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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短篇集「長編にするかどうかとりあえず短編として投稿してから考えてみるシリーズ」

言の刀

作者: 半空白

大好評(?)シリーズ第三弾スタートであります!


この話もはしがきしか書いていないからとてつもなくしょうもないですが、よろしくお願いします。

 

 俺は人の悪意に出会ったことがある。


 そう誰かに言うと決まって、——結婚詐欺に騙されたのか? ——殺されかけたのか? などとよく訊かれる。くれぐれも俺の外面(金髪で両耳にピアスをつけて甚平を羽織っている)で勝手なことを思い込まれるないでいただきたい。


 あと、中二病とか極度の人間不信、あるいは精神疾患、薬物乱用による幻覚として俺の見たものが片付けられてしまうのも困る。


 俺はそのような類のものがどこに売っているのかも知らないし、買いたくもない。なんだかんだ言って、今まで生きてきたこの人生には満足している。まったく、俺の外面(金髪で両耳にピアスをつけて甚平を羽織っている)で勝手な思い込みをしないでいただきたい。


 とにかく、俺は幻覚なんて見ちゃいない。俺はたしかにあの日、人の悪意が凝り固まった()()()に出会ったんだ。


 ******


 あれは数年ほど前のこと。勿論、そのときはごく普通の黒髪で中肉中背の高校生で素行も特に悪く無かった。悪意はある程度感じるかもしれないが、普通の高校生活を送っていた。


 俺は小さな公園で一人大人げなくブランコを漕いだり、シーソーをしたり、滑り台を滑って遊んでいた。


 その頃はまだ高校生だったからまだ子どもの範疇だと思っているから大人げないと言われても特に気にしない。高校生でも公園の遊具で遊びたくなるものだ。本当にそう思いたい。


 そんなとき、俺は黒い化け物がいることに気づいた。


 公園の遊具で一人寂しく遊んでいる高校生の話から展開がかなり飛躍しすぎて話がいまいちのみ込めないかもしれないが、それは本当のことなのだ。確かに俺は公園で化け物を見たのだ。


 形は何にも喩えることができない。まるで液状の何かのようにゆらゆらと形を変えてなめくじのようにずるずると俺の目の前を通り過ぎようとしていた。


 そのとき、俺は足を地面につけても十分届く雲梯うんていにぶら下がっていた。


 その化け物に気づいた俺は雲梯から手を放してしっかり地面に着地してから目をこすった。幻覚を見たんじゃないかって思ったからだ。


 しかし、目の前にはたしかに化け物がいる。——いたのだ。


 動きは鈍いが、確かにその化け物はゆっくりと動いている。別に黒いゴミ袋が風に乗って動いているわけではなく、正真正銘何かが蠢いているような気がした。


 このときの俺は——いよいよ俺にも幽霊が見えるようになったのか? と年甲斐もなく思い、すかさずスマホを取り出して、その化け物を撮ろうとした。


 すると、そのとき俺は化け物と目が合った。


 厳密に言うと、その化け物には目玉なんてなかったから、目が合ったというより、目が合った気がしたというほうが正しい。——いや、そうではなく面と面で向かい合ったという方が正しいのか? とにかく俺はその化け物と目が合った気がしたんだ。


 しかし、目が合った瞬間、俺はなぜか固まってしまったのだ。


 意識はしっかりあるのに、口も手も足も動かせなかった。


 スマホを片手に構える高校生が黒い何かと向かい合うという謎の画がそこにあった。 


 ——いや、もしこの化け物が心霊現象、あるいはただ黒いゴミ袋がふよふよと風になっているだけだとしたら、俺はかなり恥ずかしいことをしているように見えるのではないだろうか。


 実のところ、そのときはそんなことすら考える余裕がなかったのだが……。


 俺は身動きも取れず、なめくじのようにのっそりのっそりと動く謎の化け物が俺に近づくのを待つことしかできなかった。


 そして、化け物は俺に近づくと、——がばっ、と大きな口のようなものを開いて俺をそのまま飲み込んだ。いや、飲み干したのだ。


 俺は化け物に飲み込まれて身動きが取れなかった。息すらできなくなった。


 そのとき、俺は出会ったんだ。


 俺は化け物の胃袋の中で出会ってしまったんだ。——人の悪意というものに。


 あの頃の記憶はもう朧気で思い出せないが、とてもおぞましいものだったことを覚えている。


 それを口に出すこと自体憚れる。


 まるで、俺の脳の中にある深層意識がその記憶、——俺があのとき見たものに蓋しているような気がした。


 俺はそんな化け物に次第に飲み込まれていった。気づくと、俺の体がゆっくりとその化け物に馴染んでいって消えていってしまうような気がした。


 俺はこのとき、生まれて初めて死ぬんじゃないかって思ってしまった。


 すると、急に視界が開けた。


 これまで長い間ずっと闇の中にいた気がしたのに、突然光が目の中に入ってきた感じがした。


 そこには刀を持った着物を着て、長いくしゃくしゃ髪をゴムバンドでくくりつけて、無精髭を生やしたおじさんがいた。


 そう、俺は刀を持ったポニーテールのおじさんに出会ったんだ。


 彼は呆然としている俺にこう尋ねた。


「やぁ、君はここで何していたんだい?」

「普通に突っ立っていました」


 俺の答えを聞いた彼は苦笑した。


「突っ立っていたってちょっとおかしいんじゃないかな? それじゃ、“わいばみ”に食われることなんてないよ」

「わいばみ?」


 聞いたこともない名前を聞いた俺はついその名前を反復した。


 すると、おじさんはものすごい勢いで捲し立てた。


「そう。わいばみ。彼らは人の悪意を喰らって生きている生き物さ。ほら、最近、いろいろあるじゃん。それによって、不景気だの、死にたいだの思っている人が多いじゃない? こいつらはその悪感情を喰らって生きているんだよね。まぁ、実のところ、いい感情がこの世界を満たしすぎるのも良くないしね。その点で言えば、一種のバランサーと言っても良いかもしれないね。まぁ、今はなぜか悪感情の方が多いからこうして斬ることになる場合が多いんだけどね。けれど、こいつは普通は見えないし、よっぽどなことが無い限り人を食べないんだよ。——ひょっとして、なんかネガティブなことでも考えた?」


