木枯らし
「明けない夜なんて無い」
性懲りもなく、そんな言葉がこの世界にはある。しかし人生とは夜である。
もし人間が完璧であったなら、所謂文系科目を学ぶ必要はなかっただろう。
もし人間が全能であったなら、所謂理系科目を学ぶ必要はなかっただろう。
もし人間が全能で完璧であったなら、歴史と失敗、否、それは人では無かっただろう。人を人たらしめるのは、そのたどってきた歴史の愚かさと失敗故であり、自然を自然たらしめるのは、数字という代数が自然を自然たらしめるのだ。
人生になぜ昼がないのかと言えば、景気と一緒である。きっと人生の昼だったと思われる時間は、その時そう思わない。人間とは人間が思う以上に傲慢である。
寧ろ常に幸せだ、と語る人間は常に不幸だ。
人間は言葉が無くとも幸せにはなれる。
ただ必要な物とは、生命である。
僕の親友に、それはもうない。
血が染み込んだ土の上を歩く、地獄だ、という言葉は生ぬるい。ボロボロになった手袋で弾がなくなったライフルにリロードを施す。
人間は圧倒的な絶望のなかで見いだすものは希望ではなく、地獄と焦燥であったことに酷く落ち込んだが、悲劇も喜劇であり、喜劇もまた悲劇である。
そこら中にある、物だった物。
命だった器。
朝になった。夜は開けた、そうして地球のどこかで夜が始まる。
結局僕は寝れなかった、仕方無いので服を着替えて電車にのって大学に行く。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、電車特有のリズムに朝の通勤客の多くが体を揺らす。車窓に映るのは、人の業か富か、そんなことを考えながら改札を過ぎ、人の波と共に前へ進む。
大学に付き、朝日が突き刺す廊下を通り抜け、サークルの部屋に入ると、黒木が一人で本を読んでいた「あら、おはよう」黒木が挨拶を交わす。「なんの本よんでんだ?」訪ねてみる。すると恥ずかしそうに頬をかいて、「恋愛小説だよ」と言うので「・・・そうか」僕の視線はその小説の題名に釘付けだった。
僕は黒木と久しぶりのような感覚で、
「俺達は子供の時どうやって遊んでたんだっけな?」黒木は方を下ろしながら「そんな大したことなんかやってないわよ、公園の砂場で泥だんご作ったりしたと思うんだけど…」
無機質に本が並べられた部屋を見渡すと、僕は席について、持ってきた教科書を読む。
「ワットタイラーの乱」という項目
「ワットタイラーは民衆と王族貴族を扇動する才能持ちに語った。アダムが耕し、イブが紡いだとき、誰が王であったか、誰が民であったか、誰が才能保持者であったか。一地方の騎士が起こしたひとつの反乱は、後の自由思想に多大な影響を与えることとなるのである…」
ワットタイラーの乱とは、中世イングランドで起きた事である。世界ではじめて起こった能力間戦争だあったとする声もある。
日がもう少しその目潰しの力を弱めたとき、足利が部屋に入ってきて、「おはよう」と珍しく爽やかな挨拶を交わすと彼はニヤッとすると「今日はニュースがあるぞ!栗橋さんがサークルにはいるって!」とても笑顔ですね!足利君!彼は心底嬉しそうだった。僕は昔から美人を見ると、形だけがきれいな商品を買ってしまって、機能性が全く無かったり、という話を思い出す。
そんなのだから今だ、彼女を人生のなかで持ったことがないのだろうか?
「失礼します」その透きわたる声が響く、「ああ宜しく」と返す、隣で勢いよく椅子を引く音がすると黒木が「女子ボッチから脱却だ~」と声をあげて、喜んでいる。
少なくとも、この時間だけなら僕は幸せと平和を噛み締めることができる…
僕がすべての罪から逃れようとしたとき、運命は更なる罪を僕の経歴に積むことを課した。
生きることは罪でなく、死ぬこともまた罪でなく、真の罪とは、罪を罪として見ず、罪から逃れようとすることなのだと。
贖罪には対価が必要だ。
国防軍第六軍司令部
「ということが昨日の夜ありました」僕は波崎さんへ言う。「うん知ってる」へらへらと言う。僕が驚愕の顔をしているのを知っているのだろうか、この人は。
そして波崎さんは語りだした、昨日の夜起こった出来事の全容を、僕が襲われていたその当時周囲の住民が警察へ通報…したものの、それを国防軍が傍受(犯罪だろ)で緊急出動。僕に負けた直後だったこともなくあっけなくあの男は捕縛されたそうな、そのあと想像したくもない拷問の果て聞き出した情報は、あの男の名前、菜の花という名前、首謀者の年齢、首謀者の目の色だった。それぞれ年齢は僕と同じ20才、目の色は黒色。正直役に立たねぇだろとおもったが、僕は同学年、下手したら身内に容疑者が限られてしまったのだ。
さらに続ける波崎さん。話は今日の早朝へと戻る。
早朝県庁舎
