第2話 フレンド:こぎつけた!デ、デ、デ、デートの約束
夜を挟めば、きっと一睡も出来なかったに違いない。
だが、その機会は驚くほど早くにやってくることになった。
学校が終わって、メッセージボックスを見れば、としひこくんからの返信が返ってきていた。
「フレンド申請ありがとう。案内もしてもらえると嬉しいな。さっそくだけど今夜は空いてる?」
現実世界なら夜に男の子に会うなんて、到底出来ないが、ネット内では夜の会合は当たり前のことであった。
「今日は塾がないから空いてます! ご飯の後で20時ごろどう?」
そう返すと、直ぐに返事が来た。
「20時にYOKOHAMAステーションで待ってるね」
つばさはYAMATOをログアウトして、現実世界の家に帰り、学校の復習を済ませて夜のデートに備えようとした。
いつも通り自分の部屋にあるファローズのブランコのようなラグジュアリーオフィスチェアに座っていることに気がつく。切り替えの時はいつもドキッとしていた。
つばさの家は横浜と鎌倉の境目にあるのんびりした駅の駅前マンションにあった。
区役所や地区センター、病院などが駅前に集中し、スーパーが2つあるし、商店街もあって、コンパクトに便利な横浜一小さな区である。
川沿いに区は横に広がっており、3つの駅にまたがるような形になっている。ゴミゴミしておらず、蛍も自生しているような自然をたくさん残す緑の多い区であった。
部屋を出てリビングに行くとお父さんとお母さんがいる。
つばさのお父さんは横浜の北の方の東京のベッドタウンといえる街の大学病院の分院で研鑽を積んだ運動器外科医であった。
数多くの進歩的理学療法士を輩出したリハビリテーション専門の病院を併設した私立医系総合大学の医局に属していたが、今は一介の開業医だ。
地元のクリニックなので、仕事のない日は家にいることが多い。
パンデミックの前は食べ歩きが趣味で休みとあれば出かけていた趣味人であった。
「ただいま、つばさ」
ちょうど、リビングでミニチュアシュナウザーの愛犬ファルコと戯れている。帰ってきたばかりらしい。
VR使用者用に設計されたイーロンチェアの最新型のものに腰掛けていた。
「おかえり。今日は早く帰ってきたのね」
つばさとの仲は良好な父であった。思春期になっても父を嫌ったりしない娘に育っていたので、友達からは「信じられない」と言われていたが。
「ああ、お父さんの発案で始めたものが実用化しそうだと大原教授から連絡があってね。臨床試験のプロジェクトに外部から参加するよう言われてるんだ。今から医局会に入るよ」
大原教授はお父さんのいた大学病院分院の教授で、所属する研究班の班長でもあったので、その話はたまに聞いていた。大柄な体格に大きな度量を持ち、酔っ払うと脱いで大暴れする癖のある人だと。泊まりがけの勉強会の夜の宴席でコンパニオンを観客に、素っ裸の後輩を先頭としてチューチュートレインのダンスを踊る動画はつばさも見たことがあった。
「お疲れ様! 面白い話みたいだから、後で教えてね」
そう言って飲み物を飲んで、お父さんにくっついている愛犬ファルコを奪い取ると、手荒く可愛がるのであった。
ファルコという名前だが金色ではなく、よく言って銀色の灰色と白のミニチュアシュナウザーで、モフモフしていた。灰色スヌーピーとつばさのお父さんは呼んでいる。
外に出れてルンルンした足取りのファルコの散歩に行きつつ、としひこ君を案内するプランを練り始める。しかし、男の子とデートなどしたことがないことに気がつき、あれこれ悩んでいるうちに、ファルコとは反対につばさの足取りは重くなっていくのであった。