小さな戦い 有山と唐島
学校の教室。アリサ達はいつも通り休憩時間に駄弁っていた。
「次の授業何だっけ?」
「世界史ですわ」
「お前1学期の最初の日に時間割表配られたの忘れたのか?」
「いやぁ、配られたのは覚えてるんだけどねぇ、どこにしまったか覚えてないんだよね!!」
「威張って言うな」
アリサ達が話している途中、教室の窓側の席から大きな音が聞こえてきた。
「てめぇ…ふざけんなよ!?」
アリサ達が音のした方を向くと、クラスメイトの有山という男子が唐島という女子の胸ぐらを掴んでいた。
周りのクラスメイト達はヒソヒソと「喧嘩?」と話している。
「約束したよな?一体いつになったら約束を果たしてくれるんだよ!!もう1ヶ月も待ったんだぞ!?」
「放して、痛い」
「てめぇの答え次第だ!!」
「まずは放してって…」
「てめぇが痛いのは一瞬だ!!俺の1ヶ月より全然マシだろが!!」
「放さなきゃ、言わない」
「あぁ!?」
二人の言い争いを見ていた三人は仲裁に入る算段を立てる。
「このままじゃ殴り合いの喧嘩になっちゃうよ!止めよう!」
「そうだな、まずは事情を聞き出さないと…」
「では始めにどちらとも殴って無力化させましょう」
「いや、それは勘弁してやれ」
「では後ろから有山さんを取り押さえます」
「そうだな、今にも手を出しそうなのは有山のほうだし、その案で頼む」
「了解しました」
レイナが言葉を発した次の瞬間、有山は倒れた。
「はぁっ!?」
レイナは有山を「地面に抑えつけ」た。
「がっ…」
「レイナちゃん!?」
「何を、しているの」
レイナは有山の顔面を地面に擦り付けながら言う。
「拳の語り合いに発展しそうな雰囲気だったので、わたくしが先手を打たせていただきました」
「うん、擦るの、やめたげて」
「了解です」
レイナは手を止めた。そのやり取りの間にアリサとセツナは近づく。
「何やってんだレイナ!お前が暴力を振るってどうする!」
「すみません、迅速に対応しようと思ったらついいつもの癖で…」
「いつもそんな事やってるのぉ!?」
「ま、まあ取り敢えずこれは置いといて、事情を聞こうか」
「事情…?こいつが約束を守らねえからだ…」
有山が顔を上げながら話す。
「どんな?」
「駅前の……メイド喫茶の無料券をくれるって約束だ!!」
「えぇ……」
「俺がこの1ヶ月どんな気持ちで過ごして来たかわかるか!?金が底をつき、ひもじい思いをしてる俺に無料券をくれるって言ったのにさぁ!?待てども待てどもくれないんだよこの女は!!こっちはその次の日からずっともやし生活してんのによぉ!!」
「よく生きてるなおい」
「どうして無料券をあげないの?」
「だって、行って欲しくなくて……」
「なんで?」
「そっ、その、見られたくなくて……」
唐島は頰を赤らめながら言った。
「すごーい!唐島さんメイド喫茶でバイトしてるんだ!」
「い、言うなっ!!」
唐島の蹴りがアリサの腹部に命中する。
「ぐっほぅ!?」
「馬鹿。人には言えない事だってあるんだよ」
セツナが眉を下げてそう言うとレイナが尋ねる。
「セツナさんにも人に言えない事があるのですか?」
「うっ……と、とにかく!唐島、有山に無料券あげてやりなよ。……こいつまともなもの食わないとそろそろ死ぬって」
「あ、ああ。ほら、有山」
唐島は有山に無料券を差し出す。
「ようやく…!ありがとう唐島ぁ〜!!」
有山は涙を流しながら叫んだ。
「こいつ本当にどんな生活してんだよ……」
後日、有山が泣きながら感謝する動画がSNSで出回ったそうだ。
唐島
普段は無口な女の子。駅前のメイド喫茶でバイトしている。
有山
途轍もなく貧乏な男子生徒。その日の食料を確保するのも困難。