06 大浴場
英知は宮殿内の、甘味処に来ていた。
天使は食事を摂らなくても平気だそうだが
食べ物を食べられない訳ではないし、嗜好品として
食事を嗜むことも覚えたらしい。
英知は一人でジュースを啜っていた。
たまには一人で宮殿内を歩いてみるのも悪くない。
英知はスマホを手に持ち、例のアプリを起動した。
ちょうど甘味処を出ようをしている天使を画面に収める。
「うわっ!」
ガタンッ!
姿勢が悪い状態で座っていたのが災いし、
英知はバランスを崩し、椅子ごと後ろに倒れた。
衝撃でコップが倒れ、英知はジュースを被る。
「大丈夫ですか?」
先ほどスマホに映した天使が英知に近づき、助け起こす。
スマホには、
名前:マジエル
力:剣術での防御を得意とする。
と表示されている。初対面なのでマークは無い。
「どうも、マジエルさん」
英知は軽く礼を言う。
「服がベタベタですね。大浴場に行って
洗い流してきてはどうでしょう。
その近くに全自動洗濯機もありますし」
マジエルが提案する。
「じゃあ、行ってみようかな」
英知は軽い気持ちで決める。
英知は大浴場入り口で足を止めていた。
入り口が一つしか見当たらない。
男湯、女湯、などに分かれていないのだろうか?
英知は躊躇していたが、意を決して入り口に入った。
英知は汚れた服を脱ぎ、洗濯機の中に放り込む。
ここでは予備の服も貸し出しているようだ。
それなら洗濯物が乾くまで、服を借りていれば良い。
英知は残りの服を脱ぎ、脱衣かごに入れた。
スマホとタオルを手に、いざ大浴場へ。
ちなみにスマホは防水加工なので問題ない。
シャワーが何十ヵ所と備え付けられており、
更に奥には広い浴槽が見える。
浴槽には、天使が三人浸かっていた。
スマホアプリで確認。
名前:カマエル
力:構えのポーズをとる。
名前:カゾエル
力:たくさんの物を瞬時に数えられる。
名前:モチコタエル
力:耐久力が高い。
全員初対面だ。
ジュースでベタつく体を石鹸とシャワーで
よく洗い流し、浴槽に入る。
浴槽を見渡すと、翼と輪のついたカエルが泳いでいる。
スマホチェック。
名前:カエル
力:何でも変身させる。
すごく、そのまんまです。しかし能力がヤバげだ。
関わらないほうが身のためだろう。
「貴方はスマホを持ったまま風呂に入るのですか?」
カマエルが話しかけてきた。
「ええ、まあ。便利なアプリの実験もかねて」
「そのアプリを見せて貰えませんか?」
一分後。
「ここの皆さんは悪魔討伐に参加していたんだね」
「そうです。激しい労働をしたので、風呂に浸かって
体を清潔にしようと思いまして」
英知と天使三人は対悪魔戦の話で盛り上がっていた。
「他には誰が参加していたの?」
「後はモエル、ヒエル、アラソエル、イキタエルです」
モエル!
英知の心拍数が上がった。
天使三人の行動原理からすると、モエルが大浴場に
入ってくる可能性も十分ありうる。
その時、一人の天使が広い浴室に入ってきた。
モエルではなかった。
アプリチェック。
名前:ササエル
力:重い物を下から支えて運べる。
英知はアプリの情報よりも、その身体に目が行った。
顔は中性的。胸は平らで乳首なし。へそなし。
股間には何もついていない。
まるで肌色の全身タイツを着こんでいるような体だ。
大浴場が一つしかないわけだ。
天使には男、女の概念は無いのだから。
「そろそろ上がるね」
英知は少しだけがっかりしながら浴室を後にした。
洗濯は完璧に終わっていた。
服もしっかり乾いて、しわがない。
なんという高性能洗濯機。
英知は仕上がった服を着て、大浴場から出た。
宮殿の出入り口に向かって歩いているところで
モエルと遭遇した。
モエルの左肩と腹部の服が破れて、へそが見えている。
「やあ、モエル」
「あ、英知。来てたんだ」
「その服どうしたの?」
「これね。悪魔との闘いで傷を負っちゃて。
傷は治してもらったんだけど、服は破けたままなのよね。
後でヌエルあたりに直してもらおうかしら」
モエルと別れて、宮殿入り口まで来る。
モエルにはへそがあった、ということは。
おっと。これ以上いけない。
英知は煩悩を頭から振り払った。
己の股間が反応するところだった。
「ムカエルさん、家までお願い」
「英知様、何か良いことでもございましたか?」
「いや、何もないよ」
英知は少し顔を赤くしながら答えた。