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思い立ったが吉日

「すき。……きらい。すき。…きらい。すき。」

「お前。学校の花、勝手にむしっていいのかよ?」

「いいんだよ!ここの花は私が育ててるんだから!!」


ここの花壇を見つけたのは私だ。

入学してすぐの学校案内の際に、校庭の脇にこのうち捨てられた花壇たちを発見した。用務員さんに声をかけたら『昔の園芸部の花壇』だったそうだ。園芸部は部員がいなくなったことにより廃部したらしい。


(ってことは、申請すればここは好き放題できるってこと!???)


思い立ったらすぐ行動。

特に部活にこだわりはなかったので、先生に直ぐ相談。学校が華やかになるとか何とかで、部員数が1人でもあっさり許可が下りた。用務員さんとも仲良くなり、花の種を何種類か頂いた。自分の家からも何種類か持ってきた。花壇は沢山あるので、春・夏・秋・冬で分ける。そっちの方が管理もしやすいし……野菜も植えたいしね。花は咲くから大丈夫でしょ!


雑草を抜いたり、土を柔らかくするために腐葉土をまぜたりするのは大変だったけれど、これも来年の部費の為、部員獲得の為と思えば何のその。ポットで苗は育てていたので、花壇の整備が終わったらすぐ植え替えをした。1年目の夏はひまわり・ミニトマト・なす。初歩中の初歩。ミニトマトはサッカー部に食べられるアクシデントがあったが、なんとか絶滅は免れた。対策として破材をもらい、簡易な『園芸部の花壇』の表示を作った。


「何が『園芸部の花壇』だよ。ほとんど私物化してるだろ。いっそのこと『ユキナの花壇』に改名しろよ。」

「うるっさい!!とっとと消えろ!!」


さっきから突っかかってくるこいつは同じ中学出身のヒロト。

中学の頃、3年連続同じクラスだったため結構仲良くなってしまった。机も近所だったからなおさらだ。

しかし、まさか高校も同じになるとは思わなかった。まぁ、学科は違うから、ほとんど会う機会はないのだが……。


「何なの?暇なの?暇ならそこのスコップとって!」

「あ。はい。」

「…………どうも……。」


こいつはいつもそう。

ひやかしに来たのかと思えば、今みたいに素直に言う事を聞いてくれる。なんて扱いに困る奴なんだ。全くもって不愉快だ。


「さっき何で花占いなんかしてたんだ?」

「え?あぁ……。」


せっかく育てたマーガレットなのだが、大量に咲いたことだし、何となく……やりたくなってしまった。マーガレットは恋占いの花でもあるから。


「特に意味はない。」

「………そっか。」


ヒロトの顔がムッとしている。

熱いのだろうか??もう夕方だからそこまで熱くないとは思うけれど……。

私は、雑草を肥料づくりの箱にぶち投げ、スコップを事務室に返しに行く。


「何で着いてくんの??」

「え?遅いから一緒に帰ろうと。」

「はぁ!?何歳だと思ってるの!??1人で帰れ!!」

「ばっか…!お前が1人じゃ危ないからだろ!!」

「何言ってんの?!今まで1人で帰ってますから!!」


確かに今日は油断した。日が落ちるまで作業をしていたら、いつもより時間が1時間遅くなってしまった。夏は本当に日が長い。

これくらい大丈夫だと言ったのだが、結局ヒロトに押し切られてしまった。だいぶ生徒は帰っているから目立つことは無いだろう。そう思うとタガが外れ、ついつい中学のノリで話し込んでしまった。あっという間に時間は過ぎ、気が付けば降りる駅に到着していた。



*****



ぷちっ…ぷちっ…ぷちっ…。


「今日は何の占いをしてるんだ??」


声がした方に振り向けば、ヒロトがいた。

別段何かを占っているわけではないけれど……。


「私がヒロトをどう思っているか。」


私はニヤッと口角が上がるのを感じた。

ただのひらめきだが、いい案だ。採用だ。


「へ~。で、どうだったんだ??」


私は「ふふふ」と笑みがこぼれた。素直に「どう?」と聞くとは面白い。


「嫌いに決まってるでしょう??」


目の端でチラッとヒロトを見てみると、彼はきょとんとしていた。そして「へ~。嫌いかぁ……。」と言いながらマーガレットを1つちぎる。


「じゃあ今度はこれでやってみて??」

「はぁ??なんで私がやらなきゃいけないんだよ??」

「じゃ、いいよ。俺がやるから。」


え?なんでヒロトがそんなことするの??