 俺は少し考えて簡潔に答えた。


「まったく。むしろ、こいつの写真を撮ろうとしたんですけど」

「そうか。へぇ、こいつらに写真を撮られたくないって感情があるのか。あの見た目からすると、案外シャイなんだね。知らなかった」


 いや、全身黒ずくめのやつって大体引っ込み思案の方が多いでしょ。


「——ところで、そのわいばみはどこに行ったんですか?」

「僕が斬ったんだよ」

「え? その腰につけている刀でですか?」

「そうだよ」


 彼は続けてこう言った。


「あいつら、たまに悪感情以外も躊躇なく食べるからね。そういうわいばみを僕は退治しているんだ」

「その刀って持っていていいんですか?」

「あぁ、これね。これは言刀ことがたなっていうんだよ」

「ことがたな?」

「言霊の言に、刀。それで言刀。これは言霊で作った刀だから、役目を終えるとすぐに消えちゃうんだよ。っていうかあいつらってまったく物理攻撃が聞かないからこの刀できるしかないんだけどね」


 彼が肩を竦めると、刀はゆっくりと空にかかっていた霧が晴れるかのように消えていった。


「へぇ、そうなんですか?」


 刀が消えゆく様を見た俺は感嘆の声を洩らした。


 そんな俺を尻目に彼はこう言った。


「ということで、お金ちょうだい」

「へっ?」

「お金だよ。お金。わいばみに喰われそうになったところを僕が助けたじゃないか。その報酬だよ」

「い、いったいいくらするんでしょうか?」


 彼は手で三を示してからこう言った。


「三百万」

「は? どうしてそんなに値が張るんですか?!」

「この刀は人の言霊の力を使って作られたものだからね。その力はとても貴重なものなんだよ。特に君を斬らずにわいばみで切り裂くなんてそんじゃそこらの刀じゃできないことだよ」

「マジですか?」

「そうだよ。特にわいばみは負の力が特に強いからね。尚更、良い方向の言霊の力を使わなくちゃいけないんだよ。人って不安なことばかり考える生き物だからいいエネルギーを持つ言霊を錬成するには相当体力がいるんだよ。だから三百万。けれど、これでもリーズナブルな方だよ」

「それでリーズナブルっておかしいでしょ! それに助けてくれたことには感謝するけど、いくらなんでもそんなに請求するのはおかしいだろ?!」


 彼は俺を諭すように語りかける。


「確かに君を善意で助けた。別に金目当てで君を助けたわけじゃない。しかし、僕もこれで食べているんだ。だから、払ってもらうよ。それに、僕以外の言刀使いなら、一千万とか普通に請求するからね」

「そんな商売あっていいんですか!」

「だって、僕たちは命を削ってまで言霊の力を具象化しているんだよ。それを善意でやる方が辛いよ。そんなお人好しみたいなことをする奴なんて普通ありえないよ」

「それでも、そんな大金僕には到底払えませんよ!」

「そうか。ならしょうがない。十一といちでいいよ」

「それって暴利じゃないですか!」


 っていうか、それ今じゃ法律で禁止されているよ! いい年してあんた、法律知らないの?


「——はぁ、こう言っちゃなんだけど、今までの人はしっかり払ってくれたよ。君くらいだよ。払えないって言ってきたの」

「その人たちはお金持ちなんですよ。俺は普通の一般庶民なんですよ!」

「そうか。じゃあ、どうするか……」


 彼はしばらく考え込んでから、俺にこう提案した。


「——そうだ。 君、雑用でもしないかい?」

「雑用?」

「そう。普段は一人で依頼を受けたり、わいばみとの相手とか全部一人でしているんだけど、いろいろ忙しくてね。ただ働きしてくれるなら、チャラでいいよ。ほら、僕も鬼じゃないからさ。ある程度お小遣いはあげるかもしれないけどね。まぁ、君はあくまで僕に借金をしている身分だからね。最低賃金を請求されても僕は困るよ」

「——それでもお願いします」


 ——っていうか、それしか乗っかる手が無かった。この人のことだから、言霊の力を使って人の存在自体を消せるんだとか言いそうだ。そんなことでもされたら俺の身が危険だ。


「じゃあ、これからさっそく依頼があるからついて来てもらうよ」

「え!」

「さぁ、早く! 早く行かないと、その子が君みたいにあっさりわいばみに食べられているかもしれないからね」


 これは俺こと、志野河しのがわはるかが言刀使いを名乗る無精髭のおじさんこと、三枝みつえだ今日十郎きょうじゅうろうの雑用をする物語、——そして、俺もいつの間にか言刀使いになっていく物語だ。


言葉って良い意味でも悪い意味でも刃のように感じるときがあるんですよね。


そんなシンプルな発想からこの話は生まれました。そんなわけで特にこの話について語ることはできません。


だって、わいばみなんて書いている最中に勝手に出てきたもん!


なんでこんな話になったのかも分からないもん!


そもそも、主人公がなんかチャラチャラしちゃっているんですけどー!


──少々、取り乱しましたね。大変申し訳ありませんでした。


さて、次の作品はちょっと長めになっておりますが、読んでいただけるとありがたいと思います。今作基準で考えると、二倍ですね。──長いでしょうか?

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