第17話 魔王城前:大攻略戦開始!味方がそれこそ百鬼夜行!?
暗雲が塔の上を渦巻くように垂れ込めている。
紫と赤に彩られた雲は、ところどころに稲光りが横方向に走り回り、そこには破滅の刻に見られるであろう世紀末的な景色が美しさを伴って見るものの心を捉えていた。
その間近、魔王城を前にしたYAMASHITA PARKに集合する討伐レイドの中につばさはいた。隣にはリカエルこと親友の璃花子と、すとらいかぁというハンドルネームの彩音も参集している。
「つはさ、いいじゃない。クマぼん(女子)より、断然このハンドルの方がいいよ」
ツバサ໒꒱、というネームの表示がリカエルの目には見えている。
この璃花子も通常であればリカエルというネームではないのだが、YAMATOでも『クリハン』と同じくエネミーフィールドでは『クリハン』のネームと外観を選択できるそうで、璃花子は軽装備の双剣の戦士の姿をしていた。YOKOHAMAコロセウムの画面で見た彼女だ。
そして、ツバサ໒꒱は《戦乙女》の称号に恥じない銀色の鎧を身につけていた。その背にはとしひこに買って貰った羽根が広がっている。
同じように羽のように広がる装飾が美しい鎧一色は鎗田のおじさまから貸し受けた装備である。オルレアンディルこそ渡されなかったものの、身を守るのに必要な装備は最高クラスのものを用意してもらうということが、《戦乙女》の称号をもらってしまったツバサ໒꒱がこの戦いに参加する条件として鎗田部長から提示されていたのだ。
オフィシャルからの武器新規供給は、ハッカーX側にブロックされてしまっているため、それら装備は鎗田部長の私物であったが、この世界の装備は装着者の体格に応じて自動でフィットするので何の問題もない。
ツバサ໒꒱がその手に持っているのは武器ではなく戦旗。
レイド参加者全員に攻撃力強化と防御力強化のバフを与えることが出来るものだ。
ちなみに《戦乙女》の称号を持つ者はレイドやパーティーの参加者に同様のバフ効果を与えるので、倍がけ効果があることになっていた。
『クリハン』に準ずる『このすべ』において、対ボスクリーチャーに対して組むことができるレイドと呼ばれるチームは、6人組のパーティーが9パーティー、総勢54名である。一人くらい戦旗を持って戦力ダウンになったからといって、あまりある効果だ。
通常は後方に控えるレイドの指揮者が戦旗を持つものだが、戦闘能力が皆無と言って良いツバサ໒꒱がこの場合持つことになった。
判断したのはこのレイドの指揮を任された†てぃふぇす†というクリハンのプレイヤーであった。鎗田部長がすんなりと彼女を推したのは、彼女には《賢者》の称号が付与されていたかららしい。
「地軍筆頭魔導師で指揮者の†てぃふぇす†!?」
彼女を見た時にまず驚愕したのは璃花子だった。
彼女の話では、『クリハン』の選ばれしトッププレイヤー108人が天軍54名と地軍54名に別れて行われた百八星合戦の過去のイベントにおいて、地軍の指揮を取った魔導戦士だそうだ。
外観は華麗なプラチナブロンドで15歳くらいのロシア美女を彷彿とさせるハイエルフの少女。もちろん、YAMATOとは違って、「クリハン」のキャラクターの外見は現実のそれに即してはいないから、中身が少女であることはなかろう。
だいたいが、百八星合戦のイベント自体、10年は昔のものだからだ。その当時5歳でそんなことできるわけがない。
璃花子もあまりにも有名な戦いなので、その残されていた動画で知っているだけだという。その当時はまだダイブするVR導入以前で、最近はその姿をほとんど見なかったということだ。
レイドのパーティー組の時にツバサ໒꒱ら3人娘は《賢者》†てぃふぇす†に挨拶をしたが、その直前まではツバサ໒꒱にじっと視線を向けていた†てぃふぇす†が、意外にそっけない感じで答えを返してきていた。
「ツバサ໒꒱はすとらいかぁちゃんと一緒に後方の危なくないところにいてね。護衛は付けておくから」
ただ、それだけであった。外観に見合った氷の美声は、課金によって手に入る特別なそれだ。
「クリハン素人だから嫌ってるの?それともツンデレさん?」
ツバサ໒꒱はこっそりと綾音ことすとらいかぁに囁く。
ツバサ໒꒱の配属されたパーティーは対魔王のための称号持ちで構成されていた。
《勇者》は不在であったが、《賢者》†てぃふぇす†を筆頭に、オフィシャル攻略パーティーの一人である《義賊》の双星n o爺、データロストしてしまった第五帝釈天にかわって《聖騎士》の称号持ちとなったクリハン最大火力の一人だというガガガ、そしてなんと《聖女》の称号をもらっていたという璃花子ことYOKOHAMAコロセウムの強者リカエルである。《戦乙女》ツバサ໒꒱を加えて今のところ5人編成であった。
すとらいかぁはツバサ໒꒱の横にいるものの別パーティーで、堕天皇ゼロという双剣使いが護衛につけられていた。どこかで見た顔だと思ったら、としひこと君のデートの際にYOKOHAMAコロセウムでリカエルにやられていた人だ、とつばさは気がついた。
「けっ!! よりによって、なんで俺様がこんなしょんべん臭え娘の子守りをさせられんだ?」
毒付く堕天皇ゼロに、近くにいた巨大なフルプレートメイルのゴーレムのようなガガガが答える。
「カクオンオフィシャルの動画は見ただろう」
ガガガが言うのは第五帝釈天のパーティーの魔王城52階層のヘルズエンジェル戦である。すでにその映像は魔王城攻略レイドの参加者には公開されていた。