私が疑問に思っている間にヒロトは花占いをしていく。


「―――すき。きらい。すき。きらい……。」


私はヒロトの手元をのぞいた。

逆算すると、『好き』で終わるコースだった。

花びらが残り2枚になった時、私はマーガレットを奪い取った。


「何するんだよ!」


ヒロトが抗議の声をあげたが気にしない。

私は残り2枚の花びらを一緒につかみ、同時に引っぱった。


「きら~い!運命は変わりませ~ん!!」


ぽいっとマーガレットを投げると、ヒロトが静かに笑っていた。


「お前……たかが花占いなのに……意識しすぎじゃね??」

「意識の問題じゃないから。」

「じゃあ何の問題??」


ん?改めて聞かれると何だろう??

でも、なんだか嫌だったのは確かだ。


「乙女の問題です~。」


こんな時は、必殺『乙女の問題』で乗り切る。

なんて乙女の問題は使い勝手が良いのだろう。この言葉を考えた人は天才だな。

そう思っていたら、ヒロトが腹をかかえて吹きだした。


「バッッ……カかお前?お前のどこが乙女だよ!??」

「はぁ??花を愛し、育むこの私のどこが乙女じゃないって??!!」

「その言葉遣いの時点でアウトだな。」

「……むかつく。やっぱりヒロトきらい。とっとと帰れ。」


全く。花も恥じらう乙女に何たる言い草だ。

私はジョーロを持ち上げ、事務室に返却しに行く。


「着いてくんな。ばかヒロト。」

「今日も暗いから、一緒帰るぞ。」

「知るかそんなもん。1人で帰る。」


ジョーロ返却の後、私は教室に荷物を取りに行った。

昇降口に戻ると、ヒロトが下駄箱の前で待っていた。


「何してんの?!」

「待ってただけだけど?」

「待たせた覚えないけど?!」

「勝手に待ってただけだ。」

「きも!!なに勝手に待ってんの!?マジ帰れ。」

「きもいとかいうな。失礼だぞそれ。」


う。勢いで言ってしまった。「キモイ」って逆に言われたら、きついんだよな……。


「ごめん。失言だった。」

「うん。さ、帰るぞ。」

「だから何で!」

「あ~もう電車乗れなくなる。」

「あ!それは困る!!」


私は急いで靴を履いて、下駄箱から飛び出した。

この1本をのがすと、次は30分と開きがあるのだ。これは地味に痛い。早歩きどころか走らないと間に合わないかも……そう思っていると、隣に影が……。


「……なに一緒に走ってんの……。」

「俺も同じ電車に乗るし。」

「別の道行くとかしてよ。」

「このルートが一番近道だろ。四の五の言うなよ。」

「信じらんない……。」


結局今日も一緒に帰る感じになってしまった。電車の中では単語帳を開いてやり過ごそうと思っていたのに、いつの間にか問題の出し合いになった。


(明日は、つかまる前に帰ってやる!!)


私は密かに決めたのだった。



*****



しかしそれは直ぐに破られる。


「何してんのよ……。」

「なにって、草むしり??」


まさか始めから居るとは思わなかった。


「囲碁将棋部はどうした……。」

「大会終わったから、暇なんだよな~。」

「暇人おつ。帰れ。今すぐ帰るんだ。」

「暇だから草むしってるんだよ~。」

「えぇ??……じゃあせっかくだから、こっちやって欲しい。」

「いいぞ~。暇人だからな~。」

「…………。」


(暇ならいいかな?………ん?いいのか???)


