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07 蘇生



英知(えいち)の自宅。

英知は、父と母との三人で、夕食のキノコ鍋をつついていた。

母が、山菜取りに行った知人からキノコを

おすそ分けして貰ったのだ。


食事の最中、母の箸が落ちた。

「おい、どうした!」

父が呼びかける。

母は仰向けにバタンと倒れた。

「しっかりしろ!英知、119番だ!」

「う、うん!」


母は救急車で病院に運ばれていった。


病院の長椅子に、英知と父は座っていた。

医師と看護士が、二人に近づいてきました。

「先生!妻は」

「残念ですが、病院に搬送されたときにはもう」

医師は首を横に振った。


父は両の拳を壁に叩きつけ、泣いていた。

母さんが。そんな。まさか。

英知も涙が止まらなかった。


真っ白になった頭の中に、やがてあるイメージが湧いた。

無機質な輪に白い翼をもつ天使。

英知は我に返ると、病院の外に飛び出した。

外の冷たい風に当たりながら、スマホを操作する。

モエルの連絡先を選択し、電話を掛ける。

3コール目でモエルにつながった。

「英知ね。また遊びに来たくなった?」

「母さんが、母さんが」

「えっ何?何かあったの?」

英知は言葉に詰まりながら、自分の母親が亡くなったことを

モエルに伝えた。

「お気の毒にね」

会話が途切れ、少しの間静寂が訪れる。

「それで、英知はどうする?」

「どうって、どうにか、できないかな?」

「?」

言葉足らずで、モエルに伝わっていない。

英知は押し寄せる感情に抗いながら、なんとか

言葉を紡ぎだした。

「母さんを、元通りに」

「死者を蘇らせるのは、下界の生態系がめちゃくちゃになるので

 あまりやってはいけないのだけど、

 英知の大切な人だものね。何とか頼んでみるわ」


母さんが生き返るかもしれない。

そう思っただけで、英知の強い悲しみが徐々に薄れていく。

「あ、あり、がとう。場所は」

「場所ならミエルに教えてもらうから、いいわ。

 天使を派遣するから、そこで待っててね」


電話が切れた。

英知は病院内に戻ると、看護士に母の遺体がある場所を

教えてもらった。

霊安室という所に、母は運ばれたらしい。

看護士の案内を受けて霊安室に入る。

室内には眠るように安置されている母の遺体と、

座り込む父がいた。

気まずい。

30分は経過しただろうか。

廊下側から、誰かの足音が聞こえてくる。

扉が開いた。

英知と父が、入ってきた人物を見る。

一人の天使。

英知はスマホで天使の情報を得ようと思ったが、

病院内でスマホの使用は禁止されているのを思い出した。

「失礼ですが、どちら様ですか?」

父が胡散臭げに天使を見て尋ねる。

「私はイキカエルと申します。英知さんのご家族を

 蘇らせに来ました」


父は、何言ってんだこいつ、と言いたげな顔になった。


「父さん、俺がその人を呼んだんだ」

英知が説明する。

その隙に、天使イキカエルが母の遺体に近づく。

「ちょっとあんた、何するんだ!」

父が憤る。

「父さん、ちょっとだけ見守ってあげてよ。頼むよ」

英知が宥める。

イキカエルが目をつぶって呟く。

「死因は毒キノコですか。ではそれを食べる前の状態に」

イキカエルが淡い光に覆われる。

その時、死んだはずの母がゆっくりと上半身を起こした!

「あれ?わたしはキノコ鍋の具を箸でもって」

母はちょっと考え込む。

「だめだわ。そこから記憶がない」

「母さん!」

英知が母親に抱きつく。

「あら英知。それにお父さんも。ここはどこかしら?」

驚いた表情の父が、はっと我に返る。

「お前!無事だったのか!

 医者が首を振るからてっきり」


「随分心配かけたみたいね。でもお母さん、大丈夫だから」

家族三人で喜び合う。

イキカエルは、既に部屋を出ていったようだ。

「ありがとう」

英知は扉の方向にお礼を言った。



二日後。英知は宮殿のカラオケボックスに招かれていた。

英知の他には、モエル、イキカエル、ムカエル、

カエル、そしてウタエル(アプリで判明)がいた。

「英知のお母さんの回復を祝って、乾杯!」

モエルがそう言って、コップを掲げる。

「乾杯!」

一同が声を揃える。コップを軽くぶつけ合う音が響く。


「では」

ウタエルがマイクを取る。

「一番、歌声の天使、ウタエルが歌いまーす!」

♪♪♪♪

なんだか、高貴なるものが窓辺から旅立つような感じの曲だった。

他の天使達から喝采が上がる。


「まだまだ行きますよ!」

ウタエルが連続して二曲目を歌う。

♪♪♪

ゲームに出てくる、いわゆるバーチャルアイドルが歌っているような曲。

他の天使達も盛り上がる。


続いて、三曲目のイントロが流れる。

こ、この曲は。

誰もが知っていると思われる、童謡。

カエルがマイクに取り付く。

やっぱりお前か。と英知は心の中で突っ込む。

「貴方たちもカエルにして差し上げるケロ!」

その一声で、英知と天使達は皆カエルに化けた。


ケロケロケロケロケロケロケロケロ

ケロッケロッケロッ!


騒いでるのか輪唱してるのか分からないカエル達の鳴き声が

カラオケルームを満たす。


曲が終わった頃、皆の姿がボンッと音を立てて元に戻る。

やっぱりこのカエルはヤバい。と思う英知。

こうして、カラオケ大会は3時間も続けられたのだった。



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