「敵はAIによるただの障害クリーチャーにあらず。後方支援部隊から敵が攻略してくる可能性が高い」
もちろん、瞬間移動に等しい高速移動でし、そのように戦うクリーチャーもいたが、従来の形式のプログラムにはない敵がいる、と言うことがだれしもの脳裏に刻まれていた。
「貴様は弱いものを殺して奪うような、むしろデータロストして欲しいほどのクソ野郎だが、腕は確かだし、機転も効くし、戦闘となれば勇敢だ」
ガガガのフルプレートの間からではその表情は窺い知れないが、その相貌は真っ直ぐに堕天皇ゼロを見ているのがわかる。
「そして、貴様は我らレイドの要の守護であり、いざという時の最後の戦力として、†てぃふぇす†殿が選んだのだ。インしたまま寝落ちしているものをポップエリアでリスキルしてキル数稼ぐようなクソ野郎だが、重要な役割りを与えられておかしくない男だ」
「へっ! 相変わらず、褒めてるんだか、貶してるんだからわからねぇ野郎だぜ」
毒づきながらも堕天皇ゼロは一応大人しくなった。もちろん、ガガガほどの男に諭されているのだからだ。
周囲を見渡せば、YOKOHAMAコロセウムの勇士やYOKOHAMAサーバーにいるクリハンプレイヤーがゴロゴロといた。百鬼夜行ほどの異形ではないにしても、普段のYAMATOでは見ない姿形の者ばかりである。
ウォーハンマーを担いだ見上げるような巨人、自分の身長よりも長い弓を持つ子供のような外観でツノを持つルシャナと呼ばれる種族、トカゲのような外観で硬い鱗に覆われたリザードマンまでいた。
最前衛を務めるのは黒丸零式とアリスリデルのいるパーティーで、堀内涼(本人)は隣の全員が足の速い遊撃部隊を率いていた。
呪文などのバフはパーティーメンバーだけに効果を持つものもあるから、実際の隊列とパーティー編成には若干の差がある。ツバサ໒꒱らと†てぃふぇす†が離れているように。
それでも、回復などパーティーバフがあるため、1パーティーに一人は回復スキルを持つものが配置されている。
ツバサ໒꒱のところだと、リカエルがそうらしい。なんでも、《奪精》と《与力》を同時に持つのはリカエルただ一人らしく、敵から奪い、自分や味方を癒すことができるのだそうだ。だからこその《聖女》称号なのかもしれない。
「やっぱ、バッドさん、来なかったか…」
電子音の声で画面の女性AKIさんと言う人が隣のバクマンという巨大な双剣を担いだ小柄な鎧の少女に話していた。
「来てるのは3分の1くらいじゃね? データロストの可能性高いもんな…」
レイドメンバーからはそんな声が漏れ聞こえてくることは多い。
この時点でサトラレにはインしているもののほとんどに感染が確認され、声出しだけはようやくカクオンのアンチウイルスワクチンで抑えられるようになっていた。
死ねば日常生活に紐づけられたデータが飛んでしまい、復旧に何日もかかり、初期設定からやり直さなければならないのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
「フン! 強いくせに来てない奴が多いね! 後で腰抜けだって笑ってやればいいよ!」
キツイ口調でリカエルが彼らにそう言った。まるっきりの姉御口調で。
「こわっ!」
璃花子がリカエルというアバターを纏うと、普段の学校のサッカー同好会会長のそれとはかなり印象が違っていたので、つばさはやや引いてしまった。
「あ、あ、みなさん、聞こえてるかいな?」
そんな時に鎗田部長がレイドの通信を通して話しかけてきた。通信はレイド、パーティーなどで、聞きモードと会話モードを選択できるようになっている。
ざわつく周囲が一斉に静まり返った。
「見ての通りの魔王城攻略にYOKOHAMAサーバーにおったみなさんだけで挑んでもらわなあかんこと、このカクオンの鎗田、保安部部長として臥してお礼を申し上げる」
本人はYAMASHITA PARKの薔薇を中心とした花園にある噴水の上に立っていた。
「せやけど、サトラレを流布し、YOKOHAMAサーバーを半ばハックしたハッカーXを無力化せねば、YOKOHAMAに平穏な日常は戻ってきまへん」
その言葉に各人が武器を持ち直す。いよいよ始まるのだと気合が入り直したのだ。
「ハッカーXはYAMATO開発の政府側責任者である小松崎美里嬢を姫として魔王城70階に拘束し、YAMATOの情報を引き出しながら、自身は69階層で魔王として待ち構えてるようや」
そこで鎗田部長は一振りの大剣を持ち上げた。
かなり変わった形をした白銀のそれは、刀身の付け根の円形の穴に、黒いボールがグルグルと回り、浮くようにはまってた。よく見るとびっしりと文字が刻まれて黒く見えるのがわかる。
「サトラレの感染能力を使って、有機スパコンの“那由多”にまで干渉能力を有した魔王の心核に、停止コードを装着したこのレーヴァテインの剣で切り付けることができれば我らの勝利や」
そう言って、鎗田部長はレーヴァテインと呼ばれた剣をガガガに渡した。
ガガガがそれを高々と掲げる。
「ウオオオオオオオ!!!」
レイドの全員が一斉に声を上げる。
慣れないツバサ໒꒱やすとらいかぁは、その雰囲気に一瞬ひいたが、すぐにみんなに合わせようと「おお!」と声を絞り出した。
何はともあれ、始まってしまったのだ。
サトラレを使ってYAMATOを壊そうとしているハッカーXとの天王山の戦いが。
それも、デスしたらデータロストの上リタイアなのに、勇者不在のまま、魔王を倒さねばならない過酷な決戦が。




