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第11話 黒服の親玉:敵!? 敵なのよね!? え……味方なの!?

 天井も壁も床も白い、箱のような部屋。

 こんな部屋に来た事自体ない!!

 いつもならYAMATOの家の自分の部屋にポップするはずであった。

 そして、そこに人などいないはずであった。


「お、ようやくのご登場やな」

 

 部屋には低めのテーブルが置かれ、その向こうには黒いスーツに身を包んだ痩せて目つきの悪い男が、不機嫌そうにタバコを咥えて座っていた。


「当然のことでびっくりしてるやろうけど、ま、ま、座って落ち着きや」


 見ればつばさが座る椅子も用意されていた。

 男は待ちくたびれたような印象だ。それもそのはず、もう寝る前の時間なのだから。

 

「オレはカクオン保安部部長の鎗田っちゅうもんや。よろしゅうたのんます」

 

「き、きた……」

 

 慌ててログアウトしようとしたが、叶わなかった。外部からロックされているようで退出ボタンが見つからない!

 代わりに目の前に出ているのは、この前と同じヒットポイントとメンタルポイントのゲージに、《戦乙女》という謎の称号であった。

 

 わけわかんない!!

 

 つばさはがっくりしながら、勧められた椅子に腰を下ろした。

 バーチャルな空間なので、リアルの体は家の椅子に座っているから、ここで座る意味はないが、気分の問題と勧められたからである。

 にしても、目の前の鎗田は昨日も追いかけられた黒服の格好だし、逃亡中の鬼みたいに見える。

 

「まんま、逃亡中の黒服やな、思たやろ。言わんでもわかるわ! やけどな、あれはオレらの方が先で、あっちが真似てんやさかいな」

 

 と、鎗田部長はおどけていた。

 

 つばさとの間の空間にウインドウを3面、化粧台のように開いている。

 

「さて、小野口つばさちゃんやな……心配せんでええで。あんただけやなく、サトラレに繋がる可能性のある人はみんな呼んでるんや。少しばかり質問しとう、呼ばさせてもろたわけや。」


「は、は、は…」

 

 つばさは愛想笑いするしかない。


「にしても、小野口は珍しい苗字やな」

 

 そう言って隣のウインドウを凄まじいスピードで操作する槍田。


「全国で名字順位で4762位弱、全国の人数2300人、神奈川県には210人…」


 気になったことはすぐに調べるタイプらしい。


「……横浜市栄区在住?」

 

 そう言って、悪い目つきをさらに細めて藪睨みのようにつばさの顔を見てくる。

 

「あんた、TAKAYOSHIの娘か!?」

 

 鎗田部長の口から出てきたのはつばさの父の名前だった。小野口貴義という。


「は、はい!」


 緊張したまま、つばさも声を絞り出した。


「あーー、そういうたら、年賀状もろて見とったな」

 

 片手で頭を掴むように抱えて天を仰ぎ、鎗田は喋り続けた。


「こんなところでやけど、はじめまして。お父さんの中高時代の悪友で鎗田のおっちゃんや」

 

 関西特有のイントネーションでそう言う。

 

「え!?」

 

 つばさもゲーム好きのお父さんの悪友と呼べる3人の友だちの話は聞いたことがあったのを思い出した。鎗田さんはYAMATOを運営しているカクオンという大阪の会社で部長をしているらしい。

 カクオンは強力な親族経営の会社で、親族でなく部長に若くして登った鎗田部長は異例中の異例の人物で、学生時代はボクシング部に属していながら、父とはゲームを泊まり込んでする仲だったと自分のことのように父が自慢していたのだ。

 

 落ち着きなさげに持っているタバコをスパスパと鎗田は吸った。

 

「あ、これか、電子タバコや、電子タバコ。ま、もっとも、YAMATOではただのファッションにしか過ぎへんけどな」


「はぁ……こちらこそ、初めまして……」

 

 正直、突然のことで理解はできても感情が追いつかなかった。結構なマイペースっぷり。


「そらそうと、オレらはつばさちゃんも知ってる魔王としひこを探してます」

 

 鎗田部長は机の上に肘をつき、顎を手に乗っける。


「知っての通り、YAMATOではアバターはマイナンバーと紐付けられとって、リアルの名札をつけて歩いてもらうことで、SNS拡大期に見られた匿名による犯罪抑止を行ってるんやけど、魔王としひこはその紐付けがあらへんハッカーアカウントのアバターや」

 

「はい……うすうすそうではないかと思っていました」


「その正体不明の魔王としひこが現れた後にサトラレはほんま偶然か必然か広がってる。これに関係があらへんとは普通は考えへんやろう?」

 

「そ、そ、そうですか。たまたまかと思ってました…」

 

 と、心苦しい言い訳をつばさはした。

 としひこ君がサトラレを作ったのは自分だと口にしたことを話しでもしたら、なにか大変なことになりそうで言い淀んだのだ。

 

「サトラレは公表されてへんが、今現在も驚くほどに変異を続けてる。まるでアンチウイルスの作業をあざ笑うかのように対抗プログラムが走ってるようや」

 

「じゃあ、まだこの騒動が収まらないってことですか?」


「せや。そやさかい、関与が疑われる魔王としひこを逆にこちら側に引き込みたい。優秀なハッカーはオレらにも必要なんやからな」

 

「あ、そうすれば、サトラレも収束されるし、一挙両得ですね」

 

 と、つばさが言う。

 

「でも、私もとしひこ君とは昨日のデートで初めてちゃんと話した程度でして…は、は、は…ご期待には添えないかと……」

 

