09 訓練と反逆と
英知は宮殿の一室で、
スマホに新しく登録した連絡先を見ていた。
スマホの画面には、他の天使名と並んで
コタエルと表記されている。
何か困った時に助言を貰おう、と企む英知だった。
連絡先も増えてきた。用途としては
モエル → 交友
テツダエル → スマホの機能拡張
ムカエル → 宮殿への送迎
コタエル → 知恵袋(予定)
という感じか。
スマホから目を離すと、部屋入り口に人が立っていた。
中性的な顔だち、胸は平坦。男性だ。
天使ではないので、輪も翼もない。
不老人間のカナエルだ。
この部屋には、テーブルとベッドがついている。
カナエルの部屋として新設されたものだ。
天使ならば睡眠を取る必要はないが、
人間となったカナエルはそうもいかない。
カナエルは自室に入ってきた。
「それがスマホですか。私も自分の物がほしいです」
「天使の誰かに伝えれば、支給されるんだろうけど
誰がスマホを量産してるんだろうね?」
英知が疑問を口にする。
「おそらくフエルでしょうね。後でお願いしてみます」
カナエルが口を閉じる。
時を同じくして、天使達の頭にテレパシーが轟く。
(これより臨時訓練を開始する。全ての天使は、
宮殿裏の空間に集合せよ。
これはエル様のご意思である)
宮殿内の天使達がぞろぞろと宮殿から飛び出し、
指定された場所に集まり始める。
その中に一人、どっかりと腰を下ろして動かない天使がいた。
指定場所へと急ぐ天使が、座っている天使に声をかけた。
「テレパシーが聞こえたでしょう。今すぐ宮殿裏に向かいなさい、
サカラエル」
サカラエルと呼ばれた天使は顔を上げてガンを飛ばす。
「ヘンッ、誰が行くか。エルの意思だろうが知ったこっちゃねえな。
俺を動かしたきゃ、力づくでやってみろよ、シタガエル」
天使のシタガエルは激昂した。
「貴様、エル様を侮辱しますか。
そのような態度だと、近いうちに堕天の対象になりますよ。
よく覚えておきなさい!」
シタガエルは捨て台詞を吐いて立ち去った。
そのうち、宮殿内にいる者はほとんどいなくなった。
「エルだろうがてめえの能力だろうが、この俺には効かねえ。
堕天だと?上等だ」
サカラエルは毒づいた。
一方、宮殿裏に広がる雲に囲まれた広大な空間では
天使達が整列していた。
最前列の更に前、少し高い所にはエルが浮いていた。
「先の対悪魔戦は、皆の記憶に新しいだろう。
最終的に、天使が勝利したが
先発の天使達は苦戦を強いられた。
なぜか?」
エルの言葉に、モエルはギクッとした。
エルの言葉が続く。
「一つ、悪魔側が進化した兵器を使いこなしていたこと。
一つ、天使達の平和ボケ。
これらが主な原因だ。
そこで、我が天使達にはある程度鍛えてもらう。
必要なら、最新の武器も与えよう。
キタエル!」
エルの呼び出しに応え、キタエルがエルの隣に並ぶ。
「このキタエルの指導の元、合同で戦闘訓練を始める。
なお、これ以降は抜き打ちで訓練をするので
気を引き締めよ」
エルが締めくくる。
そして、広い空間では天使達の訓練が開始された。
天使達の大半は、配布された拳銃を装備していた。
悪魔達の所持していた銃を模倣された、
弾丸が尽きない銃だ。
天使フルエルは、拳銃を持つと体が震えて危ないので
聖剣を得物とした。
マジエルは、長剣のほうが扱いなれているので
やはり長剣を武器に選んだ。
あちこちで鳴り響く銃声。
弾丸を受け、負傷した者は、イエルによって手当てされた。
宮殿内では。
「おっぱじめやがったな。騒がしい」
サカラエルが同じ場所で座り込んでいた。
「エルを恐れぬその態度。見どころがあるぞ」
どこからともなく声がしたかと思うと
黒い霧状のものがサカラエルの背後に現れた。
「なんだ?てめえは」
「ワシの名は ブ 。悪魔の首領をしていた者だ。
貴様、悪魔になる素質があるぞ。
こちら側に付かんか?」
悪魔 ブ が囁く。
「悪魔か、悪くねえ」
「そうか、それでは早速悪魔になって貰おう」
「だが断る」
サカラエルの言葉に、ブ は驚く。
「悪魔になるってことは、てめえの部下になるんだろ?
この俺、サカラエルはなあ、
誰からの命令も受ける気はねえんだよ!」
「チッ。まあ良い。シタガエルという使えそうな者も見つけたし、
ここらで退散するとしよう」
ブ はそう言い残すと、霧が晴れるように消えてしまった。
「宮殿に悪魔が入り込んでたのか。
エルに黙ってた方が面白そうだな」
サカラエルはほくそ笑む。
カナエルの部屋では。
「宮殿内が静かになった気がします」
「そうかなあ。俺にはよく分からないけど」
カナエルと英知が話し込んでいた。
急に廊下に物音が増えた。
ぞろぞろと天使達が廊下を歩いていく。
その中にいたモエルは、英知達を見つけると、部屋に入ってきた。
「英知、カナエルの部屋にいたのね」
「何があったの?」
英知が尋ねる。
「戦闘訓練よ。これからは不定期でやるんですって。
ああ、憂鬱だわ」
「私は天使から外れたので、呼ばれなかったのですね。
私も参加したかったです」
「人間がいても足手まといなだけよ。大人しくしてなさい、
カナエル」
そんなやり取りを聞いて、英知は大変だな、と
他人事のように思った。