 ハッカーXが魔皇サトラレで遊んでいる間に、YAMATOの奪われた権限復活のために、鎗田部長の指揮のもとルドラ率いるカクオン保安部も着実に成果を上げていた。


 正味の話、不可視領域が出来とって、YAMATOの管理がきちんとできてへんやらと公表できるはずがあれへん!!

 

 鎗田部長は魔導師ネーネのアバターの口元を引き攣らせながら、魔皇攻略に全てをかけていた。

 《魔皇サトラレ》の核に停止コードを打ち込めば、サトラレを使って那由多を掌握しているハッカーXのアクセス権にも歯止めがかけられる。

 信頼のおけるルドラの立案を信じていた。

 

 金融まで扱っているYAMATOの暴走がここで抑え込めなければ、カクオンの信頼は失墜する。

 親族経営のカクオンにおいて、外様の部長でしかない鎗田部長の立場は非常に危うくなっていた。現場をわかっていない上司からの問い合わせや叱責に無駄な時間を取られて、胃がキリキリ痛むため、胃薬を欠かせなくなっていた。


 理由は不明やけど、ハッカーXの目的がYAMATOしいては日本の混乱やとしても、こうして遊んでるとしか思われへん状況にあるのは理解でけへん。

 それも《魔皇サトラレ》として自身を知ってか知らずか、こちらに付け入る隙を晒してるのも不思議や。

 レイドボス3体に対して1フルレイドで勝たれへんやろうと鷹を括ってるんやったら幸いやな。

 

 魔導師ネーネの前に《聖騎士》ガガガが立った。

 膝をついてガガガが魔王を倒す剣レーヴァテインをネーネに返した。

 魔導師ネーネはうなづいて、それを仰々しい形で、あらためて《勇者》の勇者トシヒコに与えた。


 《勇者》勇者トシヒコと並ぶパーティーの面々は、《聖騎士》カガガ、《義賊》堕天皇ゼロ、《賢者》†てぃふぇす†、《聖女》リカエル、そして《戦乙女》ツバサ໒꒱である。

 ここに魔王を倒しうるパーティーが揃ったことになる。


 魔皇班は第五帝釈天がリーダーの超攻略パーティーが前衛だ。熟練タンクの黒丸零式や双剣使いの堀内涼(本人)、魔導師のあぶにゃん、ブロガーで白魔導師のアリスリデルにくわえ、双星no爺の穴を実力派バッドガイが埋めることとなった。

 中央にはようやく揃った勇者パーティー。

 後衛に綾音のすとらいかぁ、つばさのお父さんのフェリンス、鎗田部長の女魔導師ネーネ、カクオン保安部ルドラ・レディの少女ドワーフ、それに前衛から下げられた開発部所属の少佐と呼ばれるMajorDomという神官戦士。もうひと枠は双星no 爺の欠員分で、これは埋められないらしい。通常であれば、アバターのデータが壊れることなくリスポンスポットで復活が可能なため、レイド編成の中に名前だけ残ってしまっているそうだ。

 

 †てぃふぇす†の指揮で階段脇の安全地帯から53人の攻略レイドチームは出て、戦場に踏み入れる。

 ツバサ໒꒱の戦旗が振られると、レイドチーム全員の体が白い光に包まれた。

 体が軽くなり、動きがいつもよりも早くなっていることを感じ取れるほどの効果だった。

 

「私より先に軽々しく死ぬな」

 

 チームに聞こえる音声で†てぃふぇす†の美しい声が響く。

 

「死ぬなら全力を出し切り、目一杯足掻いてから死ね」

 

 全員が利き腕を上に突き上げた。

 こんちくしょう!という怒号もゼロから飛んだが、その声は嬉しそうだった。

 彼らは普段コロシアムやエネミーフィールドを駆け回るゲームプレイヤーなのだ。鎗田部長の言った戦闘ジャンキーどもという蔑称もあながち間違いとは言えない。


 左の暗黒竜班3パーティーは仏素ふっそ指揮で粛々と進む。

 《暗黒竜アスコット》は外観からして“バハムート戦役”の竜王がベースで、漆黒の装甲化した鱗を身につけ、十の角を持ち、7つの冠と呼ばれる青く光る宝石を詰め込んでいた。

