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嫌よ嫌よも好きのうち?

フェンス沿いの草むしり作業が始まって数日たった。

だいぶ辺りは綺麗になった。土も柔らかくしたことだし、第1段階分は確保できたように思う。ヒロトが連日「暇だ~」と言って手伝いに来てくれたおかげで、とてもはかどった。何かお礼をしないとな。


「ヒロト~ありがとうね。これ、ちょっとだけど持って行って。」


私は作業の休憩中に、園芸部の花壇で育てたナスをヒロトに渡した。

ナスって簡単だな。初心者向けと書いてあったのもうなずける。


「お前は近所のおばさんか!!?」

「はぁ?!あやまれ!!近所のおばさんにあやまれ!!良くしてもらったら、何か返すのは当たり前でしょ!!??たまたま今回ナスだっただけで!!?」

「言ってみただけだ。本気にするな。」

「お馬鹿ヒロト!!」


ヒロトの白々しい言い方で、冗談だとは分かっていたけれど、勝手に口が言い返してしまう。これはもう癖になっていると思う。いつか墓穴を掘りそうだ。口はわざわいの元って言うしな。用心しよう。


「ここで作った野菜って、お前が持って帰って食べてるのか?」

「ん~。顧問の先生とか、用務員さん、教頭先生……あと、手入れにたまに来てくれてる人たちとか……かな?に、渡してるよ。」

「俺もその1人か。」

「その1人じゃなかったら何なの??」

「なんかもう、ほとんど部員だな。」

「じゃあ囲碁将棋やめて、うちくる??」

「ん~。それはちょっとな~。」

「なんなの!?何の話がしたいわけ??!!」


今年発足した園芸部。

部員は私1人だが、花好きな先生方や用務員さんの力添えで、規模が大きくなって来ている。サッカー部や野球部も「部活動の一環」として校庭の草むしりをするのだが、その際に園芸部の花壇周りも気にかけてくれている。部活動の垣根を超えてきているのは確かだ。

……ヒロトも現に、所属は違うことだし……。


「あ。」

「どうした?」

「そうか、それがあったか……。」

「お~い。話聞こえてるか~?」


ひらめいたのは良いけれど、需要があるかどうかが疑問だな。

まずはヒロトに聞いてみようかな……?


「ねぇヒロト。もしも『園芸同好会』を作ったら、入ってくれる??」

「同好会?」

「うん。活動は週1くらいでさ、秋になったら芋煮とか、焼き芋するの。さっき、野菜もったいない感じに言ってたけど、これならまんべんなく楽しめる??かと思うんだけど……。」


花壇を指さしながら説明をしたときに、私はしまったと思った。頭に浮かんだ内容をつらつら話してしまった。「また、突拍子もない事を……。」と呆れられたかもしれない。一応この学校には「イラスト愛好会」「天文同好会」があるので、前例がないわけではないのだが……。

そう思ってゆっくりヒロトの顔をうかがうと、意外にも真剣な顔で考えてくれていた。


「いい案かもしれない……でも、それだと……他の奴らに……いい口実を……。」


後ろの方は声が小さくてよく聞こえなかったが、ヒロトもいい案だと思ってくれたようだ。これは早速顧問の先生に相談しよう。


「良かった!同好会を作ったら、ヒロトを会員第1号にしてあげる!」

「は?…なっ……!…………第1号………。」

「さっきから最後の方聞こえないんだけど。」

「いや、なんでもない……。」


ヒロトの顔が、青くなったり赤くなったりせわしない。

とりあえず、ヒロトが入っても入らなくても、同好会は作ろう。部活と兼務できる同好会ならば、入ってくれる人は結構いそうだ。


「家庭科部を巻き込んで、一緒に料理をするとかもいいかも……やばい、夢が膨らむ……!!」

「もう明らかに私物化してるよな。」

「私が部長なんだから文句は言わせない!」

「頼もしいこった……。」


ヒロトに「頼もしい」と言われ、私は上機嫌になった。

もとはと言えば、ヒロトの小さなひっかりから同好会の発案が芽生えたのだ。お礼を言っておこう。


「ヒロト、ありがとう!!ヒロトのおかげだよ!!」


みるみるうちに、ヒロトの顔が赤く色づいていく。


「……さっきから大丈夫?日にやられた?熱射病??」

「日射病だろ。……なんでもない。なんでもないから。」

「そうなの?ならいいけど……。」


ヒロトの体調が悪くなる前に、今日の作業は切り上げた。教頭先生には明日、土の様子を見てもらって、あじさいをいつ植えるか話をしよう。同好会についても案を紙にまとめて顧問の先生に相談して……そんなことを口走りながら、今日もヒロトと一緒に帰路に就いたのだった―――。



*****



季節は秋にさしかかろうとしていた。

用務員さんからもらったバラが咲き始めていた。あまり知らなかったが、バラって春の他に、秋も咲くらしい。多分、手入れをしないといけないのだと思うが……。

何はともあれ、バラが咲くと一気に「花園」感を得られるのはどうしてだろう。

そのバラが咲いている近くで、体操服を着て手入れと言う草むしりに明け暮れる私……。


気分は庭師!!


