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第15話 横浜マリンタワー:魔王の城への斥候はオフィシャルの最強パーティ−

「ドゥルガーの塔!! ほんまにあれっスね!!」

 

 “それ”を見てルドラ・レディが叫んだ。

 YOKOHAMAの現状視察と指揮のためにフル装備で出向いた鎗田部長は頭を抱えた。

 

「自分、なんで嬉しそうに言うん?」


 ドゥルガーはヒンドゥー教の女神。インド人であるルドラには馴染みが深いのかもしれないが、鎗田部長的にはドルアーガと言った方が理解が早い。往年の大人気ゲームのタイトルである。


「先行部隊の調査によると、1階は入り口から迷路のようになっているらしいっス」

 

 先行部隊の記録映像が鎗田部長とルドラの前に表示される。

 そこにある石碑に寄れば、塔は70階層の迷宮。最上階に魔皇と囚われの姫がいるのだそうだ。

 

「ますます、それっスね〜。ハッカーXはかなりのゲームオタクで年寄りかもしれないっスね、部長世代の」

 

「1984年のゲームやさかいな、あれは。…て、誰が年寄りや!」

 

「今は2029年っスから45年。ひゃあ!!」

 

「何が言いたいんや!? ちなみに60階層や、あの塔は。70階ならランドマークタワーやろう、あれは」

 

「まあでも、相手もこの世界のベースがゲームであることに縛られているというのは面白いっス。魔王城にマリンタワーを選ぶセンスも好きっスね」

 

 そこにはYAMATOでは省略されてしまっていたマリンタワーが、昏い空の中で玉虫色に妖しく美しく輝いていた。魔王の城、迷宮からなる塔としてそそり立っている。

 

「しっかし、Xも面白い奴っスね。ちょこっとつっついくらいでこんなに過剰な防備体制を取ってくるとは」

 

 ふむ、と手に持った自分の剣を鎗田は地面に突き刺しながら考えた。

 彼にとっては飾りでしかないが、YAMATOの世界、正確には「この世界はすべての一瞬が美しい」の中に12本存在するという至高の剣の一振りであるオルレアンディル、狂気の聖女を鎮めし悔魂の剣であった。


「YAMATOのベースが『このすべ』、元を辿ったら『クリハン』っちゅうゲームとは言え、Xはまるで我々相手に遊んでるかのようやな」


「そうっスか? オレには混乱を長引かせてYAMATOのプラットフォームとしての信頼を失わせることが目的としか考えられないっスね」


「そう、それだ。我々はXに思惑があって今回の活動してると考えとったけど、案外、逆なのかもわからんな」

 

「逆?」

 

「思惑やらのうて、ただ、長う遊ぼうとしてるだけなのかも。例えばXは未成年者で子供やらな」

 

「ひゃは!スキルがバカみたいに高くて、子供って、部長はとしひこがXだと考えているんスか?」


「そら捕まえてみたらわかるやろう。あの塔を攻略し、70階層を早々に突破するようチームを組もうやんけ。Xはそこにおるんやろう?」

 

 運営側が圧倒的優位性を持つと知っているので、不敵に鎗田が笑う。サングラスをかけているから、悪役のそれそのものだ。

 それに対してボーイッシュなルドラも不敵に笑い返しうなづいた。

 

「もうすでに開発部のデバグ部隊に調査がてら入らせてるっス。隊長は第五帝釈天で」

 

「仕事早いな」

 

 ルドラの返答に鎗田部長は満足そうな顔をした。

 エアレンデル、明けの明星の異名を持つ神具を持つ知勇兼備の驍将、第五帝釈天はカクオン開発部デバグ班のエースだ。大吾という名前の彼はクリハントッププレイヤーからの入社組であった。

 普段は一般装備でテストプレイを繰り返す彼らだが、すべての敵、すべてのアイテムに習熟しているため、攻略に関する引き出しは多く、技量も高い。困難事例にも易々と対応するだろう。


「やっこさん、称号持ちになったッス。《聖騎士》だそうで」

 

「やるねぇ、ランダムとはいえ、なんかが大吾にはあったんやろうな」

 

 そう言いつつ、鑓田部長は少し考えた。

 

「……ちゅうことは、いよいよ《魔王》が出現したちゅうことやな。《戦乙女》に続いて魔王城が現れたんやさかい当たり前か」

 

「《勇者》《賢者》《聖女》は確認されてないっスが、《義賊》は民間のトッププレイヤー双星no爺に与えられていたというので、招聘して大吾のパーティーに組み込んだっス」

 

「《戦乙女》はあの娘やけど、戦闘はズブの素人やな。せやけど、人も装備も援助したら勇者パーティーが揃わなくとも、魔王までの攻略は容易やろう」


 もともと『クリハン』は課金ではある程度で頭打ちとなり、あとはプレイヤーの経験と能力が物を言うプレイヤースキルゲームだった。そうでないと、課金勢の戦闘力が跳ね上がり、一般人の裾野から幅広く収益を得るという長期計画のモデルは成立しない。

 長年ゲーム業界に軸足を置いているカクオンの知恵であろう。一握りのゲーマーではなく、一般人を重視したその姿勢は、派生ゲーム「この世界はすべての一瞬が美しい」でYAMATOの土台にふさわしいとデジタル庁の小松崎美里の目に留まったと言っても良かろう。