 すなわち、頭、胸、腹、両肩、両膝、尾の冠を潰さねば、その活動を停止させることはできない。

 戦闘力が竜王バハムートと同じだと仮定して、広範囲を焼き尽くす闇の炎のブレスに、絶え間なく落とされる落雷をかいくぐり行わなければ倒さねばならない。

 当然のこと肉弾戦も強く、近接戦闘の直撃を喰らえば、屈強なタンクですら一気にHPがレッドゾーンにに持っていかれるし、中距離にはブレスを撒き散らされ、遠距離で戦おうとすると闇魔法の一切射撃が行われるという、飛び回るタイプではないが、隙のない攻撃パターンを用意しているレイドボスであった。

 特にHPが20%を切ってからの凶暴化は、装甲のような鱗の隙間から青白い光を放ちながら強烈な破壊力で隙間なく攻撃してくるのでタチが悪い。

 

「最初から〜、倒すこと考えるのはやめちゃお!」

 

 熟練女性プレイヤーのモカブレンドが提案したのは、間違ってもHP20%以下まで削ることなく、ヘイトを取って引き離すことだけだった。

 

「〈光域〉」

「〈光盾〉」

 

 闇のブレスに対抗するため、神官系のスキルを持つものらが魔法を暗黒竜班内にかける。

 ロールプレイングゲームとは違い、『クリハン』は各個の戦闘能力が高くなければ先には進めない。パーティーを組むことが前提ではなく、基本がソロなのだから、ツバサ໒꒱とすとらいかぁやネーネとルドラ以外は全員高度な戦闘能力を持っていた。

 それこそ、コロシアムに出入りするような輩は別次元の動きをする。

 それで生計を立てているプロだっているのだから。そして、そのプロが仏素ふっそやHartzであった。

 

 戦端は左翼の《暗黒竜アスコット》の方から開かれた。

 バフかけまくりな優秀なタンクらが、前衛でガードしながら、強弩使いが最終奥義的な一撃を挨拶とばかりに打ち込むと、暗黒竜は敵を感知したとばかりにノソリと動き出した。

 

 ゆらりと空中に歪みが生じたかと思うと、光が生じて魔法の稲妻が音速で弾き出される。

 ゲームの仕様だからだが、この世界は稲妻も反射神経が良ければ避けられる。

 機動力の高いものは避け、前衛のタンクは地面に突き刺した盾で稲妻の攻撃をいなした。

 その眩い光は恐ろしいが美しい。

 

 翼を広げた暗黒竜が低空飛行で前に出てタンクらに強烈な爪の攻撃を加える。

 暗黒竜の大きさはクジラほどもある。

 立ち上がられると足元しか攻撃は届かない。ブレスを吐くときに屈み込むので、ブレスを避けるか耐えるかして、頭から頸部に攻撃をかけることは可能だ。


 しかし、そんなことは端からしなかった。

 全員が攻撃しつつ後退し、暗黒竜を魔皇から出来るだけ離すことを考えていた。魔皇が窮地に陥った際、ハッカーXが操作してくる可能性もゼロではない、というのが理由だった。

 超防御特化型の仏素ふっそが、自分たちだけでそこまで削れる可能性はないと思い、士気が下がるのを懸念してそれには触れず、モカブレンドの作戦に同意した。

 なにしろ、本来は9パーティー54人のフルレイドで臨むべきレイドボスなのだから、倒しうる領域まで削るなんて、とてもとても……というわけだ。

 幸い、この3パーティーは竜人族を始め、硬さには自信があり、プレイヤー同士の戦争の際には防衛を努める者が大半だった。

 

 思惑通り、ゆっくりと《暗黒竜アスコット》は突出の後に後退していく仏素ふっそらに苛烈な稲妻の雨を降らしながら、前進して殲滅を試み始めた。


 右の淫魔女帝班はHartz指揮で3パーティーが錐行の陣のような陣形を組み、先頭の重獣戦士Hartzに防御魔法をかけまくってから、少し遅れて淫魔女帝に襲いかかった。

 仏素ふっそらのゆっくりとした着実な動きとは対照的である。

 

 淫魔女帝はサキュバスらしく〈魅了〉を使ってくる厄介な相手である。魅了されたものは自分の意思とは関係なしに、5秒間周囲の味方に対して攻撃を行ってしまう。当然ながら、レイドに混乱が起きる。