「皆さんお揃いのようで、」と六軍総司令は言う。それに対して、市警察署長は「まず最初に確認しておきたいのは、国防軍は正義の味方にでもなったつもりではないでしょうな?あなた方はあくまでも我々と同じ公務員だ!」と言うと総司令は言う「そうですね、同じ公務員で、我々は専ら正義の味方になった気ではありませんよ、ただ中央政府の言うことにしたがい、市民の命を守るために最善を尽くす。それだけです、だからあなた方と協力しようと言ってるんじゃないですか?」ちょっと雰囲気が殺伐としてきたところで、県知事は制止に入る。
「まあまあ波崎君、それくらいにしたまえ、君の有能さは知っている。問題は、だ。この地域に如何なる脅威が迫っていて、君達と中央政府がどういう情報を持っているのか、そして私たちは県民と市民の為にどう、協力すればよいか、ということを教えてくれんかね?」
すると波崎は「まずこの都市に迫る脅威ですが、まぁ国が一つ無くなるレベル…ですかね、そしてしてほしいことは県・警察・軍の情報共有と、いざというときに、警報や避難指示を迅速に行っていただくことです。」なんだそんなことか……とそういう空気が一瞬流れる、が、「国が滅ぶレベルですと!?」県警総監が言う。
「はい、今回の件は能力者がらみの事とはご理解のほどだと思いますが、最悪我が国防軍が敵に敗北し、この島が占領された場合。この島に米軍の核攻撃と国連宇宙軍の大気圏外からの艦砲射撃、国防海軍や国防空軍からの爆撃によって数時間以内に焦土化され、そのあとは国連軍が上陸し残党を掃討、いったいどれだけの市民に被害が出るのか、助かった市民を数える方が早いかもしれません。」
早急に波崎の意見案は受理された。
「あんた恐ろしいな」僕が恐る恐る言うと、飛びっきりの笑顔で「お褒めいただき光栄だよ」
僕は司令部のビルを出た。
「彼をそんな追い詰めるべきじゃ無いんじゃないかな?」副官である一条葵がいう。
美しい銀髪を持つ彼女は、波崎の士官候補生時代からの友人である。「いや、あいつはもう真実にたどり着いてる、だけど目をそらしてるんだよ。」そのとき窓のカーテンがフワッと揺れた。
僕は大学に戻る。
夕陽が刺す廊下をてくてく歩く。なんかすごく寂しい雰囲気だが気にしないことにしようと思う。僕がサークルの部屋の前にたったときだった、サークルの部屋に栗橋が一人でいるようだった。何か言っている。
「あの物は、ここかしら?違うわね…」
え?
嘘だろ
僕は盗み聞きを続けようとするが…
「そこに誰かいるの?」その瞬間外に走る
それも全力で。
どうやらバレてないらしい、なんとか用務員室に逃げ込んだ僕は、呼吸を整えながら「栗橋なのか……?」体力を回復した僕は、外に向かって歩き出す。
東京霞ヶ関
今日も閣議が行われている。
最近はテロ関連のことで一杯だ「暗殺できないじゃないか!」と波崎を糾弾する声が上がる、
すると画面の先の波崎は「これ決めたのが三日前のことで、むしろここ三日で二百万の容疑者のなかから千人弱に減らした事を正当に評価してほしいもんですな、もしかしたらあなた達は千人全員捕まえて処刑などとでも言うのですか?」糾弾していた各大臣が押し黙ってしまう。「まあまあ波崎君、私がやれといったら君はやらないといけない、これしか前々回の大戦の失敗を無くす方法はないんだ。それにもし千人弱を殺すことでこの国を守れるなら、私はそれを実行しなければならない。まぁ今すべきとは思わないけどね」と伏見は言うのだった。
閣議は実りある話にするために、話し合いが続くが、見えない敵と戦うことは、目の前にいる強大な敵と戦うことより難しい。
十を生かすために一を殺す、
少数よりも大勢の利益を望む。それが民主主義なのだ。しかし、一のために十を殺すという専制政治よりかは合理的だと評価されるのも、当然の摂理である。
コツコツコツ
静かな場所を一人の人間が歩く、「猊下、いよいよ、いよいよ我らが反抗のときがやって参りました!」帰ってくる言葉はないが回りにいたローブを被った人間たちが、よい気分になるのはわかった。言葉を語った人間は黒目だった。
第六軍司令部地下指揮室
「じゃ作戦説明していくよ」と参謀たちに語りだす。彼にとってもう暗殺等する気はなく、首謀者以外まとめてテロで殺傷してやろうと考えていたのだ。その為避難通路や攻撃手段の準備を順当に進め、今日は作戦についてだった。
「県警に適当な理由で新山茶花トンネルを通行止めにしてもらう。そして、そのなかに戦車を明後日までに配備する。それも秘密の地下道路を使って秘密裏にね」ふぅと息をつくと、「東部は兵力的に問題ないけど、西部は足りないね、あっそうだ明治通りを集中爆撃して平地にしたら機関銃兵と狙撃兵だけでいいぞ!」そろそろお通夜モードである。
