購買ジャンケン
昼休み。
3つの机をくっつけ、3人の女子高生が顔を近づけて会話する。
「2人とも、ちゃんとお弁当忘れてきた?」
「その言い方はなんかおかしいけど…ちゃんと忘れてきたぞ」
「わたくしもちゃんと忘れてきましたわ」
ちゃんと忘れてきた、という言い回しは事前に彼女らが何かを計画していたという前提がある。
「第一回!購買までパシッてこいジャンケン!!」
「イェーイ!!」
「わくわくして来ましたわ〜!」
そう、彼女らは自らの金銭と手間を賭けたジャンケンを実行しようとしていた。
「ではまず、誰が掛け声をかけるかを決めたいと思いまーす!!誰がいいと思うか議論開始!!」
アリサの発言でセツナとレイナが手を挙げる。
「はい!レイナちゃん!!」
「わたくしはセツナさんがいいと思います」
「その理由はっ!?」
「セツナさんはルールに則って勝負を展開するからです。アリサさんには悪いのですがわたくしはセツナさんに1票です」
アリサはほっぺを膨らませながらも議論を続ける。
「う〜、なるほど。では次、セツナ!」
「おう、私はレイナがいいと思う」
「その理由はっ!?」
セツナは声のトーンを下げて言う。
「レイナはお嬢様だからズルとかしない、というか知らなそうだから」
「ヒドいっ!セツナヒドいっ!」
「いえいえ、わたくしは気にしませんのでお気になさらず」
「セツナ、いつかレイナちゃんの逆鱗に触れて人身売買されるかもね…」
「ないない。今のはレイナだってジョークだってわかるだろ?」
「ええ。でももし貴女が友達ではなく赤の他人だったとすれば、その発言をした瞬間に内蔵を抉り取っていたかも知れませんね〜」
笑うレイナの顔に影が垣間見えた。
「レイナちゃんマジだよ…!」
「ああ…こいつが空手九段だった事すっかり忘れてたな…」
「っさ、さて!最後にあたしからの意見!」
「お、どっちにいれるんだ?」
「うふふふ」
アリサは一呼吸置いて言った。
「あたしはあたしに入れます!!」
「なっ…!なんだと!?」
「あらまあ」
「ふっふっふー、自分に入れちゃいけないとは言ってないもんねー」
「却下だ却下。自分を持ち上げる奴になんて仕切ってもらいたくないね。よしレイナ、2人でジャンケンに勝った方が合図をかけるって事で」
「了解しましたわ」
「そ、そんなぁ〜!」
セツナとレイナはジャンケンをした。
勝ったのはセツナだ。
「よし、それじゃあいくぞ!最初はグー、ジャンケンホイ!」
アリサはグー、セツナはパー、レイナはパーだ。
「……グー!!」
一瞬の沈黙の後、アリサはセツナの顔面に「グー」を食らわせた。
「ぐほぉっ!……何しやがる!」
アリサはニヤリと笑い、レイナに「グー」を発動した。
パシッ
「…へ?」
レイナは「パー」で受け止めた。
「アリサさぁん…パーはグーより強いんですのよ?」
「あ、えっと、これはその……」
「私に忠告しておきながら自分から墓穴掘りにいきやがったな…」
「それと…目には目を、歯には歯を、と言いますし…グーですわ」
ググググ
レイナの「グー」が発動した。
「ぃい痛い痛い痛い痛い!!レイナちゃん後出しだからっ!痛い痛い痛い痛い!!」
「そういう問題じゃねーよ」
「この辺で許しておいてあげますわ。うふふふ」
「すみませんでしたっ……痛い〜…」
「レイナって握力いくつだっけ?」
「以前測った時は62kgでしたわ」
「おうおう、こりゃまたすげえ数字だな」
「手加減はしましたわ。友達に本気で暴力を振るうわけありませんわ〜」
「それはどうも……」
「よしアリサ買ってこい。私は焼きそばパンな」
「わたくしはクリームパンで」
「はーい…」
アリサは購買まで歩いていく。
「すみません、焼きそばパン1つとクリームパン1つ、それからジャムパン1つお願いします」
アリサは購買のおばちゃんに600円を支払った。
「ううっ…なんでパン1つが200円もするんだろう…」
アリサは教室に戻るとセツナとレイナにパンを投げつけた。
「くれてやるぅ!!ふんっ!ふんっ!」
「おいこら投げるな」
「ではいただきますわ」
アリサがイスに手をかけようとした時、アリサは躓いてしまった。
「うあああっ!!」
ベシャ、という生々しい音と共にアリサはジャムパンを下敷きにして顔面から転けた。
アリサの鼻はジャムパンに刺さった。
「おおう、いろんな意味でジャムってやがる」
「……ううっ、鼻じゃ味わかんない」
アリサが倒れているのを気にしているのかしていないのかレイナはとても笑顔でクリームパンを頬張っていた。