 その上、サキュバスでありながら真紅の鎧に身を包み、大盾と長剣を用いた近接戦を、魔法の発動と共に行ってくる。

 〈飛行〉を使い空を飛べば、高機動で戦場のあちこちに移動するから、後衛からやられてしまうことも多かった。

 そして、〈魅了〉だけではなく、〈拘足〉という足元の拘束や、〈不戦〉という攻撃の停止、〈消術〉というバフ魔法のキャンセルなど、周辺に多数の魔法陣を出現させて、広域に行ってくるのだ。

 

 この難敵を抑え込むのは難しい。

 重獣戦士のHartzは支援魔導師のペタマンらと悩んだ結果、やられて逃げる…しかし死なないという作戦で引っ張り続けることとした。

 高機動のレイドボスを抑え込むにはフルレイドでも足りないくらいだが、女帝自身が調子に乗ってヘイトを取った敵を追いかけてくれるのであれば、魔皇攻略の時間稼ぎにはなるだろうという算段であった。ヘイトを取って耐えることにはHartzは慣れていた。3パーティーの支援魔法をHartzに集めて、死なないようにして引っ張る。これが支援魔術師ペタマンの作戦であった。

 

「〈爆爪〉!!!」

 

 先陣を切ってHartz渾身の巨大鉤爪による攻撃がその軌跡を残しつつ淫魔女帝に叩き込まれる。

 最初の攻撃は余裕で防ぎもしないで受けるのは地下大墳墓の淫魔女王と同じだった。

 その鎧の一部を切り飛ばすほどの衝撃的な攻撃力に淫魔女帝はHartzを敵と見定めた。

 

 空気を切り裂くような甲高い怒りの咆哮を淫魔女帝があげ、周辺の地面に攻撃の魔法陣がいくつも浮かび上がる。

 まともに喰らっては命が幾つあっても足りない。事前にかけておいた〈俊足〉の魔法により素早く淫魔女帝班の全員が、その魔法陣の出現とともに発動までのタイムラグの間に避けていた。

 この辺り、対応出来るプレイヤーだけで構成されているのがよくわかった。

 

 淫魔女帝の瞳が紅く光った。

 〈魅了〉の攻撃であったが、全員が抵抗しする。

 精神魔法への抵抗は全員にかけられているのだ。対応策はわかっている。

 その代わり、各パーティーの魔術師は結構それにかかりきりにならざるを得ない。切れるタイミングを見てはかけ直すの繰り返しである。

 また、その合間に防御や回復をかけまくる。

 

 Hartzが先頭となって淫魔女帝の攻撃を回避しつつ、機動力を発揮しながら、淫魔女帝班の3パーティーは流動的に動き、女帝を魔皇から引き剥がす方向へと戦場を変えていった。

 

 その二つのレイドチームの分隊の凄まじい動きと戦いを見て、ツバサ໒꒱はたじろいでいた。

 この面子に混ざって、ど素人であるツバサ໒꒱に、いったい何が出来るのか? 足を引っ張るだけではないかと、その足は凍りついたように動かなかった。

 

 その時に腰にポンと触れる手があった。

 

「さあ、キックオフだ」

 

 フェリンスの優しい声が聞こえた。

 身長の低いハーフフットだから、肩に手を置くのではなく、腰を後ろから支えるように触れたらしい。

 

「下を向くな、前を見て胸を張れ」

 

 フェリンスはツバサ໒꒱とすとらいかぁの二人に語りかけていた。

 

「君たちのサッカーでのパフォーマンスなら、この戦いでも活躍できる」

 

 その言葉を傍で聞いていた†てぃふぇす†が少し微笑んだ気がした。

 

「彼らが引きつけられる時間は短い。我々も進もう」

 

 †てぃふぇす†のその言葉に、両翼が敵をうまく引き離すのを待っていた中央の魔皇班が進み始めた。

 魔法を使えるものは魔法を唱え、前線の者たちは武技で己を強化し始める。

 

 ツバサ໒꒱も一緒に前に進み始める。

 

 凍りついていたはずの足が動く。

 

 胸を張り、ツバサ໒꒱は手に持つ大きな戦旗を天へと突き上げて、レイドパーティー全員にその加護が行き渡るように大きく振り回した。

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