 目の前の画面を横目に見ながら鎗田部長はつばさの言葉にうなづいた。

 

「つばさちゃんのログを見る限り、彼との接点は少し前の学校と昨日の夜だけやな」


「あ、わかるんですね、そういうこと」

 

「そりや、オレらはオフィシャルだからな」


 そう言いつつ、鎗田部長は椅子の背もたれに深々と寄りかかった。


「魔王としひこは部下の追跡からロックされて出来へんはずの転移で君と逃げおおせてる。それだけの干渉能力を持つ天才級ハッカーちゅうこっちゃ」

 

 結構な早口でそのままつばさに話しかけ続ける。

 

「せやけど、管理されてへん天才は危険や。電子決済を扱うこの世界では特にな。単独ならまだしも、組織的な動きは犯罪組織へと繋がりやすいようやしな」

 

 そして鋭い目つきでつばさを見直した時に、それに気がついたらしく、緊張を和らげさせるように柔和な顔つきでおどけた口調となった。

 

「デジタルデータをいじられてリアルマネーを握られてへんようにしてるけど、現実はいたちごっこ。けったいなとこだけ電子的にはでけへんようになっとったり……ま、こんな愚痴はつばさちゃんに話すことやあらへんな」

 

 この時にようやくつばさが口を挟むタイミングが出来た。


「あのー、としひこ君、別れ際にもう私とは会わないって言っていなくなっちゃったんですが……」

 

 その言葉を聞いて鎗田はひっくり返りそうになった。大阪の人っぽいリアクションである。

 

「そ、そか。まあ、今後、彼が連絡取ってきたら、つばさちゃんはおっちゃんに連絡をくれたらええ。今日はそれ伝えたかっただけや」


「はい!それで宜しければ! 鎗田のおじさま!」

 

 ニッコリとつばさは笑った。

 どうして良いかわからないときは笑顔を見せた方がウケがよかろうという、つばさなりの処世術だった。


「おお、ええ返事やな。ほな家に送ったろう……」

 

 そう言って空中のウインドウにタッチして指示を出そうと鎗田部長はしたが、途中でその手を止めた。

 思い直したようにつばさ、正確には視線をつばさの後ろに移した。

 

「最後に聞いてええ?その背中の翼はなんなんかいな?」

 

「え?」

 

 つばさ自身も気がついていなかった。

 後ろを見るとつばさの背中に白い天使の羽があるではないか。

 

「これ、としひこ君がプレゼントしてくれたアクセサリーです。外し忘れてました、あはは」


 頭の上の天使の輪と違って、背中は見えないのでつばさは本当に失念していた。

 

「そか。まあ、可愛いさかい着けときなはれ」

 

 そう鎗田部長が言って、ウィンドウの操作の仕草をすと、つばさはこの白い部屋から一瞬にしてYAMATOの自分の部屋にいつもどおりポップしていることに気がついた。

 

 

 白い部屋に一人残った鎗田部長は机の上に肘を付き、ちょっとだけ考えると、背後の何もない空間に対して大きな声を上げた。


「ルドラ!見てるんやろう?出てこいや!」

 

 すると鎗田部長の右斜め後ろに、浅黒く整った顔の女性が現れた。

 しかし彼女は黒服ではない。白い白衣のようなスタイリッシュなコートを着ていて、研究者風の男性の出立である。

 額には赤い点。ビンディと呼ばれる装飾品のようだが、よく見るとクリクリと動いて周りを見渡しているようであった。


「どや? 自分からみてあの娘は」

 

 相変わらず不機嫌そうな面持ちで聞く。


「まあ、普通に良い子っスね」

 

 すれた感じのハスキーボイスで流暢な日本語をもってルドラ・レディは答えた。

 

「ただ、あの背中の翼は凄いっスね。だいぶいじってあるっスよ。意図は逃走用だと推測されるけど魔王の仕業っスね」

 

 女性の外見なのにボーイッシュで男の子のような印象だ。

 

「インド工科大学出の自分が凄い言うとはな」

 

 鎗田の言葉にルドラはニヤリとした。

 

「部長がお持ちの装備一式レベルっス。魔王としひこ、ぜひともうちに欲しいっスね〜」


「あれと同じレベルを違法データ改変したっちゅうんか? ……そら負けられへんなぁ……って、ちゃうわ!」

 

 一人でなにやら自分に突っ込んでいた鎗田部長だが、すぐに真顔に戻る。

 

「そらそうと、《戦乙女》の称号見たか? あないなレアな称号、なんで持ってるんや?」

 

「あ、あれっスか? そういや、報告遅れたけど、YAMATO全体にオリジンモードが設定されちゃったんス。その一端スかね」

 

「なにぃ!!! そっちのほうが大問題やんけ!!!」

 

「“那由多”の不可侵領域にサトラレが関与している所までは掴んでるっスよ」

 

「保安部にすぐ戻ろ」

 

 鎗田が立ち上がり、最後にルドラを見た。


「あの娘に目ぇつけとくの忘れんといてや!!」

 

 そのまま二人は白い部屋から転移してしまった。


 

 そんなやり取りなど露知らず、YAMATOの自分の部屋に戻ったつばさは窓の外に視線を向けて一人立っていた。


「としひこくん、君って、何者なの? 現実の貴方は誰?」

 

 そう呟いてみる。

 窓の外に広がるYOKOHAMAの港の光景は、今日も虹色のオーロラが空に広がり、港の幻想的な照明と相まって、うっとりとするほど美しかった。

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