05 悪魔の軍団
ある島国の地下深く。
光の入らない暗黒の世界に、大勢の者がうごめく。
それらの首領は、黒い集団の中でもとりわけ異様な姿をしていた。
雄ライオンの頭に、山羊の足が放射線状に5本生えている。
黒い姿の集団に、その首領が咆える。
「時は来た。憎きエルに復讐を、取り巻きの天使どもには死を!」
黒い集団がウォォォと呼応する。
英知はテツダエルから、一つのアプリを送って貰った。
アプリを起動して、スマホの画面に天使を映すと
その天使の名前と、固有能力の説明が表示されるのだ。
更に、英知が一度会ったことのある天使には
スマイルマークが小さく表示される。
天使は(英知にとっては)大半が同じ背丈、同じ顔で区別がつかないので
このアプリは非常にありがたかった。
さっそく宮殿へ行ってアプリを試してみたかった。
天使への連絡先は3つに増えていた。
モエル、テツダエル、と新たに増えたムカエル。
英知はムカエルへ電話をかけた。
「もしもし、ムカエルさん」
「英知様、申し訳ございません。現在宮殿は非常事態でして
英知様を宮殿にお入れする訳には参りません」
「えっ、何があったの?」
「事態が収束し次第、ご連絡させて頂きます。それでは失礼致します」
電話は切れてしまった。
仕方がない。暇つぶしにと、据え置き型ゲーム機を引っ張り出す英知だった。
一方、地下鉄と地上をつなぐ地下通路の最下層。
丈夫なブロックが敷き詰められた床に、ボコッと大穴が開いた。
その大穴から、幾千もの人間大の黒い者達が湧き出し、
地下から地上出口へと向かって飛翔した。
それは、さながらコウモリの大群のようであった。
黒い大群は、地下鉄の地上出口から次々と飛び出した。
そして、黒煙のごとく空高く立ち昇った。
その頃宮殿では。
(悪魔の大群が宮殿に接近中。各自戦闘準備を取れ)
天使ツタエルによるテレパシーが、全ての天使の頭に響き渡る。
「悪魔か。エル様はそんなものはお造りにならなかったはず。
一体どこから湧いてきたのかしら?」
モエルは宮殿の外に急ぎながらぼやいた。
天使が数名宮殿の外に出ると、悪魔の群れが宮殿めがけて
飛んでくるのが確認できた。
悪魔は黒いコウモリの翼に、槍のように鋭い尾を生やしている。
羊のような角を持つ者もいる。
群れの中央には、ひときわ異様な姿をした悪魔が居座っている。
頭だけのライオンに、
山羊の足がいくつか生えたようなおぞましい姿だ。
対する天使達は四名。
モエル、ヒエル、カマエル、そしてカゾエルだ。
「目標確認。悪魔は全部で5011体います!」
カゾエルが大声で報告する。
「数だけでいえばこちらを圧倒していますね。
天使の総数は百体強だというのに」
カマエルが不安げに口を開く。
「量より質よ!私達の力だけで十分だわ」
とモエル。
「せいぜい皆の足を引っ張らないで下さいね」
「こっちのセリフよ」
ヒエルとモエルが言い合う。
「来たようです!」
カマエルの一言で、四人の天使は悪魔の大群に向き直り、突撃した。
戦闘開始だ。
モエルが悪魔の群れに突っ込むと、彼女の視界10メートルの範囲にいる
悪魔達が一斉に火だるまになった。
炎に包まれた悪魔達は次々と墜落していく。
だが、すぐに無傷の悪魔達に囲まれる。
ドンッと音がすると同時に、モエルの頬を何かが掠った。
モエルの頬から血が一筋垂れる。
悪魔達が何かを持っている。
「あれは、拳銃?」
下界の人間が戦闘に用いる武器だった。
「気を付けて!奴ら皆、銃を持っているわ!」
モエルは大声で他の天使に警告する。
「気づくのが遅いわい」