うまく誤魔化されている気がしないでもないが……本人が『暇』で『草むしりたい』って言うなら有効活用してやろう。

私はヒロトをフェンスそばに連れて行った。


「ここ、花壇じゃないけど、何かすんの?」

「するから草取りたいんでしょ?!」

「だからどうするんだって聞いてるんだろ?」


毎度おなじみ『不毛な会話』。

通じてるんだか、ないんだかよく分からない。


「実はね、教頭先生が家のあじさいをくれるって!!」

「は?植え替えするのか??」

「いやいやいや。私もびっくりしたんだけど……。」


あじさいは『挿し木』で簡単に増やせるらしい。葉を切ったり、いろいろ工程はあるらしいが、慣れれば超簡単との事。私が本格的に花を育てているのを見て、教頭先生が梅雨ごろには用意をしてくれたようだ。なんたるご好意だろう。この機会を逃してはならないと直感した。上手く根付いたら、来年は直にご教授を貰う予定だ。……教頭先生が異動しなければの話しだが……。


「と言うことで、場所を確保したいと思って。10年後の事を考えると、フェンス沿いにダダダ――――と並んでたら綺麗じゃない??」


しかも品種が「てまりてまり」とか言うかわいいあじさいなのだ。あぁ……今から楽しみだ……。私が脳内で完成図を描いていると、ヒロトがポツリと言った。


「……いいな、それ。」

「でしょでしょ!!!」


今まで惰性でしか活動していなかったであろう「園芸部の花壇」が、私の代で大きく生まれ変わるのだ!!

なんて壮大な計画!!さすが私!!

ヒロトもこの壮大な計画におそれいったか!!

そう、思っていたのに―――――。


「かっこいいな。」

「………え?」


かっこいい??

私は困惑した。「来年が楽しみだな」とか、「フェンス沿い全部するのかよ、果てしな~」とか馬鹿にするとか、そんな反応を期待していたのに、まさかの「かっこいい」。

どうしてヒロトはそんなことを思ったのだろうか。


「なに?どうしたの??なんか悪いもの食べた???」

「お前はどうして空気を読まないかな……。」

「いやいや、ここでセンチになる理由が分からない。」


ヒロトが私をじっと見つめてきた。

私はなんだかそわそわした。耐えきれず視線を逸らす。

いったいどうしたんだろう??


「卒業してもさ、自分がいたあかしが残せるなんて……何かいいよな……。」


ヒロトが真面目なことを言った。

ふと視線を上げると、そこにはいつもと違う表情の彼がいた。

私はこの空気が、なんともムズムズした。

耐えられそうになかった。


「入学して数ヶ月なのに、もう卒業とか!!受けるんですけど!!」

「お前……本当に空気ぶち壊す天才だな……!」

「ありがとう!!……しんみりはどうも苦手みたい。」


私はヒロトの顔をまじまじと見た。

ヒロトの顔が、みるみる赤くなっていく。


「お前が……10年後とか言うから……。」

「え。あ……確かに言ったね。」


私達はお互い視線をそらした。

何か話す事もなく、しばらく黙り込んだ。


(おかしいな。)


心臓がやけにせわしない。

ヒロトが柄にもない事を言うものだから、ちょっとビックリしただけだと思うけれど。

そう。いつもと違う、雰囲気で……。


ドキドキドキドキ。


「おかしいな」

「何が?」


おかしい。私の心臓落ち着いて。

こんな時は無心になるのが一番だ。……でもどうやって??

「考える人」のように手であごを支えてみる。


(落ち着け。落ち着け。平常心だ。心よ……無になれ……!!)


何かいい案はないかと思案していると――――

ふと、視界にマーガレットが飛び込んだ。


(――――そうだ!)


私はマーガレットを1つ折り、花びらを掴んで言った。


「きらい!」


その後も念仏のように「きらいきらいきらいきらい……」と花びらを摘まんでは言い続けた。

最後の1枚も思いっきりひっぱり、大きな声で「きらい!!」と叫んだ。気が付けば、あれほどうるさかった心臓は落ち着きを取り戻していた。

危ない危ない。破裂するところだった。難を逃れた。

私が安堵している先で、ヒロトが微妙な顔をしていた。


「……何か地味に痛いな。それ。」

「?何か言った?」

「なんでもない」

「へ~んなの!!」


さっきの変な空気もどこかに行ったようだった。

私とヒロトは何事もなかったかのように、作業をはじめた。

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