そう思っていると―――。


「毎日毎日まめだなお前は。」


誰も呼んでもいないのにヒロトがあらわれた。


「何か色んな花が咲くと、気合が入っちゃうんだよね!」

「あぁ……。達成感があるから……かな?」

「なにそれ心理??難しい事はわかんない~。」

「分かってるくせに。」

「ハハハハハ……!」


取り留めない会話をしながら、そう言えばと思い、顔を上げる。


「ヒロト。」

「何?」

「……ごめんね。同好会の会員募集は後期にならないと無理なんだ。」

「え、わかってるけど……何??お前、もう俺を会員にしてるのか。」

「え?!入ってくれないの??!!」


既に顧問の先生に賛同してくれる生徒として名前を連ねてしまったぞ?!他には料理部の子達を誘っているが、貴重な男子として大いに名前を使わせてもらってしまった!!


「もう申請書に名前書いたから!今更いいとか言わせないから!」

「じゃあ何で聞いてきたんだ?」

「え?だって他に男子がいないとつまんないでしょ??」


いくら同じ中学のよしみだとしても、ずっと女子と一緒と言うのは良くないような気がする。現に、料理部の子から「ヒロト君とずっと一緒なの、皆みてるよ?大丈夫??」と気遣われてしまった。校庭の外れだから目立たないと思っていたのに、案外見られていたようだ。ヒロトのことなどどうでもいいのだが、お互いの印象が悪くなってしまうのは避けたい。


「サッカー部の男子も何人か入ってくれそうだから!男子同士で会話も弾むでしょ!?」

「!!!???な、サッカー部だと!!??」

「うん!!……ん??」


何をそんなに驚いているんだろう。

ヒロトはブチブチと、草の葉だけを引きちぎっている。

それ、根っこが取れてないからまた生えてくるんだけど……。


「あ。もしかして苦手な人とかいた??」

「え、あ、いや~……気にするな。」

「気にするなて……行動が怪しいんだけど。」

「あ~もう!!いいんだ!!お前は関係ない。」

「あっそ。」


また不毛な会話になってしまった。

あ~あ、普通に話せたらいいのに。


どうして普通に話す必要があるだろうか??いや、ない。

私は反語で自分にツッコミを入れた。この件に関しては仕舞いにしよう。そう思って草むしりを終わらせる。次に私は、袋をもってマーガレットの種を回収しはじめた。


「マーガレットも枯れたな~。」


ヒロトが話しかけてきたが、無視した。

何となく話をしたくなかった。

それを察したのか、ヒロトも話しかけてこなくなった。

種を回収する手をじっと見られる。

自然と、ヒロトも種を回収し始めてくれた。


「こんなに種があるなら、来年はいっぱいマーガレットが咲くな。」


今取れる分が終わった時、ヒロトがつぶやいた。

それを聞いた私は、言われて気がついた。


「あ。てことは、もうちょっと場所を確保しないといけない??そういえば、繁殖力強いんだった。あ~失念してた~……。」


まだマーガレットは少し咲いている。これも種になったら大変だなと私が思い始めていたら、ヒロトが咲いている花を手おり始めた。1つ、2つ、3つ……。


「ほら。」


ヒロトが手おったマーガレットの花を私の前に差し出す。

突然の謎行動に、私の頭にハテナマークが沢山うかんだ。


「え、何?」

「少しでも種を少なくしないと大変だろ??だったら残りは観賞用にした方がいい。」


今まさに、同じことを考えていたとは。ヒロト、あなどりがたし。

しかし、ヒロトから花束?を貰うのはなんだか気が引けた。

私はマーガレットを受け取った後―――。


プチっと花びらを抜いた。


そのままプチっプチっと抜いていく。いつもなら花びらの順番通りに抜くが、沢山あるので順不同に。順不同なので「すき、きらい」も順不同。


(きらい、きらい、すき、すき、きらい、すき……)


静かに、ゆっくりと、今年最後の花占いをした。

ヒロトはちょっと離れたところで空を見ている。

私の足元が、花びらだらけになってきた。


(すき、きらい、きらい、すき、すき………あれ?)


