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08 昔話



英知(えいち)は、宮殿にある図書館で、漫画を漁っていた。

漫画に限って言えば、品揃えは下界にある図書館と大差ない。

つまりは、ほとんど置いていないのだ。

漫画を無料で読み放題という英知の目論見は外れつつあった。

やっとの思いでシリーズ物を一つ見つけたが、

それは英知が既に持っている漫画だった。

ふう、と英知はため息を吐く。

ん?

読み飽きた漫画本の隣に、妙なタイトルの本があり、

英知の目に留まる。


カナエルの軌跡


これは、天使関連の本だよな?

英知はその本を手に持って読み始める。

漫画ではなく、文章だけの本だ。



これは、失われた天使カナエルに関する記録である。

ある日、カナエルは曲芸飛行を楽しんでいた。

その無茶な飛行が災いして、カナエルは宮殿の壁に衝突。

両翼を折ってしまった。

懸命にもがくも、下界にゆっくりと落ちていくカナエル。

他の天使達が、カナエルの不在に気付いたのはそれから

7日後だった。

千里眼使いのミエルによって、カナエルは直ちに発見され

翼の怪我を癒すためにイエルが派遣された。


カナエルは下界の民家に匿われていた。

大層大事に扱われたらしく、カナエルと人間は親しくなっていた。

イエルによって翼が治っても、カナエルはちょくちょく

下界に(おもむ)き、人々と交流していた。


カナエルが下界の人間を、宮殿に運び入れることもあった。

人間には、カナエルを助けた恩があるので

宮殿で丁重にもてなされた。

そうして、天使と人間の交流も増えていった。


だが、良い人間もいれば、悪い人間もいる。

欲深くなった人間達は、天使達を都合の良いようにこき使うようになった。

天使達は人間に嫌気が差し、人間との交流をやめてしまった。

しかし、カナエルだけは、健気に人間と交流を続けていた。

そのことが、カナエルにとって取り返しのつかない

事態になることも知らずに。


人間の村では、ひでりにより農作物が壊滅的打撃を受けていた。

人々は飢饉と年貢に苦しんだ。

人々はもはや、神にすがるしかなかった。

人間は、カナエルを通じて、エル様に雨を降らせるように頼んだが

エル様が雨を降らせることはなかった。

私如きには、エル様の深いお考えを理解することなど出来ない。


カナエルを助けた人間も、ひでりの被害を受けた農民だった。

カナエルは、決断した。

エル様に代わって人間達を助けると。

カナエルには、大きな能力が備わっていた。

たった一つ、願いを叶えるというものだ。

カナエルは、自らの能力を用いて豪雨を呼び、

人間達の農地に恵みの雨をもたらした。

次の年から農作物は豊作となり、人々の飢饉も収まった。

だが、カナエルの強い能力には、それなりの代償があった。

能力を使ってしまうと、カナエル自身が消失してしまうのだ。

死とは異なる、完全なる消滅。

それは、たとえイキカエルといえども

カナエルを復活させることは叶わないのだ。


こうして一人の天使が永遠に失われた。



気が付くと、英知は本を読み終えていた。

消滅した天使、カナエル。

少し可哀そうだ。なんとか出来ないものか。

母が毒キノコに当たった時の感情が思い出される。

消滅を取り消すことのできる者。

思い当たるのは、強大な力を持つ(エル)くらいだ。

勇気を出して、直訴してみるか?

英知が悩んでいると、一人の天使が図書館に入ってきた。

英知に近づいてくる。

英知はスマホアプリで、天使の情報を確認した。


名前:コタエル

力:エル様の知りうる範囲で、何でも答えられる。


「初めまして、英知さん。

 私は知識の天使、シリエルの補佐をやっております

 コタエルと申します」


「どうも、コタエルさん」

二人は言葉を交わす。


「貴方はカナエルを復活させるために、

 エル様にお願いをするおつもりでしょう。

 その行為は大変な危険を伴います。

 代わりにシリエルの所に来て下さい」


「俺の考えていることまで分かるのか」

英知は驚いた。

「分かった。シリエルさんがなんとかできるなら

 ついて行く」


英知はコタエルに案内され、図書館を出て

何度も通路を曲がり、シリエルの部屋まで来た。

自動ドアが開くと、そこには天使が二人いた。

スマホアプリで確認。


名前:シリエル

力:膨大な知識を持つ。


名前:オシエル

力:エル様の知りうる範囲で、物事を教えられる。


「初めまして、英知さん。

 私はシリエルの補佐の一人、オシエルです」


「どうも、オシエルさん」

オシエルと言葉を交わす。

そして肝心の天使、シリエルは押し黙ったままだった。

「シリエルさん、相談したいことがあるんだけど、いいかな?」

英知が話しかけるも、沈黙で返される。

「シリエルは無口ですからね。なので私達が補佐している訳です」

とコタエル。

「じゃあコタエルさんでいいや。カナエルを復活させる方法ってある?」

「方法はあります。しかし、エル様の許可が降りないでしょう」

「神様はなんでカナエルの復活に反対なの?」

「カナエルが復活すれば、また力を行使する時が来るでしょう。

 カナエルの力は強力すぎました。

 その力を、精神的に未熟である人間に悪用させてはならない、

 とエル様はお考えのようです」


むむむ、と英知は考え込む。

そしてちょっとしたアイデアが閃いた。

「カナエルの能力だけ封印とか、出来ないかな?」

「方法の一つとして、堕天させる、というものがあります。

 堕天すると、名前の一部『エル』をはく奪され、

 能力が使用出来なくなります。

 更に、天使は悪魔に変化してしまいます。

 悪魔になると、宮殿を追放され、精神も悪に染まってしまいます。

 また、堕天にはエル様の許可が必要なのです」


また神様の許可うんぬんか。

ん?待てよ?

英知はまたアイデアを話す。

「堕天が駄目なら、人間か何かにしてしまえば?」

「カナエルとは異なる存在になりますが、一応可能です。

 しかし、そこまでして復活させる意味があるのでしょうか?」


「きっと必要だと思うな。出来るんならやってみようよ」

英知はコタエルから、カナエル(仮)復活の方法を聞いた。


コシラエルとツタエルに連絡を入れ、連れてきた。

コシラエルが、人間の体を先に創り、

コタエルが持つ情報をツタエルがコシラエルに転送。

人間の頭脳に、当時のカナエルの記憶を入れる。

あっという間に、カナエルの記憶を持った不老人間の出来上がり。


カナエル(仮)が目覚めると、立ち上がって英知に礼を言う。

「英知様、ありがとうございます。おかげ様で

 完全ではないですが復活できました」


「うん、良かった良かった。ところで、

 これで神様の怒りを買ったことにはならないよね?」


「大丈夫です。問題ありません」

とコタエルが太鼓判を押す。


自力では何もしていないのだが、英知はちょっといいことした

気分になった。



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