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第16話 クラスメイトの快進撃とイナビルの出番

 控室に着いてしばらく待っていると……初老の男性が一人と大人の聖女が二人、挨拶にやってきた。


「私は王都の教会にて司祭を勤めております、司祭のヤンセンです。理事長、そして生徒の皆さん、本日はよろしくお願いします」


 まず最初に、初老の男性がそう挨拶をした。

 王都の教会で司祭……ということは、この人かなりの権力を持ってる可能性が高いな。

 となると……この人が、「特Aクラスの実力を見せつける相手」となるわけか。


「私は教会附属聖女養成学園の卒業生、アグネスよ。困った時は私たちがバックアップするから、気を楽にしてね!」

「……シシリアです。よろしくです」


 などと思ってると、今度は聖女二人がそう挨拶をした。


 この人たちが……前テレサさんが言っていた、「生徒が治癒しきれなかった人たちを治す人」か。

 今回の試合では、その役目は回らないだろうが……まあ、まだ学外でクラスメイトの実力を見せたことはないしな。

 来てくれるのも当然の流れ、か。



 そんなことがありながら、控室で一時間ほど待っていると……試合開始の時間がやってきて、私たちは専用の観戦席に移動することとなった。


 教会附属聖女養成学園の生徒は、治癒の仕事がある関係で、救護テントのすぐそばの特等席で観戦できることになっている。


「それでは……第一試合、始め!」


 私たちが席に着いた頃……ちょうど、最初の試合が始まった。


 試合は……会場に着いた時の予想どおり、酷く退屈なものだった。

 何というか……技術がどうこう以前に、両者とも動きが遅い。

 本来、聖女は騎士に比べ近接戦闘では劣るはずなのだが……あいつらが相手なら、百回はトドメ刺せてるぞ。


「場外! 第二学院のザニス選手、勝利!」


 まあそんな試合も、しばらくすると決着がつき……場外に吹き飛ばされてきた第一学院の生徒が、救護テントへやってきた。


「じゃあ、私がやります! ヒール」


 今回はシンメトレルが名乗り出て、回復魔法をかける。

 すると一秒と経たず、第一学院の選手の傷は全回復した。


「な……右腿の切り傷と鎖骨の骨折が全快!? 理事長殿、この実力はいったい……」


 すると……司祭のヤンセンが、驚愕の表情でそう呟いた。


「今治癒にあたったシンメトレルは、今年の新制度下の『特Aクラス』の学生です、司祭殿。今のは、その特別な新教育の成果ですよ」


 ヤンセンの問いには、テレサさんがそう答えた。

 ヤンセンはテレサさんの言葉を聞いて、「いやこれ、成果出過ぎでは……」と目を白黒させている。

 いい感じに反応は取れてるみたいだな。


 そんなことを考えていると……卒業生のアグネスが、こんなことを言いだした。


「理事長。確か私、今年は凄い首席がいるって聞いたんですけど……その方、こんなとんでもないレベルだったのですか?」


 どうやらアグネスは、今のでシンメトレルを首席だと勘違いしたみたいだった。

 この流れ……なんとなくデジャヴのような。


「首席はまた別の子ですよ。……この分だと、出番は無さそうですが」


 そしてその問いにも、テレサさんが答えた。


「ええ……こんな凄いのに、これでも二番手なんですか……」


 まあ……今日に関しては、本当に出番が無い方がいいんだがな。

 二人の会話を聞きつつ、私は心の中でそう思った。


 このレベルの大会でもし出番があるとしたら……それは例の薬物疑惑が本当だったときのみ。

 そんな展開は全く望んでいないのだが、果たして……。



 ……まあ何にせよ、今のところは順調なのだ。

 私は一切、試合の流れは気にしなくていいだろう。


 というわけで、私は試合をよそに新しい精霊との会話に没入させてもらうことにした。


「イナビルー、きょーは何を教えてくれるのー?」


「そうね……じゃあ今日は、場の量子論の話でもしましょうか」


 そろそろこの精霊も、本格的に属性魔法に注力していい頃合いだしな。

 私はそんな風に、闇属性の薀蓄を語っていくことにした。



 ◇



 そして……試合は最終試合まで、滞りなく進んだ。

 目立った試合は中盤で大量出血者が出たことくらいで、私がしたことは片手間で血液増量魔法を放ったくらいだった。


 これで最後の試合が無事に終われば、全てが杞憂だったことになる。

 そう願ったのだが……対戦選手が入場してきた時。

 選手のうち片方を見た瞬間……私はその願いが通じなかったことを悟った。


 第一学院側の出場選手の様子が、明らかにおかしいのだ。


「よりによって……アンフェタミン系のクスリにしても、なんで最悪のアレを……」


 そして私は同時に、その選手の様子から、何の薬を使ったかも詳細に分かった。

 アレは……人間が服用するなど以ての外の、禁断中の禁断の薬だ。


 拷問や処刑ならまだしも、あんなのをドーピングに使うなど正気の沙汰ではない。

 すぐにでも、私は試合を中止して解毒に回りたかった。

 だが……最終試合、熱気も最高潮になってるところで、そうは問屋が卸さないだろうな。


 選手二人の素の実力はほぼ拮抗してるのが、不幸中の幸いというところか。

 ドーピングした側が圧勝し、決着がすぐ着くのは目に見えて分かる感じなので、私はそれを待つことにした。


「では……最終試合、始め!」


 始めの合図が鳴ると……力の差は歴然。

 第一学院生徒は圧倒的に優勢で、十秒も経たないうちに、第二学院の生徒には無数の傷ができた。


 そして……しまいには、薬で理性を失った第一学院の選手が第二学院の選手の首を刎ね、首が場外に転がった。



 ……これで、第二学院の選手の場外負けが決まったな。

 やっと治療に行けるというわけだ。


 審判は急な展開に固まってしまっているが、結果は誰の目にも明らかだったので、今割って入っても試合妨害とはみなされないだろう。

 私はとりあえずさっさと第二学院の選手の首をくっつけて全回復させ、それから薬物中毒を治しに行くことにした。


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