最後の一枚になった時、私は手が止まった。


(あれ?どっち??どっちで終わればいいんだっけ??)


どっちで終わればいいって、もちろん「嫌い」で終わって良いはずだ。

今までそうだったのだからと頭で思っているのに、手が動かない。


(え??なに??どうしたんだろう??)


金縛りにあったかのように立ち尽くしていると、いつの間にかヒロトが近くに来ていた。


「どうした?」


問われても、うまく声が出てこない。

私はヒロトを振り返ることなく、最後の一枚をずっと見つめた。

私はだんだん、頭から火が出そうだった。

挙動不審の自分を見られて恥ずかしくなった。

最後の1枚に何を戸惑って……。

どうしたらいいのか心底わからなくなってきたとき、ヒロトが花びらに手を伸ばしてきた。


プチっと最後の一枚を引き抜いたあと―――。



「すき。」



え?



最後の一枚をヒロトに取られてしまった。しかも勝手に「すき」にされて……。

顔が一瞬で熱くなった。

ばっっ!とヒロトを振り返り、花びらを持つ手に飛びついた。

ヒロトはひょいっと私をかわす。


「な……ばか!!返して!!」

「何を?」

「え?な……え??」


ほんとに何を?

その花びらを取って、何が変わるの??

そう思って気づく。


(え?……変わらないの?!!?)


「え……うえぇぇえええ???!!??」


何とも奇妙な声が自分の口から発せられた。

ヒロトが私の顔を見てニヤニヤしている。

何て憎たらしい笑顔だ。腹立たしい!

私はヒロトをじと目で睨んだ。

奴は何食わぬ顔でマーガレットを1つちぎる。

ずいっとマーガレットを持った手が私の前に伸びる。


「好きだよ。」


花から視線を上げると、真剣そうなヒロトの顔が目の前にあった。


「お前の事が、好きだ。」


真っ直ぐなヒロトの視線に、目がそらせない。

あまりにも突然の事で、呼吸が苦しい。


「え……あ……あの……。」


か細い声しか出てこない。

見かねたヒロトが更にたたみかけてきた。

花びらを摘まんで―――。


「俺はお前の事が、すき」


プチっと花びらが抜ける。


「すき、すき、すき」


ヒロトの連続攻撃に、私は震えあがった。


「な。ばっ…!やめろぉぉぉおおおおお!!!!!!」

「やめない」

「やめてやめて!!恥ずか死んじゃう!!!!」

「好き、すき…」

「い、いやぁぁぁあああ!!!!止まって―――!!!!!」



その日、私の大絶叫が校庭中に響いたのだった。



*****



結論から言うと、返事は保留にしてもらった。

色恋の「い」の字も分からないのに返事をしても仕様がない。


「中身がお子様だからな。」


と言ってヒロトは保留を認めてくれたが、何やら「本気を出す」と言っていて、まず初めに―――。


「ユキナ。」


と名前で呼ばれるようになった。

今までずっと「お前」だったのに、名前で呼ばれるととてもはがゆい。

はがゆいを通り越して、調子が狂う。

これってどういう事なんだろう??

まだまだ返事は出来そうにない。





後期になり、「園芸同好会」の会員が募集された。

同好会には他の部活に所属していても入れるので、今まで交流のあった野球部やサッカー部、料理部の子達が何人か希望が出ている。生徒の憩いの場になりつつある園芸部の花壇に興味を持つ人は意外に多く、同好会の人数は思っていたよりも膨らんだ。



それに対し、ヒロトが面白くなさそうな顔をするのだが――――。





それはまた、別の話し。

~あとがき~


ちまちま書いていたのが出来上がりました。


花占いめちゃくちゃやりましたね。懐かしい……。

え?死語??まさかそんな……え?花占い知ってますよね??(汗)

あのプチプチするのって、板チョコ割るのと同じくらいハマりますって!(笑)


最後のネタを書きたくて文章にしたのですが、工程も必要では?と思ったらどんどん長くなってしまいました…。


ヒロトは最後の花びらを「勝手に『好き』」にしたわけではないのですが、ユキナはてんぱってるので気づいてません(笑)あちこちヒロトが慌てているのですが、うまく伝わっているでしょうか?

頭の中にヒロト編はありますが、文章にできるかは微妙です。

タイピングのろいんで…。


読んで下さりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編なのに、 たった数分なのに、 内容が整っていて、物語の結末を読みたくなる・・・ ハッピーエンドも想定内なのに、微笑ましい。 [一言] 素直に良い作品だと思います。 『なろう』作品はどう…
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