 

 それでも、装備のアドバンテージはやはり大きい。一般的なAIによって決まった動きしかしないクリーチャーには特に当てはまる。対人となると装備の内容や戦闘スタイル、個人の能力でだいぶ変わるのがまた面白く、YOKOHAMAコロシアムの存在は必然だった。TOKYOにはRINKAIにコロシアムが存在しているので、コンテンツとしては結構な需要があるのだ。


「こちら大吾。これから52階層だが、これまでの迷宮とは趣きが違うとるけん報告する」

 

 鎗田とルドラの眼前にウインドウが現れた。


「ヒュ〜〜。凄えぜ。まるで宮殿や」

 

 大吾の声がする。ウィンドウの光景は第五帝釈天の視点映像のようだ。

 

 この世界のデザインは世界中の何百人というデザイナーから収集された秀逸なもので構成されている。コンテストまで行われているデザインは現実世界のそれにフェードバックされるほどであった。もちろんそれはダンジョンであろうと例外ではない。

 闇の迷宮は闇でまた美しく、紫水晶が淡く光る万華鏡のような無限の広がりを見せたし、幾何学模様の壁と床が広がる迷宮は日常とは隔絶された異世界の美しさを感じさせた。

ここまでの迷宮は実に多岐にわたる空間構成を見せ、鍾乳石と小さな湖をやわらかな光が照らす洞窟であった第25階層は実に幻想的であった。

 

 この短時間で第五帝釈天の精鋭パーティーは爆速で迷宮となっているはずの階層を力技と機知で駆け抜け、すでに52階層まで達していたのであった。

 

 その52階層は今までとは異なり、アンティークなヨーロッパの宮殿のそれを模した作りになっていた。

 窓の外には空が広がっている。映像だけなのであろうが、そこは天空の宮殿の回廊のようであった。金と赤の鮮やかな色彩、モザイク、平面に描かれた壁画が、相乗的にアンティークな美しさで咲き誇っていた。


「旦那。警戒や。クリーチャーが3体近づいてきてる。フロア全体では10体のようや」

 

 大吾の横にいる黒尽くめに赤いストライプが入った装備の男が声をかけてくる。

 双星no爺というハンドルの彼の索敵能力はこのYAMATO屈指と言って過言ではない。勇者パーティーの一人、《義賊》の称号を持つベテランプレイヤーであった。

 彼なくしてはオフィシャルが用意した屈指の戦闘力を誇る第五帝釈天の特別編成チームでもここまで早々と52階層まで上がってこれなかっただろう。エリアのマップ上でクリーチャーとプレイヤーをすべて把握するスキル持ちであった。

 

 「この世界はすべての一瞬が美しい」では、プレイヤーに公式なジョブのような職業はない。それは現実世界と一緒であった。

 しかし、ダンジョンやエネミーフィールド、コロシアムといった場所が用意されており、そこではスキルを使った戦闘が「クリーチャーハンター」同様に楽しめる設定になっていた。

 写真に収めるべき幻想的な景色は、エネミーフィールドの奥にこそある。

 一般人向けの低難易度ではあったが、そう言われて探索するゲームでもあったのだ。

 

 グオオオオオォ!!

 

 アバターの体が震えるような咆哮とともに、鎧装のミノタウロスが姿を表した。

 この黒毛の牛頭魔人は人の2倍はある巨躯で、成人男性の胴回りくらいある上腕の筋肉には脂肪の一つもついていない。

 人間が着ているような白と金の装飾入りの鎧を身につけ、見事な意匠の巨大な長柄戦斧を振りかざしていた。野獣のように怒り狂い襲いかかってくるのではない。敵対するであろう侵入者達を迎え撃つべく、ゆっくりと步を進めている。そこがまた不気味だ。

 その足元には2頭の黒いヘルハウンドがいる。地獄の番犬とも言われるそれは、真紅の双眸に炎の鬣をしていて、口元の呼吸にも炎が漏れ出ていた。それ単体で強敵と思われる魔獣二体に、必殺の一撃を広範囲にもたらすであろう牛頭魔人が一体。スピードと破壊力の組み合わせはプレイヤー泣かせの敵パーティーである。

 

 一方、第五帝釈天のパーティーは6人の最大編成だ。急揃えにしてはベテランを集めただけあって、ここまでの攻略で既に連携は取れている。

 各自の能力の把握と攻略での分担も、戦略指揮を取る前衛の《聖騎士》第五帝釈天の命の下で攻略前に行われているし、戦術においては後衛の副リーダーである魔導師のあぶにゃんがすり合わせを実戦で行っていた。

 ここ一年の間カクオンの開発部デバグ部隊で大吾と共に生死を共にしてきたあぶにゃんの後方支援能力は突出して高く、全体を見渡す的確な戦術指示は、前線で戦う大吾に心置きなく戦わせてくれていた。だからこその爆速攻略。初見で52階層まで来ているのである。

 斥候として無理はしない。1パーティーだけなのだから、無理があればすぐに撤退するつもりであった。

 しかし、最強に近いこのパーティーなら《魔王》まで攻略できるのではないかと各自が思わないこともなかった。


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