こうして、三者三様に準備を進めるなか小泉は…
僕は、なにか思い違いをしてるんじゃ無いのだろうか?栗橋だって探し物をしてただけかもしれない、すると前には栗橋がいてメモを落とす。「12時明治公園で待つ」どうやら僕だったことは知っていたようだ。
殺されるのではないのか?ただ僕には絶対殺されない自信があった。
一応装備だけ整えて、明治公園へ行く。
改めて丘の上から町を見ると、とても美しかった。暖かそうな光が溢れていた。僕の守るべきものはこういうものなのか、責任の重みに泣きそうになるが泣いてもどうにもならない。
「よう」とそこにいる栗橋に声をかける。
「あら、これたのね」と言うとたって一言、「私から言いたいのは1つだけ、この事を誰にも言わないことよ」あら?「私はあなたが思っているような罪無き人を殺すような人ではないわよ」すっかり意表を疲れてしまって、ボケーッとしてると、「すっかり体が冷えたから、コーヒーの一つでも奢りなさいよ」そういってこっちを振り向くので「そんくらいで命が助かるならありがたいもんさ、」というとムッとした顔になるが、僕が自販機で一番甘そうなミルクティーを渡すとすっかりご機嫌になって、「わかってるじゃない、私は午前の紅茶好きなのよ」
あなたも?というので、「あぁ僕は紅茶が大好き過ぎて戦争をまでした国のファンなんだよ」するとモゴモゴ口を開けて、「・・・だわ」聞こえなかったので「なんつったんだ?」と聞くと、「なんもいってないわよ」そうなのか?
街頭のした、寒くもないのにベンチで二人座って暖かい飲み物を飲んだ。
ちょっとした丘の上にある公園からみた反射光はとても綺麗だった。
同時刻、国防総省防空レーダー室
「高知県沖に高速で南東に向かって南下する未確認飛行物体を確認!」その通報は国防空軍の岩国基地や国防海軍第一艦隊旗艦、日立級航空母艦一番艦「ひたち」等に飛び、直ちにスクランブル発進の準備が進められた。
そして指揮権は第六管区へと移行し、波崎が指揮を執ることとなった。
「セイバー隊の発艦準備急げ、」そう告げる。
一方空母の甲板では
「発艦準備完了しました!」と発艦準備が完了したことが報告され、「3 2 1takeoff!」
12時6分発艦した。
一方第2管区の岩国からは、フォース隊が出撃。
まず最初に会敵するのは、岩国基地所属
ステルス最新鋭戦闘機F3A型戦闘機である。
大阪第2軍総司令部
「目標転進!会敵予想時刻が12時11分から8分に変更!」
第2軍総司令佐々木司令は少々考えたのち、
「中距離空対空ミサイルの発車を許可する」
とのみ言い、席を去った。
彼は内心波崎、だふん俺じゃどうにもならない、というわけで頼んだ。
と士官候補生時代の友人に仕事を擦り付けながら司令部内の部屋で仮眠をとることにしたのである。
<繰り返す!中距離空対空ミサイルの使用を許可する!射程に入り次第各々の判断で発車せよ>(本当は英語で言っています)
<こちらフォース1、確認する。中距離空対空ミサイルの許可で正しいのか?>
<合っている、安全に仕事は済ましてしまえ>
<了解した>
こうして、フォース隊は二分後会敵することとなる。
<Foxthree!>という掛け声と共に、
中距離空対空ミサイルが目標目指して飛んでいく。このような事件と戦闘、そして犯人は決まっている。 そう能力者だ。
空中で炸裂したミサイルだったが、やりきれてはいない。続けて普通のミサイルを数発発射したが、相手は防ぐのみであった。
バルカン砲やレーザーショット砲を用いてもその結界は破れずにいた。
しかしこの洋上で飛んでいる能力者は少々不運であった。こうしてある程度の損害を受けて怯んでいる間に、まだ会敵しないはずの第六軍の「長距離巡航ミサイル」の餌食になるとは思ってもいなかったのだから。
数分前
波崎は事態を重く見ていた。
このままのルートを維持したまま島に上陸されると、沿岸の工業地帯や、空港に被害が出るだけでなく。日本有数の貿易港であることを踏まえても、その損失は大きかったのだが、何より事態が深刻化したときに連鎖的にテロが起きた場合は対処の使用がなかった為である。
ありのままを国防相に伝え、長距離巡航ミサイルの発射を許可してもらい、フォース隊との攻撃に一段落ずらしたタイミングで当たるように仕組んだ。この長距離巡航ミサイルは、対能力人専用の品で、非電解質の物で相手の決壊を破りそこから炸裂させるといったなかなか残忍なタイプである。しかし流石に相手が完全な体制で防御に回った場合は防がれてしまう、だからタイミングを見計らったのだ。
大きな炸裂音と断末魔が誰も聞こえないのに響き渡った。また一つ命が消えたが、誰もそれは気に止めず、ただただ事態の深刻化を防げたことに安堵していた。