悪魔達の首領、ブ があざ笑う。
「拳銃にマシンガンにライフル。更に悪魔の術により弾丸は尽きぬ。
さあ部下たちよ、奴らを一掃するのだ!」
「次から次へとキリがないわね」
モエルが愚痴をこぼす。
モエルは悪魔を50体近く焼き払っていた。
ヒエルも同じくらい悪魔を氷漬けにしている。
カマエルとカゾエルは、それぞれ悪魔1~2体倒している。
「援軍とか来ないかしら」
モエルが宮殿の方角をチラッと見る。
その隙を突き、二発の弾丸がモエルに直撃する。
「ぐっ、あ、っつ」
モエルの左肩と腹に風穴が開く。
やばい。そう思ったモエルは身を翻し、宮殿に向かい逃走する。
「貴方もやられたのですね。無様ですね」
ヒエルも撤退してきた。左腕と両足を撃たれている。
「敵を侮っていたわ。私達だけじゃ手に負えない」
モエルが悔しそうに言う。
その二人に、更に銃弾のシャワーが襲い掛かる。
その刹那、二人の間を剣で武装した天使が駆け抜け、
向かってきた全ての弾丸をその身に受けた。
キンキンキンッと小気味良い音がして、弾丸は弾き返された。
「後は後続部隊に任せて、貴方がたは避難を!」
やってきた天使が振り返らずに言う。
「モチコタエル!悪いけど後はよろしくね」
モエルとヒエルは宮殿内に逃げ込んだ。
そこには同じく負傷したカマエルとカゾエル、そして
待機していた天使、イエルがいた。
「皆さん、私に触れてください」
イエルが一言いう。
四人の天使は言われた通りにする。
淡い光がイエルの全身を覆った。
モエルの肩と腹の銃創が、見る間に塞がっていく。
他の天使も完全に回復したようだ。
「よーし、リベンジに行くわよ!」
モエルが張り切る。
「その必要はありません」
それをイエルが止める。
「え、だってまだ」
「モチコタエルの他、
アラソエルとイキタエルが参戦しました」
あー、もう勝負ついたわね。モエルは思った。
悪魔達と対峙したアラソエルは腕を組み、悠然としていた。
悪魔達がアラソエルに銃口を向けた。
パンッと乾いた銃声。
その音と共に、頭を撃たれた悪魔が墜落する。
悪魔達は、いつの間にか同士討ちを始めていた。
悪魔達の頭数は、見る間に減少していく。
銃弾を弾き続けるモチコタエルの背後に、天使が一人。
彼 (?)こそ、最凶と名高い天使である。
悪魔達はモチコタエルを討ち取ることは諦めたのか、
モチコタエルは無視して他の天使に気を取られていた。
それが、彼らの命取りになる。
モチコタエルの周囲10メートル以内の悪魔達が一斉に
生命力を失い、墜落していった。
それこそが、モチコタエルの背後にいた天使、
イキタエルの力であった。
「バカな、全滅だと!」
悪魔ブ は驚愕した。
エルへの復讐のために、素質のある人間を悪魔に変質させて
コツコツ兵を集めてきたのに。
「後は貴殿だけです」
長剣を携えたモチコタエルが ブ に近寄る。
「言い残すことは?」
「貴様らの戦い、とくと見せてもらった。次こそは」
ブ が言い終わらないうちに、長剣が
ブ のライオン頭を両断する。
真っ二つになった ブ の体は黒い霧のように拡散して見えなくなった。
「呆気なさすぎですね」
モチコタエルが独り言ちる。
戦いは終わった。天使達は悪魔の死体を残らず回収して
宮殿内で処分した。
「身の程知らずの悪魔どもが宮殿を攻め落とそうとしてきましたが
難なく返り討ちにして差し上げました」
「そんなことが。大変だったんだねえ。
じゃ、明日当たり宮殿に行っても大丈夫だよね?」
ムカエルと英知が電話でやり取りする。
宮殿に平和が戻った証である。